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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百三十話 アインツの目指す先


「リーナ様が不幸になる、ですか? どうして? どうしてクラウスのお兄様に嫁いだら、リーナ様が不幸になるのですか?」


 アインツの言葉にディアが首を捻る。そんなディアの姿に、アインツが苦笑を浮かべて見せながら、右手をひらひらと振って見せる。


「すまない。少し間違えた。不幸になる、は言い過ぎだったな。だがな? 今後の軍の――というか、ラージナル王国はきっと、大きく変わる。いや、きっとではない。確実に、大きく変わる。既にその兆候はあるが……恐らく二、三年の内にはがらっと変わる――変わって、しまう」


「大きく変わってしまう……ですか? あまり、ピンときませんが……しかも、その兆候はあるのですか? 私にはさっぱり分かりませんが……」


 ディアの言葉に『ああ』と頷き。


「エルマー殿、それにルディの発明がこの国を――いや、この世界を大きく変える事になる」


「それは先ほども聞きましたが……」


 ルディやエルマーの発明が凄いのは分かる。その発明がこの国のみならず、この世界の『あり方』を変えるのも……正直、いまいちピンとは来ていないがアインツが言うならそうなんだろう、とはディアも思う。嘘ついても仕方ないし。だから、疑問に覚えるのはそこではなく。


「ルディとエルマーの発明が凄いのは分かりましたが……それで? なぜ、その発明が凄いと、リーナ様が不幸になるのですか?」


 そこがリンクしないのだ。そんなディアの言葉に肩を竦めて見せる。


「言い過ぎた、といっただろう? 不幸とまでは行かんが……新しい発明は、新しい技術は……新しい、『思想』を生む。その思想は今までと全く違う思想だ。だから、古い思想は駆逐されるだろう。そして……この国の軍制で一番『古い』のは?」


「それは……近衛騎士団、でしょうか?」


「そうだ。有史以来、国王の剣として、盾として……国王陛下最古の供回りとして存在した組織だ。国家になる前、王家がただの『ラージナル家』だった時代から、当時の当主を守り抜いた組織が、国家になるにしたがって看板を掛け変えた組織。それが近衛だ」


 古臭く、かび臭い組織と詰まらなそうにそう言って。


「そもそも、近衛の軍制自体がおかしいんだ。貴族だけが所属することを許される軍隊なんて普通じゃない。いや、そもそも『ラージナル家』の時の近衛騎士なんて、皆平民だったんだぞ?」


「それはまあ……そうでしょうが」


「そんな『優秀な平民』が、王国を作った瞬間に『内』と『外』を作った。内側にしか優秀な人間はいないとばかりにな。自分だって平民だったんだ。平民にだって優秀な人材は沢山いるのくらい分かりそうなものだが……」


 まあ、長い年月を経ればそうもなるか、とため息を一つ。


「その『優秀な平民』を大量に採用した方が国防の観点から見てもいい。そういう意味では……近衛がこれから日の目を見る事は無いだろう。何時までも何時までも、後生大事に貴族主義を掲げる集団として生きていくしかない。そんな組織のトップの配偶者が……さて、本当に幸運だろうかな? と思っただけだ。まあ、エカテリーナ嬢が名誉欲を欲す人間なら『近衛騎士団長夫人』というのはとんでもなく名誉だろうが……惚れているのがクラウスだぞ? 名誉欲とかさして無いだろう?」


「詳細は分かりませんが、まあ、そうでしょうね」


「それにエカテリーナ嬢は聡い。そんなエカテリーナ嬢なら、『古い』考え方よりも『新しい』考え方が好みだろうし……少なくとも、クラウスの側に居ればその新しい考えに触れる機会は多い」


 その方がエカテリーナ嬢にとって幸福だろう? とそう言って見せるアインツに、ディアは曖昧に頷いて見せる。


「それは……まあ、そうでしょうが……」


 アインツにしてもディアにしても、ルディの『貴族とか平民なんか関係ないよ? 能力ある人にはきちんと敬意を表さないと』という、ある意味では日本人的な薫陶を受けているためにラージナル貴族には珍しいリベラル派だ。だから、アインツの言葉をディアも理解できる。理解できるが。


「……貴方……だけでは無いでしょうが、貴方達一代でそれを為すのは難しいのではないのですか? 反発も必至でしょうし……」


 それはそれとして、きちんと『ラージナル貴族としての常識』もディアは持ち合わせている。何百年も続いた体制を、一代で改革するなんてクーデターや革命でもない限り不可能である事も。


「私は平穏な日常が好みですわよ?」


 だからこそ、アインツに胡乱な目を向ける。大事な幼馴染であるが、国家を転覆する様な真似は許さないぞというその視線を受け、アインツは肩を竦めて見せる。


「第一候補のエディを蹴落として、ルディを王位に就けようとしている時点で既にもう国家反乱罪の適用ギリギリだがな? それは勿論、お前も同罪だろう? クラウディア」


「失礼な事を言わないでください。別にエドワード殿下を蹴落とした訳ではありません。あの方が勝手に転がり落ちただけです」


 仰る通りである。


「まあ、確かに今回はエディのミスだろうがな。話を戻そう。俺は別に国家の転覆とか、反乱とか、謀反とか、クーデターとか……そんな物騒な事を考えている訳ではない。考えているのは単純に」



 近衛騎士団の、弱体化だ、と。



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