第二百十二話 恋する乙女の特権だし!
「人付き合いが嫌いって……いや、確かにそんなに人付き合いが好きな訳では無いが……」
ユリアの言葉にきょとんとするエルマー。そんなエルマーに、ユリアは尚も言葉を続ける。
「そもそもエルマー様、普通に気遣いとか出来るじゃん! 人付き合いが苦手な人、コミュニケーション能力が欠けている人はそんなこと、出来ないもん!!」
「……そうか? そうばっかりじゃないんじゃないか?」
極論と言えば極論の『人付き合いが出来ない人は、人に気が遣えない』発言。そんな発言に疑問を呈すエルマーに、ユリアは口を開く。
「まあ、極論かも知れないけど!! でもね? 基本、人付き合いが出来ない人って自分の事ばっかりなんだ! だから、人が離れていっちゃうの!!」
「……まあ、そう言う事なら分からんでは無いが……」
一息。
「――自分で言うのもなんだが、俺、気を遣える方ではないんだが……」
これである。だが、このエルマーの『低い』自己評価をユリアは許さない。
「そんな事無いし!! 小さい頃だって、私が詰まらなそうにしてたら気を使ってくれてたし、ルドルフ殿下とも普通に仲良しじゃん! クレアっちだってそう思うでしょ!!」
不意に話を振られたクレア。だが、ユリアの言う事は一々ご尤もであり、クレアもこくりと頷いて見せる。
「そうですね。エルマー先輩、優しいですし……まあ、ユリア先輩の言う通り、人付き合いが出来ない訳じゃ無いと思います」
「クレアの言う通りだね。確かにエルマーは人付き合いを避けている節があるけど……まあ、それだって開発とか研究とか、そっちの方がエルマーにとって重要ってだけだと思うし。人付き合い自体は出来るんじゃないかな?」
クレアの言葉にエドガーも頷きながら相槌を入れる。そんな二人に、エルマーはポカンとした顔を見せた後、視線をユリアに戻し、ポツリと。
「……もしかして俺……陽キャなのか?」
少しだけ期待を込めたエルマーの視線に、ユリアはにっこりと笑って。
「あ、それは無いです。エルマー様は陰キャなの、間違いないし」
「……酷くないか、ユリア嬢?」
「エルマー様、陽キャになりたいの?」
「いや、別に陽キャになりたい訳ではないが……」
陽キャになりたい訳ではないが、流石に憎からず思っている女の子からの陰キャ扱いはクるものがある。格好つけたいのだ、エルマーだって。
「エルマー様がうぇいうぇい言うようになったらイヤだし。だから、エルマー様は今のエルマー様で良いの!」
「……そうか。まあ、俺も自分が『うぇいうぇい』言う様な姿は想像できんし、死んでも御免だとは思うが」
「でしょ? でもね、エルマー様? さっきも言った通り、エルマー様は陰キャでもモテるんだから、あんまり無自覚に優しくしちゃ駄目!! クレアっちにしたみたいにナチュラルに口説くのはダメなの!! 私、心配しちゃうじゃん!!」
ぶぅ、と頬を膨らましてエルマーを睨むユリア。そんなユリアに、エルマーは首を傾げて見せる。
「……ユリア嬢の言っている事は分かった。別に無自覚に口説いているつもりはないのだが……」
「そりゃそうでしょ! 無自覚に口説いているつもりが無いから、無自覚って言うんだし!!」
「確かに」
「ちなみに、これ、自覚あって口説いていた日には……」
「怖い目をしないでくれ!! 口説いてないから!!」
ユリアの目のハイライトさんがストライキを起こした事に、慌ててエルマーが声を継ぐ。端的に言って、無茶苦茶怖いのだ。
「……ともかく、だ。人付き合いは苦手――じゃなくて、嫌い、か。嫌いな俺だぞ? 今までだって誰も口説いて来た……というより、そもそもだな? 俺、入学以来、女子とまともに話もしていなかったのだが?」
そうなのだ。ユリアは『無自覚に口説く』と言われたが、そもそもエルマーは入学以来、女子生徒と会話らしい会話をしていないのである。まあ、技術開発部登校のエルマーだし、当たり前と言えば当たり前だ。
「……デビュタントでも誰にも声を掛けられても無いし。それはユリア嬢だってしっているだろう? ずっと隣にいたんだし?」
プラス、貴族令息、令嬢のお披露目会であるデビュタントでも誰からも話しかけられなかった。ちなみにユリアのエスコート……というか、同伴したのはエルマーだ。理由は推して知るべしである。そんなエルマーの疑問に、ユリアは胸を張って。
「それはそうでしょ? だってエルマー様に群がる可能性がある泥棒猫、私が先に排除してたし! 頑張って、エルマー様に近づく女の子をけん制してたし!! バーデン家の力を、フルに使ってねっ!!」
「……排除って。怖いよ、バーデン家」




