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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百三十七話 怪獣――猛獣大決戦!


 真横に吹っ飛んでいくクリスティーナを呆然と見ていたルディは、ドロップキックのままの態勢で地面に転んだディアが、目にもとまらぬ速さで起き上がりクリスの胸倉を掴み上げている姿に目の前で何が起こっているのか分からなくなっていた。え? なにこれ、状態である。


「クリスぅーーーー!! 貴方、何をしているんですか!? こんな真夜中の森の中でルディを襲うなんて、恥を知りなさい、恥を!!」


 馬乗りに乗って胸倉を掴み上げるという……なんというか、貴族令嬢で、それも公爵令嬢が――というか、仮にも『淑女』とか名乗っている女の子がしちゃダメな恰好のディア。そんなディアに、こちらも貴族令嬢というかプリセンスというか、ともかく淑女がしちゃダメな顔でクリスティーナはディアを睨みつけて。



「……っち」



 舌打ちしましたよ、この子。


「……いい所で邪魔をして……本当に貴方、私の邪魔しかしませんね! そう言えばこないだのデートの時も、『薄い、平たい、エリカ様!』あみぐるみがどうとか言って私とルディのいい雰囲気をぶち壊してくれやがりましたし……なんですか! なんか恨みでもあるんですか!! 空気読めない子ですか、貴方! KYですか!! 本当に、勘弁してくださいよね!!」


 全く悪びれずそう言って見せるクリスティーナに、『あれ? 私が間違っているの?』としばし呆然とするディア。が、『いやいや! そうじゃない!!』と正気を取り戻して掴んだクリスティーナの胸倉をぐいっと引っ張り上げる。


「舌打ち!? 貴方、今舌打ちしましたね!? しかもいい所で邪魔って!! さては反省していませんね、貴方!?」


 こいつ、マジで何言ってんだと言わんばかりの顔をして見せるディアに、クリスティーナはニヤッと笑って見せる。


「はん! 反省? 反省なんかする訳ないじゃないですか!! いい機会だと思ってルディに襲い掛かりましたが、貴方の邪魔が無ければ最後まで行く気満々でしたが、なにか!?」


「開き直りましたね!! そんな事、許されるわけ無いでしょう!?」


「据え膳喰わぬは女の恥です!!」


「それは男の恥でしょう!? っていうか、貴方の場合、決して『据え膳』ではないですからね! 状況証拠だけでギルティですよ!? 貴方、自分から膳を取りに行ってるじゃないですか!!」


「じゃあ、逆に聞きますけどねー! クララ、貴方だったらどーなんですか? 道に迷ってルディと二人きり、いい雰囲気、暗闇……何もしていなかったと、胸を張って言えますかねぇー! その貧相なお胸を張って!!」


「ひ、貧相じゃありません!! 慎ましいのです、私は!!」


「そこはどっちでも良いんですー! さあ、私の質問に答えなさい!! 貴方だったら我慢出来るんですか!? ねえ! 本当に我慢出来るんですかぁー!?」


「う……ぐぅ………………………で……出来ますん!」


「はい、ダウ――じゃない!? なんですか、『出来ますん』って! どっちなんですか、それぇー!」


「う、煩いですわよ!! 理性と煩悩の間で揺れ動いただけです!! ともかく! そんなうらや――じゃなかった! 破廉恥な事、私は許しませんからね!!」


「はぁ? 破廉恥が服着て歩いている様な貴方には言われたくありません!」


「誰が破廉恥が服を着て歩いているですが!! 訂正しなさい!!」


「訂正なんかしませーん! この痴女が!!」


「あ、貴方だって痴女じゃないですか!!」


「私は痴女じゃありません! 私の場合は変態淑女なだけです!!」


「変態は認めているのは褒めてあげますけど、絶対にそうじゃないでしょう!?」


 言い争う二人を尚も呆然と見つめて続けていたルディの肩にポンっと手が乗っかる重みがある。緩慢な動作でそちらを振りむくと、そこにはアインツの疲れた様な笑顔があった。


「……お疲れ、ルディ。その……なんだ? 大丈夫だったか?」


 そんなアインツの微笑とも苦笑とも取れる笑顔に、ルディは頬をひくりと引くつかせながら、それでも笑おうと口の端を上げて。


「る、ルディ!? 大丈夫か!? な、泣くな! 男の子だろう!?」


 目の端から一筋、つーっと涙が流れる。顔は笑顔のまま、涙を流すルディを慌てて慰めるアインツに、ルディは。


「……アインツ」


「ど、どうした、ルディ!! な、なにかされ――」




「――食べられるかと思った……怖かった……」




 涙をぬぐうルディを呆然としながら見つめた後、アインツは疲れた顔でクリスティーナを見やって。


「……やり過ぎだろう、マジで」


 その後、盛大にため息を吐いた。



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