第二百五十八話 ロクなのがいねー
「え……っと……?」
クリスティーナの『私、確実に不幸になるんですけどー』発言に、きょとんとした顔を見せるルディ。そんなルディに視線をチラリと向けた後、アインツが口を開いた。
「それはクリス、あれか? まさか、好きな人と結婚しなかったら不幸になるとか……そういう乙女チックな話か?」
そんなアインツの言葉に、クリスティーナは首を振って見せる。
「いいえ? 乙女チックな話? それこそ『まさか』です。流石に乙女チック過ぎるでしょう、クララではあるまいし」
横に。ルディと同じようにきょとんとした表情を見せるアインツに、クリスティーナはコホンと一つ咳払い。
「……まあ、そうは言ってもアインツの言う事も一理あります。確かに私はルディの事が幼いころから大好きですし、ルディの側にずっと居れれば良いな~という思いはあったりしますよ? あったりしますが……そんな乙女チックな理由だけではなく」
もう少し、現実的な話ですと、こくん、と首を傾げて見せて。
「――私、こう見えて第一王女ですよ? 政略結婚の丁度いい道具じゃないですか? ルディが貰ってくれなかったら、何処にお嫁さんに出されると思います?」
クリスティーナの言葉に、得心がいったのかアインツが『ああ』と頷いて見せる。
「……和平の為の人質か、功労者たる家臣への下賜品か……まあ、後は友好国との一層の友好関係の構築、か?」
そんなアインツにこくりと頷いて見せると、クリスティーナは続いて口を開いて言葉を継いだ。
「概ね、アインツの言った通りでしょうね。敵国――スモロアは戦争状態では無いので、まあ仮想敵国になるでしょうが……仮想敵国との関係性の為にもあるでしょうが……」
そう言ってため息。
「……敵国に人質で行くなんて最悪じゃないです? 少なくとも、幸せな展開になるとは思えませんが? なんというか……ねぇ?」
「……それに関しては何とも言えんが。敵国の王子と王女のラブロマンスだってあるかも知れないだろう?」
アインツの言葉に『はぁ』と大袈裟にため息を吐いて見せるクリスティーナ。
「これだからラージナル人は。良いですか、アインツ? 敵国に嫁いだ王女が幸せな結婚をしました~なんて、ラージナル人のハッピーな頭の中で書かれた演劇の世界にしかありません。現実は何時だって過酷なんですよ。そんなにラッキー展開、まず有り得ません。気を遣って気を遣って……ボカンとなりそうです」
「……まあ、息は詰まりそうかも知れないね」
クリスティーナの言葉にルディも頷いて見せる。そんなルディに、クリスティーナはにっこりと笑って見せて。
「でしょう? 家臣への下賜……というと、人をモノ扱いするなと言いたい所ですが……まあ、私なんて『王女という宝物』でしょうし、モノ扱いは妥当なんでしょうが……」
「……そんな事ないよ。クリスはモノじゃない」
「ありがとうございます。まあ、ルディの気持ちは嬉しいですが……と、この話は止めましょう。本筋では無いですし。下賜品がイヤなら降嫁でも良いのですが、降嫁先も問題になりますよね? あまり低い……言い方は悪いですが、家格の低い家に嫁ぐとパワーバランスが崩壊しかねませんし、口うるさい貴族のお偉方々からどんな文句を付けられるか」
「……」
「嫁ぎ先も嫁ぎ先で気を遣いますよね? なんて言っても第一王女の降嫁ですから。下にも置かない扱いを受けるのなら……まあ、それも気を遣いますけど、まだいいです。変な考え違いをして、『元王女なんて関係ない。下賜された以上、お前は俺のモノだ。俺の言う事を聞け!』みたいな俺様系だったら……」
「……俺様系だったら?」
ルディの言葉ににっこり笑って。
「嫁ぎ先、崩壊に追い込みます。舐められたら全力で潰すのが、スモロア王家なので」
「……怖すぎる」
ポツリと呟いたのはアインツ。彼は知っているのだ。クリスティーナは一度『やる』と言ったらやる女だし……なにより、それだけの能力も持っている女だという事も。
「友好国との関係性に関しても……まあ、お互いに家格も釣り合うでしょうし、そこまで変な扱いは受けないでしょう。受けないでしょうが……」
はぁ、と小さくため息をつき、沈痛な表情を浮かべて。
「――碌な人が居ないんですよね、友好国の跡取りって」
とんでもなく失礼な事を言いだした。




