第二百十八話 集まれ! 王家の森!!
皆様お忘れかも知れないが、ルディやクリスティーナが過ごすこの世界は、令和最大のクソゲーと呼ばれた、『わくわく! 恋の学園大戦争!』、通称『わく学』の後継作品である。平成最後、令和最初のGWに発売された乙女ゲームであり、そして『伝説のクソゲー』としてその名を馳せた乙女ゲームである、その特級呪物を産み出したコウエンジシステムズの新作ゲームとして――起死回生の一発として発売され、そのまま葬送歌となってしまった――乙女ゲーム、『わくわく! 恋の王宮大闘争!』、通称『わく王』の世界だ。悪くも悪くも、癖の強いゲームの世界であり、ワールドワイドで『駄作』と呼ばれた作品である。
しかしながら、この作品――というより、この作品の発売元であるコウエンジシステムにはなんというか、乙女ゲームメーカーとして致命的で、それでいて少しだけ魅力的なシステムが組み込まれている。それこそが、『スモルの森システム』、通称『SFS』である。
『スモルの森』とは、この会社の一作目である『わく学』内にて行われた肝試しイベントにおいて、プレイヤーキャラクターである『エリサ・ロクサーヌ』が遭難する森のことである。
このエリサ・ロクサーヌが脇道を発見して『探検』という名の遭難に出るのだが、なぜかその部分は3Dアクションゲームになっており、敵こそ出ないものの、生い茂る枝やら切り株を避けて歩いて行くゲームになっていて、特定攻略キャラクリア後に開放されるミニゲームでは、スモルの森全体を探索できるようになり、『まるでちょっとしたオープンワールド』とか『自由度が凄い』なんて評判になり、ネット上では『集まれ、スモルの森!! ~エリサちゃんのソロキャンプ日誌~』みたいなブログも出来てたりして結構な人気を博したのだが……乙女ゲームでのそれは完全にカテゴリーエラーだ。だって言うのに、このコウエンジシステム、作品を発売するたびにこの『スモルの森』っぽい3Dアクションのミニゲームを入れており、コウエンジシステムの新作が出る度に『今回のSFSはどんなのかな?』とか、『前回、敵キャラとしてクマっぽいの出て来たし、今度は一狩り行こうぜ! の流れになるかも!』みたいな、およそ乙女ゲーらしからぬ盛り上がり方をしてしまったのである。
閑話休題、何が言いたいかと言うと。
「……ねえ、クリス?」
「……は、はい?」
先導するクリスティーナに、ルディが声を掛ける。そんなルディの声に、クリスティーナはにっこりと――かなり引き攣っているも、それでもにっこりと笑ってルディに振り返る。そんなクリスティーナにため息を一つ吐いてルディは。
「…………ここ、どこ?」
「…………てへぺろ?」
「可愛いか」
この『王家の森』、くっそ広いのである。なんせ『今回のSFSは凄い!! 今までで一番の広大なオープンワールドだって!』『いや、そのウリは乙女ゲームには求めてません』『コウエンジシステムは正気に戻ってもろて……ああ、これ、平常運転だったわ』『流石、コウエンジシステム、私達に出来ないことを平然とやってのける! あ、別に痺れたり憧れたりしません』『なんでその技術があって、キャラの立ち絵を片方しか出せないの? マジで意味不明なんだけど! コウエンジシステムは早急にキャラの立ち絵、逆方向も増やして貰って良いですか? 変な所にリソース割かないで!』みたいな、コウエンジシステムらしいと言えばコウエンジシステムらしい『やらかし』をして、ネタになっていたりする程に。
「てへぺろはイイから。可愛いけど。それで? クリス、ここ、何処なの? なんか自信満々にずんずんと奥に進んで行ってたけど……帰り道とか、分かる?」
「か、帰り道ですか? や、ヤですね~、ルディ? 私の事、疑っているのですか? も、勿論、帰り道は把握していますよ!! この完璧王女と呼ばれたクリスちゃんを舐めて貰っては困ります!! ええ、勿論、把握しておりますとも!! 大丈夫です!! 帰り道は……あっち、です!!」
そう言ってクリスティーナが指差した先は。
「……そこ、さっき通って来た道だよね? しかもそこ、既に三回目だよね、通るの。何回もぐるぐると同じ所、さっきから回ってない?」
「じょ、冗談です! い、今のはほら! ルディを試しただけです!! だ、大丈夫!! 安心してください、ルディ!! 本当はあっちですよ!!」
「……あっち、崖だったよね? 確かに最近色々あって疲れている僕に、一思いに……っていう優しさなら受け入れるけど……」
「そ、そんなわけありません!! ルディは私と末永く幸せに、一姫二太郎を育んで行くんです! 犬のなすびと!!」
「ちょっと何言ってるか分からない件。それで……クリス?」
にっこりと笑って。
「――迷った、よね?」
「……」
「……」
「…………も」
「も?」
「申し訳、御座いませーーーーーーーん!!!」
エルマーとユリアがらぶらぶちゅっちゅして、エドガーとクレアがチベットスナギツネみたいな顔をしていた頃、ルディとクリスティーナは。
「……遭難、しちゃったかぁ~」
遭難していました。




