第二百十一話 別にエルマーは人付き合いが苦手な訳じゃない。
「……ゆ、ユリア嬢? ええっと……何を言っているんだ? その、君がそう言ってくれるのは嬉しいのだが……」
完全に困惑顔を浮かべるエルマー。そんなエルマーに、ユリアは『きっ!』とした表情を浮かべてエルマーを睨む。
「『嬉しいのだが?』! 嬉しいの『だが』ってなんだし! 言っておくけどエルマー様!? エルマー様が今更どういったとしても、私はエルマー様を離す事は無いからね!!」
ふーふーと鼻息荒くエルマーを『きっ!』と睨むユリアに、先程以上に困惑顔を浮かべるエルマー。
「ああ、いや、その……そういう話ではない。ユリア嬢がその……俺を、好いていてくれるのは有難いし、俺的にはそれも吝かではないというか、むしろ……ああ、違う! そうではなくて……」
少しばかり、言い難い。それでも涙目でこちらを睨んできているこの幼馴染に、この言葉を告げなくてはいけないと思い……でも、流石にちょっと恥ずかしいとも思い、それでもこのままじゃ話が進まないと思って。
「…………ユリア嬢が心配するほど俺、モテないんだが」
絶望的な目をしてユリアを見ながら、そう言って見せるエルマー。まあ、エルマーの気持ちも分からんではない。相手からぐいぐい来ているが、エルマーだってユリアには幼馴染以上の感情を持ってはいるのだ。状況に流されて、というのもまあ間違ってはいないが、そもそも両想いから――お互いにお互いが、本当に大好きでスタートする交際関係自体が稀と言えば稀なのだ。片方の想いが大きく、片方が悪くないと思えば成立するのがカップルなのだ。ユリアのクソデカ感情には負けてはいるが、エルマーだって憎からず思っているのだ、ユリアの事を。
「……言わせないでくれないか、ユリア嬢。流石に恥ずかしいし……なにより、情けない」
なんとも情けない話である。憎からず思っている女の子に、『俺、モテないんだ~』である。しかも冗談ベースではなく、ガチのトーンで。なんたる羞恥プレイ。
「そんな事ない! エルマー様、格好いいもん!!」
「……さっきも言ったが、ユリア嬢。有難いし、嬉しいが、それだけはない」
なんせ、根暗で、学校にも――まあ、登校自体はしているが、教室には居ないエルマー。コミュ障の頂きに立つ、正に陰の者、陰者なのだ。そんな自分がモテる訳なんかないと思っているエルマーは、この幼馴染の贔屓の引き倒しを正そうとして。
「――はあ? 何言ってるし、エルマー様!! エルマー様、滅茶苦茶モテるんだよ!!」
「……へ?」
……まあ、よくよく考えて欲しい。エルマー、確かにコミュ障の気はあるし、学校に来ても殆ど技術開発部の部室に籠りっきりの引き籠りだし、根暗だし、陰キャではあるのだが。
「エルマー様、物凄い開発とかしているじゃん!! 百年に一人の天才とか言われているし、顔だって格好いいもん!! 技術開発院の総裁の御子息で、卒業後は近衛にも入るスーパーエリートじゃん!! そんなの、モテるに決まってるし!!」
こういう事だ。エルマーは顔は――まあ、『昭和ギャグマンガの六つ子と一緒』と呼ばれる『わく王』のイラスト、ルディやエディそっくりであり、決して不細工ではない。少しばかり不健康な顔色をしているも、それだってなんだか影のある感じのイケメンに見えるし、何と言っても『ラージナル、いや、世界の技術を百年は進めた』と言われる、ガチモンの天才でもあるのだ。確かにゼロを一にしたのはルディの才能――というより現世知識ではあるが、それを百にも千にもしたのはエルマーなのである。
「……まあ、確かに。それにエルマーって、ちょっと付き合い難い所あるし、不愛想な所もあるけど……別に優しくない訳じゃないからね」
「ああ、それ、凄く分かります!! エルマー先輩ってこう……なんて言うんでしょ? 人付き合いが苦手な人って感じしないんですよね。人にもちゃんと気を使えるというか……相手の気持ちがちゃんとわかるって言うか!!」
「それはあるかも。小さい頃に遊んでいても、自分のことばっかりしてるけど、話しかけたらきちんと話はするしね! まあ、クラウスとは相性悪いみたいだけど……あれはクラウスの絡み方が悪いだけだし」
盛り上がるクレアとエドガー。そんな二人に、ユリアは『うん!』と大きく頷く。
「そうだし! そもそも、エルマー様は人付き合いが苦手な訳じゃないし!」
「い、いや、ユリア嬢? 俺は決して人付き合いが得意では無いぞ?」
「まあ、得意ではないだろうけど、そこまで苦手なワケじゃないし! エルマー様は単に!」
そう言って、びしっとユリアはエルマーを指差して。
「――人付き合いが、『嫌い』なだけだし!!」
腰に手を当てて、心持胸を張って『ふんす!』と言わんばかりの表情を浮かべるユリアに、エルマーはもう、言葉も無かったりする。




