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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百十九話 国際問題になるやーつ


「そ、その、る、ルディ……ほ、本当に申し訳ございません……」


 先ほどまでは『申し訳ございませーん!!』なんて叫んでいたクリスティーナだが、今は少しばかり冷静になり――そして、冷静になって改めて思った事は。



「ほ、本当に申し訳御座いません……わ、私は何という事をしてしまったのでしょうか……」



 真っ青な顔になって再び頭を下げるクリスティーナ。つい、本当につい、出来心で――まあ、ちょっとというか、だいぶの下心込みでルディの手を引っ張って『王家の森』の横道に入る、なんてことをしてしまったが、蓋を開けてみれば遭難である。そして、それが意味することは。




「――完全に、国際問題です。大変申し訳御座いません。この事は私からお父様に報告しますし、しかるべき処罰を受ける事、それと賠償も約束します。なので……どうか、寛大な処置をお願いします。頼めた義理では無いのは百も承知です。百も承知ですが……戦争だけは、なんとしても避けて下さい」




 何を大袈裟な、と思われるかも知れないが、よく考えなくてもこれは普通に国際問題である。ルディはラージナル王国の第一王子であり……まあ、現状ではなんとも言えないが、エディの失権が起こった今、王太子候補の筆頭なのだ。そんな王子様を、自分の我儘で遭難という危険な目に合わせてしまっているのである。どれだけの賠償も、またどれほどの無理難題を押し付けられても可笑しくは無いほどの大失態なのだ。そら、クリスティーナも顔を真っ青にしてオロオロするというものだ。


「そんなオーバーな」


 だって云うのに、ルディは困ったように苦笑を浮かべるのみ。そんなルディに、クリスティーナが声を大にして言う。


「なにがオーバーなものですか! わ、私は、自身の我儘の為にルディを危険な目に合わせているのですよ!? この国の第一王子である、ルドルフ・ラージナル殿下を、この様な場所で遭難させてしまったのですよ!? こんなの……明らかな政治問題です!」


「クリスは……クリスティーナ・スモロア姫は、僕に対して害意があったの?」


「ある訳ありません! 怒りますよ!!」


「もう怒っている件。ともかく、それなら――」



「――そういう問題では無いのです、ルディ。私がどう思ったかとか、故意じゃ無かったとかはこの際、些末な問題です。問題は、私がルディを危険な目にあわせてしまったという、『事実』があるということです」



 クリスティーナのその言葉と、真剣な眼差し。幾ら幼馴染で仲が良いから――否、仲が良いからこそ、『ここ』のけじめは大事だ。そんなクリスティーナの視線に、ルディは少しだけ驚いた表情を浮かべた後、ゆるゆると息を吐く。


「……それを言ったら僕の方がヤバくない? だってクリスティーナは女の子だしさ? 僕が無理矢理、夜の森で関係を迫った……なんてことを言ったら、賠償するのはこっちだよ? 基本、こういう時は女性の方が有利だし」


 暗闇の森で若い男女が二人きり、何も起きない訳はなく――と、下世話な話が浮かんできそうなもんだが、これは実はほぼ完全に『ない』。なぜなら、男尊女卑傾向にあるラージナル王国では、『逆に』女性側が完全に弱い立場であるがために、『こういう』事件の場合は本当に女性側が誘っていても、後で女性側が泣きつけば百ゼロで男性側に不利な判断をされるのである。痴漢冤罪と、構造的には一緒だったりするのだ。なもんで、女性側からモーション掛けられても、よほど頭のネジが抜け落ちてない以上、貴族令息は間違いなくお断りをするのだ。ある意味、男性側の良識が試されるのである。勿論、婚約者とか実際に付き合ってるカップルではあったりもするのだが、本筋では無いので省く。


「そ、そんな事有り得ません! 他の人ならいざ知らず、私とルディでそんな事になる訳ありません!!」


「はは。冗談だよ。僕もクリスがそんな事するなんて――」


「そうではなく」


「――思って……へ?」


 一息。




「――ルディが無理矢理迫ってきたら、むしろウェルカムで受け入れるって皆さん知っていますし! だから、私がどれだけ主張しても無意味なんですよ!! それぐらい分かるでしょう、ルディだって!! どれだけ私が貴方を愛しているか!!」




「――……あ、はい」


 理由がとんでもなかった。まあ、言っている事は間違ってはいないが。ルディからそういう『お誘い』を受けた場合、正に鴨がネギ背負った上に、鍋に飛び込んだ状態だ。クリスティーナは諸手を挙げて『美味しく』頂くだろうし、クラウスやアインツは『よくやったな!』と拍手の一つでも贈り、ディアがハンカチ噛んで『キィー!』と悔しがるくらいのもんだ。


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