第二百二十四話 私、理系、嫌い
「……貴方ね? 流石に失礼過ぎませんか? 誰の性格が終わっているですって!?」
「お前だ、お前。人間らしさ、みたいな感情を自身の母上の腹の中に置いてきた女だろうが、お前。悪魔と勝負してもきっと勝つくらいに……底意地が悪いじゃないか、クラウディアは」
「はぁ!? 誰が悪魔と勝負しても勝つですか!! 本当に失礼ですね!!」
ちなみにだがアインツ、別にディアに想い人が居ようが居まいが、好きになったらガツガツ行くタイプである。流石に人様の彼女を盗ってやろう、とまでは思ってはいないが、それが相手の片思いなら『そんな男、俺が忘れさせてやる!』くらいの気概はあるのだ。意外……でもなんでもないが、実はクラウスよりアインツの方が『アツイ』男ではあるのだ。じゃないと、国家転覆みたいなルディに即位させよう! なんて思いつかない。何が言いたいかというと、まあ、結局どんだけ見た目が良くても、アインツ的にはディアはノーサンキューなのである。
「いや……お前、よくそんな事言えるな? 面の皮の厚い奴だ。良いか? エディを見て見ろ? あいつ、お前にイジメられすぎて入学式であんな大失態犯したんだぞ? お前的にはウェルカムな状況かも知れないけどな? 俺の父上、何徹したと思っているんだ? 母上の機嫌が加速度的に悪くなるのを見るのは正直、しんどかったんだが?」
ジト目を向けるアインツに『うっ』と息を詰めるディア。確かに、エディとディアの関係で多方面に迷惑を掛けている事はディアも承知なので、ちょっとだけ気まずくなったんだ。そんなディアから瞳を逸らさないアインツに、ついに居心地が悪くなったのか、ついっとディアが視線を逸らし。
「……悪いのは、エドワード殿下ですし」
責任転嫁した。まあ、確かに入学式で、公衆の面前で、大々的に婚約破棄をしたのはエディであって、ディアは被害者なのだ。なので、この結果だけ見れば悪いのはエディただ一人なのだが。
「……まあ、直接的な原因はそうだろう。だがな? 『因果』という言葉がある。物事に『結果』があるなら、そこには必ず『原因』があるんだ。エディだって馬鹿じゃない。クレアが幾ら魅力的だろうと、流石にいきなりクレアと婚約を! なんてすると思うか?」
「うっ……そ、それは……」
「エディの事だ。本当にクレアが欲しければ、お前と婚姻後に、しかるべき立場で……まあ、側妃としてクレアを迎えることだってできた。っていうか、正直するならそうするのがベターだろう。なあ、クラウディア? もう一回聞くぞ? エディが本当に、その程度の判断が出来ない、無能な王子様だと思うか?」
「……思いません」
ディアだってエディの事は認めているのだ。男性としてはルディの足元にも及ばないとは思っているが。
「だろう? そもそも、お前がもうちょっとエディに優しくしていれば、穏便な解決策もあったはずなんだ。それを……何処の世界に、婚約者に鎧フル装備で渡河訓練させる婚約者が居るんだ? そら、エディだって勢い余って婚約破棄なんかしちゃうだろうが。っていうか、なんだよ、鎧フル装備で渡河訓練って。なんだ? お前、エディを暗殺とかするつもりなのか?」
全然『暗』殺では無いが。明らかに殺しに来ているやーつである。アインツの論法に、うぐっと言葉に詰まっていたディアだが、此処まで責められるのもなんだか納得が行かなくて、口を開いて反論を試みる。
「そ、それは……じゃ、じゃあ! アインツはエドワード殿下が悪くないと言うんですか!! どう考えても一番悪いのはエドワード殿下じゃないですか!! 私、被害者ですよ!!」
「さっきも言ったが、それはその通りだ。基本的にエディが悪い。だがな、クラウディア? そこまでエディを追いつめたのはお前だろう? もう少し上手くやれば、皆が幸せな解決策もあったはずなのに、それをぶち壊したのはお前の態度にも一因があるという話だ。エディはそもそも、ルディに王位を継いで貰いたかったはずだし、それならもう少し時間を掛けて地固めすることも出来たはずなんだ。それを……お前の『圧政』に耐えかねて、あんな最悪の形で『ボカン』だぞ?」
はぁ、と大きく息を吐くアインツ。そんなアインツに、ディアはもう一度『うっ』と息を呑む。
「な、なんですか……そんな理詰めで来て……アインツ、貴方、理系ですか!?」
「……なんの話だ?」
何言ってるんだ、こいつ? というアインツの視線に、ぷいっとそっぽを向いて。
「私、理系、嫌いです」
「……エルマー殿に手を付いて謝れ」




