第二百四十六話 募る想い、実る想い
ディアの告白に、ルディはしばし瞑目する。ディアの言葉を確かめる様に、噛みしめる様に、何度も何度も自身の中で反芻して。
「…………嬉しい」
その後、華の咲いた様な笑みを浮かべて見せる。真正面からそんなルディの笑顔による攻撃を受けたディアは。
「――はきゅーん!?」
なんか言ってた。しかもご丁寧に。
「で、ディア!? どうしたの!? なんか鼻血出てるけど!? だ、大丈夫!?」
鼻血まで出した上に、とってもダラシナイ――というか、『うへへ……うへへ……』と、とっても怖い笑みを浮かべて。百年の恋も醒めるというものだ。
「で、ディア?」
「……すみません。少し、取り乱しました」
「……少し?」
じゃあ、滅茶滅茶取り乱したらどうなるんだろう? と考えかけて、ルディは首を左右に振って見せる。だって、想像するだけで怖いし。そんなルディに、ディアはモジモジと両手の人差し指を胸の前でツンツンと突いて見せる。
「え、ええっと……る、ルディ?」
「うん? どうしたの、ディア?」
「え、ええっと……そ、その、私、ルディに告白しました。だ、大好きだって……あ、愛しているって!」
「……愛してる、なんて言ってた?」
「言って――」
そこまで喋りディアは自身の記憶をたどる。うん、言ってない。
「――言ってませんでしたけど、今言います!! ルディ! 愛してます! らぶゆー! です!!」
「なんか変なテンションになってない、ディア?」
「十年越しの想いを伝えたんです!! 拗れ捲った初恋を! そりゃ、変なテンションになります!! っていうか、私のテンションはどうでも良いんです!! そ、それよりもルディ……わ、私、言いましたよ? だ、大好きって」
「……うん、ありがとう。凄く……凄く、嬉しいよ」
「はぅ!? る、ルディ!? 少し手加減してください!! そんな、子供みたいな笑顔を浮かべるのは反則です!! 我慢できなくなっちゃうじゃないで――って、そんな事はどうでも良いんです!! ルディ、私は言いました! ルディの事が大好きだって!! だから――」
教えて、下さい、と。
「――私は、まだあなたにとって妹ですか? ただの、仲の良い幼馴染ですか? 弟の、エドワード殿下の婚約者ですか? それとも」
――『ただの、貴方の事が大好きな、一人の女の子』として、見てくれますか? と。
「……お応え、頂けますか……?」
不安に揺れるディアの瞳。そんな瞳に、ルディは自身の瞳を合わせて……そして、諦めた様に両手を挙げて見せる。
「……あー、もう……降参です」
「……へ? こ、降参? 降参って……な、なにが?」
「ディアの事を……そうだね? ただの僕の事が大好きな一人の女の子として見てくれるかって質問なんだけど」
そう言ってルディは首を振る。
「――え?」
横に。そんなルディの仕草に、ディアの瞳に涙が溢れる。
「……そ、そうですか。私は、まだ、ルディに一人の女の子として見て貰えませんか……は、ははは……そ、そうですよね? 私なんて、所詮は『政略結婚』の道具で、エドワード殿下の婚約者で……む、胸だって小さいですし、そんな私に――る、ルディ!? なにを――む」
言い募るディアの唇を、人差し指で制し。
「――僕は、ディアを『ただの』一人の女の子として見る事は出来ないよ。だってディアは……やっぱり可愛い妹分で、大事な弟の婚約者で、かけがえのない幼馴染で」
そして。
「――『大事』な女の子だよ。ディア」
僕も、大好きだよ? と。
にっこりと笑うルディに、ディアの目に再び涙が溜まる。先程は、悲しい涙で、今度は。
「うううう! ルディのバカ! いじわる!! なんで、そんな言い方するんですか!! 私、凄く悲しかったんですよ!! ルディに拒否されるって!!」
「ははは。ごめんごめん。でもさ? ディアの聞き方も悪くない? だって、僕だよ? ディアの事、どれだけ大事にしていたか、知っているでしょう?」
「そ、それは……でも!!」
「……まあ、自分でも意地悪い言い方だなって思ったけどさ? でもね?」
ほら、好きな子はイジメたくなるっていうじゃん? と。
「もう! ルディのバカ!! 本当にバカなんだから!!」
「ごめん、ごめん。嫌いになった?」
「嫌いになりそうです!!」
「それは困った。じゃあ……どうしたら許してくれるかな?」
そんなルディの言葉に、ディアは少しだけ照れた様に頬を染めて。
「抱きしめて下さい。ぎゅって……して、下さい」
「……了解、お姫様」
ディアのその可愛いお願いにルディは破顔して――そして、壊れ物を扱うように優しく、ディアを抱きしめた。




