第二百五十一話 流石にアレはお前が悪い
これでもか、と言わんばかりのニッコニコの笑顔でルディの側にトテトテと駆け寄ってくるディア。尻尾があったならば、きっと千切れるくらい振っているであろうその笑顔にルディも笑顔を浮かべ掛けて。
「……ディア?」
「はい? どうしましたか、ルディ?」
口調まで甘ったるくなったディアのそのセリフに、思わずルディからももう一度笑みがこぼれかけて――いやいやそうじゃないと思い直して首を左右に振って。
「……どうしたの、クリス? なんか物凄く疲れた顔をしている様に見えるんだけど……?」
駆け寄って来たディアの席の隣の席、『ぼろっ』みたいな擬音が似合いそうなクリスティーナのその姿にルディは首を傾げて見せる。そんなルディに気付いたか、ゆっくりとクリスティーナは立ち上がり、よたよたとルディの元まで歩み寄る。
「……おはようございます、ルディ」
「お、おはよう。ええっと……大丈夫、クリス? なんか…………疲れた顔をしているけど」
まるで幽鬼みたいな顔、とは流石にルディも気を遣って言わない。言わないが、アレだ。ディアのキラキラ笑顔に比べてあまりにも疲れ切ったクリスティーナの顔との対比が酷い。化粧で上手くごまかしてはいるが、明らかに目の下に隈がある。そんなルディの言葉に、恨めしそうにクリスティーナはジト目をルディに向ける。
「え、ええっと……」
「誰のせいだと……」
「え? 僕のせい?」
「ええ……ああ、いいえ、ですかね? 確かにルディのせいとは言い切れませんが……まあ、原因の一端はルディにあるでしょう。ああ、別に恨み言とかじゃないですよ? これもまあ、目出度いと言えば目出度いでしょうし? なので、私も諸手を挙げて――とは行きませんが、祝福はさせて頂きます。頂きますが」
一息。
「――一晩中『ルディが、ルディが』とだらしない笑顔で話に付き合わされる方の身にもなって欲しいのですが? 昨日私、寝て無いんですよ? 肝試しで疲れたっていうのに……っていうかですね? そもそも、昨日のペアは私とルディの筈でしょう? なんでペアを放っておいて別のペアが出来るんですか? なんか、思い出したら腹が立って来たんですけど?」
そう言い切ってジト目を向けるクリスティーナ。そんなクリスティーナに、ルディも『うっ』と言葉に詰まりつつも丁寧に頭を下げる。
「ええっと……ごめん?」
「なんで疑問形なんですか!」
「いや、そりゃ……クリス放っておいたのは申し訳ないと思うけど……その後の睡眠不足は僕のせいなのかな? って思って」
正論である。そんな正論を述べるルディに、いやそーにクリスティーナは顔を顰めて見せる。
「……まあ、確かにルディに全ての責任があるとは言いませんけど……ちょっとくらいは文句言っても良いんじゃないですか?」
「……まあ」
なんか若干理不尽なものを感じながらも、ルディはもう一度頭を下げる。そんなルディに、尚もクリスティーナは言葉を続ける。
「そもそも……先ほども言いましたけど、昨日のペアは私ですよねぇ! なんで私の側に居たはずのルディが私から離れて、クララとカップルになっているんですか! これじゃ私、ピエロじゃないですか!!」
ダンダンと机をたたいて涙目上目遣いで抗議の声を上げるクリスティーナ。その視線に、思わず『うっ』と言葉に詰まって。
「いや、そりゃ自業自得だろう? 聞いたぞ、クリス? お前、ルディ押し倒してたらしいじゃねーか」
バイキング形式の朝食をとって来たクラウスが、クリスティーナの前に腰を降ろしながら持って来たウインナーを差したフォークでクリスティーナを差して見せる。
「お、押し倒してません! 正確には、押し倒そうとしたところでクララのドロップキックで吹っ飛ばされたので、未遂です!! 無罪です、私!!」
「……いや、それはもう既にだいぶ有罪だと思うんだが……ともかくだな? お前が折角のチャンスを、自分の欲望に従ったから逃しただけだろう?」
「うぐぅ……そ、それは……まあ、そうかも知れませんが……」
クラウスの言葉にトーンダウンするクリスティーナ。まあ、ほぼほぼ悪いのはクリスティーナなので、これ以上の反論も出来ない。
「だからまあ、お前が悪いんだよ。いや~、残念だったな、クリス? 折角ルディと二人きりだったのに」
「全くだ」
「アインツ?」
悔しそうに『きぃー!』と言っているクリスティーナに止めを刺しているクラウスの頭上から掛かる声。アインツだ。
「おはよう、ルディ。それと、おめでとう。ようやくクラウディアの気持ちが届いたな。そういう意味ではおめでとうはクラウディアに言うべきだろうが……」
そう言ってルディを上から下まで一瞥した後、ニヤッと笑って。
「……まあ、お前も幸せそうだしな。おめでとう、で良いだろう?」
「……そうだね。ありがとう、アインツ」
「どういたしまして。それよりも……何を考えているんだ、クリス? いや、別にクラウディアの肩だけ持つつもりは無いが……昨日のアレは無いだろう? 普通に考えて」
「そうだよな~。俺もアインツに聞いた時、ドン引きだったもん。流石にそりゃルディも逃げるって」
「本当にな。千載一遇のチャンスを逃したくせに、ルディに文句を言うなど……呆れてものも言えん」
「モノも言えんとか言いながら適格に攻めてきているんですけど!? 私の味方、どこにもいないんですか!?」
四方八方から攻められて、クリスティーナがキレた。




