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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百三十六話 これこそ、これこそが女のカン


「本当に考えすぎじゃないですか、アインツ? そんな事は無いんじゃないですか? それに、別に珍しい話では無いでしょう?」


 貴族の結婚なのだ。普通に『紹介』なんて腐るほど――というより、貴族の結婚は『普通』は紹介なのだ。政略結婚だって、ある意味では親の『紹介』であり、アインツの言っている事は当たり前に考えすぎなのである。なのである、が。


「……そうは言うが……クラウスを見て見ろ。あいつは自分で相手を見つけているじゃないか」


「まあ……そう言われればそう、ですが……ですが、アレだって幼馴染だからですし……言ってみればアレも親の紹介みたいなものでしょう」


「出逢いはそうかも知れんが! 確実にアレは違うだろう!!」


「……まあ」


 アインツの言わんとしている事は分からんでもない。エカテリーナとクラウスの間には、幼馴染として確かに共に歩いてきた『絆』っぽいものが見えるのだ。


「そんな中で俺がクラウディアに自分の伴侶を紹介されてみろ! クラウスに絶対、バカにされるだろう!! 『なんだ、アインツ? お前、てめーのカノジョも自分で見つけられないのか?』とな!」


「……流石にクラウスもそこまでは言わないと思いますけど……」


 アインツの被害妄想である。被害妄想ではあるが、気持ちは分からんでもない。五歳の時からの仲良し幼馴染だし、だからこそ、なんとなく『負け』た気持ちになる。


「それに……クラウディアに紹介して貰った女性と付き合ったとするだろう?」


「ええ」


「上手く行けばまだいいさ。上手く行けばまだ良いが……もし、途中で破局してみろ?」


 そう言って少しだけ気まずそうに。


「……関係が悪くなるだろうが、お前とも」


 そんなアインツの言葉にディアはため息を一つ。


「そこまで気にしなくてもいいですよ? それこそ、婚約破棄された私が言えた義理でも無いですし。そもそも私は紹介するだけで、どうなるかはお二人にお任せするつもりです。色恋事に第三者が関与しても碌な事になりませんしね」


 そう言ってディアはアインツに視線を固定する。


「ともかく、そんな事は気にしなくて大丈夫です。ですから、私が誰か友人を紹介しましょうか? 私の友人であれば少なくとも身元はしっかりしていますし、アインツのお父様も気に入るでしょう。なんなら、私の方から少しくらいは助力も出来るかも――」


 そこまで喋り、ピタリとディアの言葉が止まる。何かを探る様に、視線を左右に動かすディアの奇行に、アインツは目を丸くしてディアの方を見やる。


「く、クラウディア? ど、どうした、急に? なんで黙って――」




「――静かに」




「――はい」


 ギラっとした視線をアインツに向けるディア。その視線に一瞬ぶるっと身震いしたアインツは、それでも小さな声でディアに声を掛ける。


「……どうした? 何かあるのか?」


 こう見えて――というより、痣が殴らない様に殴る事が出来るディアは言ってみれば暴力のプロだ。といっても、これは別にディアの能力が優れて……はいるが、それでもその実力の多くは、公爵令嬢として鍛えた護身術の賜物である。自身が、『価値のある』事を理解しているがための訓練の成果なのだ。まあ、公爵令嬢が暴力のプロと呼ばれるほどに鍛える必要はあるのか、という問題はあるが。


「……何か危険なものでも近づいてきている、とか?」


 だからこそ、アインツはディアのその能力に信用と信頼を寄せている。これはクラウスに対してもそうだが、どうしても『武力』というものに自信を持っていないアインツらしい考え方でもある。そんなアインツに、静かに、だが確実にディアは頷いて見せる。



「……ええ」



 そのディアの頷きに、アインツの身に緊張が走る。周囲を慌てた様に見回しながら、ディアの視線の先にその視線を向ける。


「……何かあれば俺をおとりに逃げろ、クラウディア」


 実力は確実にディアの方が上。それでもアインツは男の子、いざとなればディアを守るのも貴族令息としての当然の義務と考え、そう口にするアインツにディアは笑うでもなく真剣な顔で。




「――危険なものが近づいています……ルディに」




「…………はい?」


 何を言っているか分からない。そんなアインツの言葉に反応することもなく、ディアは一点に視線を向けて。



「――あそこです!!」



 途端、ディアは走り出す。一瞬、ポカンとして走り出したディアを見送っていたアインツは一瞬で正気を取り戻して慌ててディアの後を追った。


「ま、待てクラウディア! どこに――って、はやっ!? あいつ、ドレスでどんだけ早いんだよ!?」


 両手で器用にスカートの端をちょんと摘まんで韋駄天の様な速度で走るディアにアインツの驚愕の声が上がる。そんなアインツの言葉を背中で聞き流し、ディアは木々の間を抜けて、やがて少しだけ開けた所を発見し。




「――何をしているのですか、貴方はぁーーーーー!!」




 物凄い勢いでクリスティーナが真横に吹っ飛んでいくのを、追いついたアインツは目撃して。




「…………やっぱり、お前の紹介は遠慮するよ、クラウディア」




 だってディアの友達なんて、絶対ヤバいやつしかいねーし。


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