第二百四十八話 冴えた解決策
「…………どういう意味ですか、ルディ? 貴方、私の好意を受け入れ……そ、それで、る、ルディもわ、私の事が……ちゅ、ちゅきって言っておきながら…………」
まるで、地の底から聞こえる様な。
「――――一体、どういう意味でしょうか? それは…………私とはお付き合いしたくないという意味で取って…………宜しいのでしょうか?」
にこっと笑顔を浮かべながら――それでも、あまりに迫力のあるその笑顔に、思わずルディが一歩引き下がり、わちゃわちゃと手を振って見せる。
「ち、違うよ!? そんな事は言ってないってば! そ、その……ディアとお付き合いが出来るのは凄く嬉しいよ? 嬉しいんだけど……」
一息。
「――クリスの事が」
「……ああ」
「……勿論、クリスにはきちんとお断りをする。あれだけ好いてくれて……しかも、『前向きに考える』なんて言っておきながらだから……」
きっと、クリスはとても怒るだろうな、とルディは考える。それでも、それだとしても。
「――僕は、ディアが大事だから」
「……ルディ……」
「誠心誠意、クリスには謝らせて貰う。もしかしたら恨まれたり、暴言を言われるかも知れない。なにかしら、責任を取らなくちゃいけないかも知れない」
でも。
「それでも……クリスと誠実に向き合う。それで……ディアとの仲を、認めて貰うから……だから、ディア? 凄い我儘を言っているのは分かっているんだけど……」
それまで、少しだけ、待ってくれない? と。
「きっと、解決して見せるから」
懇願するルディのその言葉に、ディアはなんの反応も返さない。そんなディアの態度に、『怒ったかな? まあ、怒るよね?』と思い、恐る恐るルディが口を開きかけて。
「一つ、聞きたいのですが」
「は、はい? な、なんでしょうか」
『なんで敬語なんですか』とディアはクスリと笑って、そのまま言葉を続ける。
「ルディは、クリスの事が嫌いなんでしょうか?」
「……嫌いじゃないよ」
「じゃあ、好き?」
「……」
「答えて下さい」
「…………好き、だよ?」
そんなルディの言葉に、ディアはじとーっとした目を向けて。
「――浮気者」
ディアのその言葉に、ルディは慌てて言葉を継ぐ。
「い、今のはディアが言わせた感じがしない!?」
「まあ、確かに私が言わせた感じはありますが……でも、どうなんでしょう? 私に告白した後に、別の女性への愛を囁かれたら……あんまり、面白くはないですね~」
「で、ディア……」
つんっとそっぽを向いて『私、不満です!』を態度で示すディアに、ルディが慌てて取りなすように声を掛ける。わたわたするルディをちらっと見た後、ディアはクスリと笑って見せる。
「冗談です」
「で、ディア……」
「まあ、正直ちょっと面白くは無いですよ? 無いですけど……まあ、ルディとクリスの仲ですしね。クリスがあれだけ、ルディ、ルディと好意を露にしている姿も見て来ていますし……そりゃ、ルディも情に絆されますよね?」
「……」
「ルディ?」
「その……ディアに好意を示した後に、こんな事言うのは間違っているのは分かっているんだけど……決して、情だけじゃない……んだ」
「……」
「クリスが僕の、僕なんかの事をずっと好きでいてくれているのは知っている。でも、僕はずっとその好意から目を逸らし続けていたんだ。それでも、クリスはずっと僕の事を諦める事なく、好きで居続けてくれた。そのことは純粋に嬉しいし……『諦めて』いた僕からすれば眩しく映って……尊敬もしているんだ」
「……」
「気が多い事は百も承知だし……その、ディアが一番なのは間違いないんだけど……それでも、僕は」
ちゃんと、クリスの事も好きなんだ、と。
「……何言ってんだよ、って話だよね? ディア、その……愛想が尽きた、かな……」
心配そうにそんな事を言うルディに、ディアは面白く無さそうに『ふん』っと鼻を鳴らして。
「――舐めないでくださる?」
その後、ルディをギンっと睨む。その視線に首を縮め――それでもディアの言う通りだと思い、ルディは肩を落とす。
「そ、そうだよね? こ、こんな事を言ったら、ディアを馬鹿にしていると――」
「違います」
「――思う……え? ち、違う?」
驚いた様に顔を上げるルディに、ディアは苦笑を浮かべて。
「ルディが魅力的な男性であることは重々承知していますし……貴方は優しい方だから。別にクリスの事が好きでも構いませんし……まあ、英雄色を好むとも言いますしね?」
そう言って苦笑を浮かべるディア。そんなディアに、ルディは頭に疑問符を浮かべながら。
「で、でも、ディア? さっき舐めるなって……」
「ああ、それですか? それこそ舐めるな、です。良いですか、ルディ? 貴方が魅力的で、沢山の女性から好意を寄せられて……ルディが好意を寄せている事くらいはとうに知っています。十年、見て来たんですよ? そんなの、分かるに決まっているじゃないですか。だから、さっきのは確認作業でしかありません。良いですか? 『確認』です。私は、そんなルディの事が好きなんです。クリスが好き、くらいで」
愛想つかす訳、ないじゃないですか、と。
「初恋を拗らせていたんですよ? 私の貴方への愛、舐めないでくださいます?」
「……ははは。ごめん。それと……ありがとう」
「ええ、謝罪も感謝も受け入れます。それで……まあ、ルディがクリスの事を好き、と。クリスもまあ、ルディの事は好きでしょうし……ああ、そうです! それではこうしません?」
まるで今、思いついたと言わんばかりに――既に既定路線だったくせに、白々しい事この上ない仕草でポンっと可愛らしく手を叩いて見せて。
「――私もクリスも、どっちもお嫁さんにすればいいじゃないですか?」
「…………はい?」
流石のルディも、今日できるかも知れない恋人に、いきなり浮気相手を作れと言われるとは思わず、そんな間抜けな声を出した。




