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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百二十九話 ワレニジシンアリ


「クラウスに確固たる地位……ですか?」


「クラウスが今、第二近衛騎士団の団長に就任する方向で話が進んでいるのは知っているか?」


「ええ。具体的には聞いていませんが……噂レベルでは」


 近衛騎士団の分割――というか、増強は今ちょっとだけホットな話題だ。秘匿されるほどの事では無いので、それなりに噂にはなっているのである。公爵令嬢とは言えまだ学生、それも表舞台に出る――『政治』の表舞台に関わることの少ないディアの耳に入る程度には。


「第二近衛は従来の近衛騎士団とは一線を画す組織になる。現在の近衛騎士とはあり方も、考え方も、その運用・編成すら全て異なる……『軍隊』になるだろう」


「……軍隊……」


「まあ、近衛だって戦争するためのものだからな。ともかく、第二近衛はこれからのラージナル軍の在り方を変える存在になるだろう。なんせ」


 エルマー殿も一枚噛むからな、と。


「……エルマーも?」


「ああ。エルマーと……ルディの発明した新兵器の実験的な部隊になるだろう。新技術を惜しみなく投入した部隊運用は戦場の常識を塗り替える。そしてその指揮官は」


「……クラウス、と」


「歴史や立ち位置の変化は中々難しいが……考え得る限り、ラージナル王国の最大戦力になるだろう部隊だ。その指揮官だぞ、クラウスは。誰が軽く扱えると言うのだ」


 アインツの言葉に、ディアは曖昧に頷く。女の子、政治や外交は貴族の嗜みとしてある程度は熟知しているが、軍事面に関してディアにはその素養が全くなく、アインツの言っている事も『ああ、凄いつよい軍隊が出来るんですね。その軍隊のトップがクラウスなのですか』くらいの判断しか付かない。付かないから、別の角度で話を振ってみる。


「その最大で……最強? って言えば良いんですかね? その部隊の指揮官にクラウスが就任することは分かりました。ですが、それがクラウスの地位を――そうですね、彼のお兄様が継ぐであろう、近衛騎士団長よりも上の地位に押し上げる程なのですか? ああ、いえ、戦力的に強いのであろうことはなんとなく理解できますが……そんなに簡単な話なのですか? 『軍』って」


 ディアの懸念は尤もである。幾ら強い人間だって、大勢の人間に取り囲まれたら一たまりも無いのと同じように、幾ら個別の軍隊として強かったとしても、精々一部隊の『戦闘』面で強いだけでは意味が無いのではないだろうかという疑問であり。


「……そんな強い軍隊なら、近衛騎士団長の次男坊に与えるの……勿体ないって、なりませんか?」


 軍は軍のみで存在するのではない。軍が国家のものである以上、そこに絡むのは『政治』の問題だ。ラージナル王国に統帥権なんてものは無いのだ。軍の意見は尊重はされるが、最終的にどこに、いくらくらいの派兵を行うのは政治の判断に委ねるのである。当然と言えば当然のディアの疑問に、アインツは鷹揚に頷いて。




「俺が居るだろう?」




 何でもない様に、そう言って見せる。


「次期宰相――は決定では無いが狙っている俺、国王となるルディかエディの幼馴染だ。まあ、どちらが国王になっても空いた方には国家の要職を担って貰う気満々だぞ、俺は? そんな俺の幼馴染で……さっき裏切られたが、親友と言って差し支えないクラウスだぞ? 無論、ルディやエディとの仲も良い。そんなクラウスに、国防の最大勢力を担って貰おうと思うのは」


 当然じゃないか、と。


 清々しいまでに狡猾な笑顔を浮かべて見せるアインツに、ディアも思わずため息を吐く。


「貴方の国ではないのですよ?」


「まあな。だが、国家の為になることだと思っているぞ? 最大勢力は、やはり信頼できる人間に任せてこそだ。目標としてはルディを頂きにおいて、俺が内政、エディが外交、クラウスが軍事を司れば、そこそこ良い国になると思うぞ?」


 違うか? と視線で問うアインツに、今度はしっかりと頷いて見せるディア。


「あなた方の能力に疑念を抱いている訳ではありません。エドワード殿下が外交というのも、まああの方、外面だけはイイですからね。ピッタリです」


「……外面云々はエディもお前には言われたくないだろうがな」


 全くである。


「まあ、そういう訳でクラウスの……『お嫁さん』としてエカテリーナ嬢でも問題ないだろう。クラウディアの言葉で言うのであれば、『仲良し』が国家の重鎮の妻だ。彼女の才覚であれば、クラウスを御すのも容易だろうしな。だから、なんだ? クラウディア」


 クラウスの幸せの、邪魔をしてやるな、と。


「……別に邪魔をしようとしている訳じゃありませんよ」


「ああ、今のは言葉が悪かったな。大丈夫、クラウスの地位は間違いなく向上し、国家の柱石となるだろうからな。だから、そんな心配をするな。むしろ――」


 そこまで言って少しだけ言い淀み。




「――クラウスの兄上に嫁がせた方が、エカテリーナ嬢は不幸になるかも知れんからな」





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