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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百十三話 酷いマッチポンプ


「……やることがえげつなくないですか、ユリア姉さん」


 胸を張ってそんな事を言うユリアに、ドン引きした顔をしてエドガーがポツリとそう呟く。そんなエドガーの一言に、ユリアが喰ってかかる。


「どこがえげつないし! 普通じゃん、普通! 自分の大好きな男の子が、どこの誰とも分からない女の子と恋人同士になるなんて許せる訳ないし! その為に、ライバルを蹴落とすのは当然じゃない!?」


「……まあ」


「でしょ! エドガー殿下だってそうじゃん! エドワード殿下とクレアっち取り合ってるんだから! 私だってやっている事は一緒じゃん!!」


 ユリアに言っている事は間違ってはいない。それだけ大事で、盗られたくないのであれば『敵』は排除しなくてはいけないし、もっと言えば『潜在的な敵』を作らせないのが一番だからだ。言ってみれば、エドガーだってエディと現状バチバチやってるのもこれなのだから。これなのだけど。




「――バーデン家の力をフルに使うところがえげつないです」




 これである。謀略と暴力に生きる、貴族社会のアウトローとも言えるバーデン家のフルパワーでこれを行っているのだ。エドガーとエディの、どこか牧歌的なそれとは一線を画す、なんかドロドロした陰謀を感じさせる。『恋愛』という共通点があるだけで、実際は子供用ゴーカートと、F1並みに違う。


「……ん? あれ? ちょっと待って下さい」


 エドガーに喰ってかかるユリアに、クレアが首を捻ってみせる。


「なに、クレアっち!」


「いえ、エルマー先輩、デビュタントで全然声を掛けられなかったんですよね? でも、エルマー先輩、デビュタントまで全く外出して無かった訳じゃないんですよね?」


「そりゃそうだし! エルマー様、技術院とかに出仕してたしね! まだ学園生になる前からだよ! 凄いんだよ、エルマー様は!!」


「いや、出仕というか、遊びに行っていただけだが……」


 まるで自分の手柄だと言わんばかりにそう言って見せるユリアに、エルマーが少しだけ苦笑を浮かべながらそう訂正する。訂正するも、まあ、自分の憎からず思っている女の子に褒められるのは、嬉しいのは嬉しいのである。


「学園だって一年通った――まあ、技術開発部登校なんでしょうけど、登校していたんですよね? それなら、デビュタント以外でも声を掛けられること、無かったんです?」


 クレアの指摘に、イヤそうに顔を顰めるエルマー。そんなエルマーに、納得いったような顔をしてクレアは視線をユリアに戻す。


「……もしかしてユリア先輩、エルマー先輩に近づきそうな女の子、全部遠ざけていたんですか? デビュタントだけじゃなくて……日常生活でも? え? 学園に入る前から?」


「もちろん、そうだよ!! だってエルマー様だよ!? 何処で誰に狙われるか分かったもんじゃないからね!! バーデン家が誇る『草』の集団が本気でエルマー様をガードしたんだから!!」


「『草』って」


 忍者みたいな感じです。


「俺、そんな完全警護されていたのか……もしかしたら、ルディやエディより手厚い警護だったんじゃないか?」


 なんだか遠い目をするエルマー。そんなエルマーに、ユリアはにっこりと笑い掛ける。


「そうだよ! エドワード殿下やルドルフ殿下なんてメじゃないくらいの、凄い警護体制だったんだから!! だから、エルマー様は――」


「ええっと、すみません、ユリア先輩。ちょっと良いですか」


「――ずっと……なに、クレアっち?」


「いえ、今ふと閃いたんですけど……エルマー先輩、人付き合い嫌いって言ってたじゃないですか? それって」




 ユリア先輩のせいじゃないです、と。




「…………へ? わ、私のせい!?」


「だってエルマー先輩、ルディ様とかクラウス様とかアインツ様、或いはエドガー君とは普通に喋れるじゃないですか。それで、エルマー先輩が普通に喋れないのってよく考えたら女の子ばっかりだな~って。そう考えたら、ユリア先輩がエルマー先輩の……成長の機会? っていうんですかね? それ、奪ってたのかな~って」


そうなのだ。実は、エルマーがコミュニケーション能力を著しく喪失したのは、実はこのユリアの囲い込みにある可能性もなくはなかったりするのだ。そら、『女性と喋る』という、人類の半分とする可能性のある訓練を積まないままでエルマーは十七歳の男の子になってしまっているのだ。そら、経験値が少なければ嫌いにもなるだろう。


「……」


「……いや、ユリア先輩の気持ちも分からんではないですよ? 分からんではないですけど……流石にちょっと、エルマー先輩が可哀想っていうか……」


 クレアの言葉に、ユリアの頬にたらーっと一筋汗が流れる。そんなユリアをじとっとした目で見つめていたクレアの視線に耐えかねたか、ユリアは殆ど勢いだけで声を出す。



「だ、大丈夫だし!!」



「……何がです?」


「エルマー様が別に、コミュニケーションとか取らなくても大丈夫だし!! 私が、エルマー様の代わりにコミュニケーションを取れば問題ないし!! え、エルマー様だって別にコミュニケーション取りたい訳じゃないし!? その分、エルマー様は研究に頑張って貰えればいいし! て、適材適所だし!!」


「……」


「……な、なにさ、クレアっち! そんな目で私を見て!!」


「いえ……なんと言いましょうか……」


 ため息一つ。




「……散々甘やかして依存させて、自分の意のままに操ると言いましょうか……やり口がなんだか洗脳みたいで……」




「せ、洗脳ってなんだし!! 違うし!!」



 洗脳は酷い、洗脳は。精々、マッチポンプくらいのもんだ。


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