第二百二十六話 なんだと思っているんですか!!
突然のディアの性癖の暴露にドン引きしているアインツ。そんなアインツに、今度はディアが『ふん』と鼻を鳴らす。
「なにを今更。知っているでしょうに」
「いや、知っているが……そうか。よく考えれば、クラウディアの性癖なんか今更か」
一瞬慌てたものの、『ま、よく考えればいつもの事か』と思い直し、アインツは頷いて見せる。なんせこの女、堂々と『ルディに押し倒されたい!』とか答えるくらいだ。歴戦の強者なのである、ディアは。
「……そういう意味ではアインツ? 貴方は全然、そういう話をしませんでしたよね?」
ディアやクリスティーナが『ルディ、ルディ』ときゃーきゃー言っている時も、アインツは『はいはい』みたいな顔で聞いていただけだ。そんなディアの指摘に、アインツは首を捻って見せる。
「そう言えば……そうか?」
「ええ。だって私、貴方の性癖とか全然知りませんでしたし。ですから今日は少しびっくりしました。貴方、枯れているとばっかり思っていましたから……」
アインツが巨乳好きなのは初耳なのである、ディアも。そんなディアに、アインツは物凄くイヤそうな顔をして見せる。
「ルディも言っていたが……別に俺は枯れているつもりはない。普通に女性とも仲良く出来るのであれば仲良くしたいさ」
「……本当に意外です」
「まあ、家的な話もあるしな。俺が結婚しなければ我が家は後継者が絶える――という訳では無いが、俺だって健康な男子学生だ。普通に女性が好きだし――なんだ、その顔は」
アインツの言葉にディアが『うへぇ』という顔をして見せる。
「いえ……なんだかアインツからそういう『生々しい』話を聞くのは……ちょっとイヤだな、と」
「……若年性健忘症か何かか、お前は? お前から振って来た話だろうが、これ」
「まあ、そうですけど……ああ、だから巨乳好きとか隠してたんですか? 気持ち悪いから?」
「気持ち悪いとか言うな! そもそも……気持ちの良い、悪いではなく、普通は性癖など人にカミングアウトするものではないぞ?」
仰る通りである。だが、ディアは納得しないのか、少しだけ頬を膨らませて見せる。
「乙女の秘密を勝手に知っている癖に、自分の性癖を隠すのは如何なものでしょう?」
「さっき気持ち悪いと言ってたではないか」
「そうですけど……こっちばっかり秘密を知られているのはちょっと納得できかねます」
「……俺の記憶が正しければ、お前やクリスが勝手に性癖を暴露していた気がするんだが? それでこっちの情報を提供しろってどうなんだ? テロかなんかか、お前ら?」
こちらも仰る通りである。別にアインツはディアやクリスの性癖なんか聞きたくもないのに、勝手に暴露されているのである。正直、いい迷惑なのだ。そんなアインツに、ディアはニヤリといやらしい笑顔を浮かべて見せる。
「またまた~。そんな事言って、少しはドキドキとかしたんじゃないですか? アインツも言ってたじゃないですか。美少女って。クリスだって美少女ですよ?」
「お前らじゃ無ければ、そういう事も有ったかも知れないんだがな~……」
これが学園で知り合った女性とかならなんか背徳的な秘密を知った様な雰囲気でアインツもドキドキするだろう。だが、相手はディアとクリスティーナである。小さいころから知っている幼馴染、しかも――まあ、人間的には好ましいと思っているが、女性としては欠片も魅力を感じていない女性の性癖……『ルディに押し倒されたい!』とか聞かされても、みたいな感じなのである。
「……それはそれで若干、女性としての魅力を否定されたみたいで面白くないのですが」
「……じゃあ、興奮すれば良いのか?」
「絶対に嫌です。何言ってるんですか、気持ち悪い」
「……無茶苦茶言っているぞ、お前?」
はぁ、とため息を吐くアインツ。そんなアインツに尚もディアは話しかける。
「じゃあ、アインツはどんな女の子がタイプなんですか?」
この話はこれで終わったと思ったアインツは少しだけ驚いた表情を浮かべて見せる。
「……どうした? 珍しく『ぐいぐい』くるじゃないか?」
ディアが――まあ、普通に幼馴染として喋ることはあるが、此処までアインツに興味を示すことは珍しい。そんな思いが顔に出ているアインツに、ディアは小さく微笑んで。
「あら? おかしいですか? 私がアインツの事を知りたいと思うのは? 大事な幼馴染、そんな男の子が、どんな女の子が好きかなんて、それは気になりますよ」
そんなディアの言葉に、アインツは首を傾げて。
「――熱でもあるのか、クラウディア。お前、ルディ以外に興味の欠片もないじゃないか。俺の事だって、路傍の石ころくらいの価値しかないと思っているんだろう?」
「なんだと思っているんですか、私のこと!! 流石にそれは失礼でしょう!?




