第二百五十二話 百年の恋も醒めるぞ、ありゃ
「貴方達、私の幼馴染でしょう!? 少しくらいは傷心の幼馴染、慰めてあげようという気は無いんですか!?」
フーフーと肩で息をしながら、アインツとクラウスを睨みつけるクリスティーナ。そんなクリスティーナの姿にアインツとクラウスは視線を合わして――そして、肩を落として同時にため息。
「な、なんですか、その態度!!」
「あんな? そりゃ、俺もアインツから話を聞く前ならお前にも同情するぞ? クリスがルディに猛烈なアタックしてたのだって知っているし。でもな~……」
「その通りだ。流石に一線を超えないだろうと思っていたが……お前のアレは、一線どころか人として超えちゃだめなラインをスキップで超えていただろうが。あんな姿を見せた幼馴染を庇うことなんて出来るか」
「マジ、それだよな。むしろルディに心の傷を負わせたんじゃねーのか? ほら、クリス? ちゃんとルディに謝ったか?」
「そうだな。昨日もまあ、謝ったと言えば謝ったのだろうが……もっと誠心誠意、ルディに謝れ」
二人の冷たい視線と言葉に、クリスティーナは『うぐぅ』と息を呑む。何かを反論しようと思い、口を開きかけ、それでも何も言う事は無いのかパクパクと口を開閉させて。
「う、うぐ……そ、その……る、ルディ? 昨日は……すみませんでした」
出て来たのは謝罪の言葉だった。そんな言葉に、ルディも笑顔を浮かべて見せる。
「……うん、許すよ、クリス。その……ちょっと……だいぶ……とてもびっくりはしたけど……わ、悪気は無いんだよね、クリスも」
「も、勿論です!! 決して、ルディを害す気はありません!!」
「……貞操狙うのって、害す気満々じゃね?」
「クラウス、うるっさい!! そういう意味ではなくて!!」
「ああ、ああ、分かってる。わかってるから、そんなに興奮しないで。ね?」
クリスティーナの側まで歩き、ポンポンとクリスティーナの頭を軽く撫でる。そんなルディの仕草に、徐々に落ち着いてきたのか、クリスティーナは口を開く。
「……ありがとうございます、ルディ。それに……ごめんなさい」
「何に対する謝罪? もう、謝罪は受け取ったよ?」
「その……寝不足について、です。ルディは悪くなかったですね。ただの八つ当たりでした」
ぺこりと頭を下げるクリスティーナのつむじに、ルディは苦笑を浮かべて。
「でも……まあ、ディアがこう……クリスに惚気たのって、僕とのその……お、お付き合いが嬉しかったからでしょう? だったら、まあ……責任の一端は僕にあるかなって思うから……うん、原因の半分くらいは僕のせいかな~とは思うし……」
照れたような表情を浮かべるルディに、クリスティーナは下げていた頭を上げて、見惚れる様な笑みで。
「リア充、爆発しろ」
「え? 今、なんて?」
「コホン。なんでもありません。というか、クララの惚気話だけでもう十分お腹いっぱいなんですよ。これ以上、ルディからも惚気話なんて聞かされたら溜まったものじゃありませんし」
「それは……うん、ごめん」
「いいえ。私も少し、拗ねただけですから」
そう言ってクリスティーナは優しい笑みを浮かべて。
「――良かったですね、ルディ。心から、祝福しますよ」
「……ありがとう」
クリスティーナの笑顔に、こちらも笑顔を返そうとして、失敗。変な表情になるルディに、クリスティーナはクスクスと笑って見せる。
「……その様な顔を為されないでください、ルディ。私の言葉に嘘偽りはありません。それは、少しばかり悔しい気持ちもありますよ? ありますが……」
私とクララだって、幼馴染なんだから、と。
「……クララがどれだけルディの事を慕っていたか、それを知っていますからね。それなのにクララはルディと結ばれることは無いと……まあ、そう思っていました。そしてそれは、あの子にとって、とっても不幸な事だから」
「……」
「だから、やっぱり私は嬉しいんです。それに……一晩、ルディとの惚気話だけを聞いていたわけじゃありません。クララは話してくれました」
これからのこと、と。
「……クリスはそれで良いの? その……言い方アレだけど、僕結構最低って言うか……」
「重婚自体が忌避されない世界で何を言っているんですか。私は嬉しいですよ? それに……ルディのお側に居ればまだまだチャンスはありますから」
「チャンスって」
「ルディの一番になれる、そのチャンスです」
にっこりと微笑んで。
「……少なくとも、あそこでエディに『ざまぁ! ざまぁああああ!!』とか言っている女よりは私の方がイイと思えるのでは無いのですか? 見て下さい、あの顔。まるで鬼の首を取った様な……百年の恋も醒めますよね、ルディ?」
「……ノーコメントで」
まあ、物凄く高笑いしながら、『ざまぁ!』と楽しそうにエディを罵るディアの姿は……まあ、うん、端的に言って、ちょっと醜い。いや、別に嫌いにはならないんだけど。




