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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百四十七話 感情ジェットコースター


「……嬉しい……嬉しいです、ルディ……」


 ルディに抱きしめられたディアは、胸いっぱいにルディの匂いを吸い込む。走ったためか、若干、汗の匂いがするルディの胸の中で――




「…………うん?」




 ルディから汗の匂いがする。当然、今のディアにとっては臭いなんて負の感情は浮かんでなどおらず、むしろ好意的な匂いに取れる。取れるがしかし、だ。ルディから汗の香りがするということは、だ。そんなルディが追っていた相手である自身も当然に、その、なんだ?


「――っ!?」


 自身の体臭から汗の臭いを感じてディアは身を捩ってルディの束縛から逃れようとする。そんなディアに、ルディが少しだけ不満そうに声を上げた。


「……なに、ディア? 僕に抱きしめられるのはイヤなの?」


「なに言ってるんですか、ルディ! こんな幸せな空間はありません!! もう、なんていうか、天国にいるとしか思えないと言うか……我が人生に一片の悔いなし! と言いましょうか!!」


「うーん、そこまで喜んでくれるのは嬉しいけど、人生に悔いはもうちょっと残しておいてよ? これから、いっぱい楽しい事をしよ?」


「はきゅん!? は、はい! それは勿論です!!」


 脳内に響いたルディの甘い言葉に、そのままディアは頷いて再びルディの胸に顔を埋めようと――



「違う。そうじゃない」



 危なかった。冷静さを取り戻したディアは、ルディの胸と自身の体の間にそっと手を入れてその身を引き離そうとする。


「……なに? 本当に嫌なの?」


「い、イヤじゃないですが……」


「じゃあ、なにさ?」


 珍しく――本当に珍しく、ちょっと不機嫌気味なルディに少しだけ怯え――そして、それほどまでにルディに求められているという事実に脳を破壊されそうな程にドバドバとアドレナリンが噴き出すが……まあ、それはそれ。


「そ、その! あ、汗臭いと申しましょうか……」


「汗臭い? 僕?」


「いいえ! それは確かにルディから汗の香りはしますが! ですがルディの香りはこう、芳醇と申しましょうか!? 麻薬の様にくらくらしますので、全然問題ないです!! 全然問題ないのですが……私の方は……」


「ディアの方?」


「は、はい。ルディが一生懸命追いかけて下さったと言う事は、私も一生懸命逃げておりましたし……その、あ、汗をかいていますので――ひゃう!? る、ルディ!?」


 そんなディアの言葉に首を傾げながら、ルディはディアの首筋に顔を埋める。そのまま、胸いっぱいにディアの香りを吸い込んで。




「――うん、全然臭くないよ? いい匂い――っていうと、ちょっと変態っぽいかな? でも、好きな香りだよ?」




「……ああ、もう、本当に死んでも良いかもしれません」


『やりきった!』と言わんばかりの表情でディアは安心したかのようにルディの胸元に顔を埋める。そりゃ? 自分では汗臭いと思うよ? でもさ? 相手が深いじゃない、むしろ好きって言ってくれてるんなら、もう遠慮はいらないよね? 当然、胸いっぱい香りを吸い込むよね?



「誰だってそうする。私だって、そうします」



 誰に対する言い訳でも無かろうが、そう言ってディアはもう一度ルディの香りを吸い込む。くらくらする香りに、ディアはだらしなく頬を緩め。




「…………うへへ~。るでぃ……いいにおい……はすはす……うへへへ~」




 頬以上に、だらしない言葉を吐き出す。端的に言って気持ち悪いそんなディアに、ルディが少しだけ苦笑を浮かべて見せる。


「……僕の香りなら幾ら吸って貰っても良いけど……ディア? ちょっと真面目な話をしても良いかな?」


『はい、もう終わり』と言わんばかりにディアの背中をポンポンと叩いて見せるルディ。そんなルディに、不満げにディアは顔を上げる。


「……ルディが逃げるなって言ったじゃないですか」


「とりあえず、お話が先かなって思い直したの。その後ならまたしてあげるから。ね?」


「むぅ……」


 まあ、この後にもう一回ぎゅっとしてくれるならいいか、と思い直してディアはルディの体から自身の体を離す。


「……その、ね? こう……今から結構真面目な話をするんだけど……今後の話というか……」


「今後の話と言うと……ああ、婚約者の件ですか? 大丈夫ですよ、ルディ! ルディが王位に付く付かないは関係ないですので! お父様が前に言ってました! もう、別に王太子に嫁がなくても良いって!」


「あ、そうなの? いや、でもそうじゃなくて」


「まあ、いきなり『婚約破棄されました。次はこの人が婚約者です』は、流石にはしたないですかね? それなら……こ、こう、恋人としてお付き合いをしてですね? それから――」


「それだよ」


「……へ? そ、それ?」


 ディアの言葉に、『うん』とルディが頷いて。



「その……こう、ディアが僕の事を好きって言ってくれるのは嬉しい。僕もディアの事が好きだよ。でもさ? こう……お付き合い? はちょっと待って欲しいというか……ああ、そ、そんなに長く待たせるつもりは無いんだよ!? で、でも……ちょっとだけ、待ってくれないかな?」



「………………はい?」


 何言ってんだ、コイツ? という視線がルディを貫いた。もう、脳破壊は良いのだ、脳破壊は。



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