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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第二百九話 語り合いとは?


 エルマーを発見した後のユリアの行動は早かった。肩に手を置いて『――浮気者deathね~!!!???』といったあと、エルマーの肩に置いていた手をそのままエルマーの首元に持っていき、シャツの襟をつかむユリア。にこーっと物凄い笑顔を浮かべて、この小さな体のどこにそんな膂力があったのかと思わんばかりに、エルマーの体を持ち上げて見せる。


「詳しい事情、聴かせてくれるんだよね~、エルマー様?」


「ご、誤解だ!! べ、別に俺はクレア嬢を口説いたりはしていない!!」


「へぇ? そんな事言うんだ、エルマー様? 本当の事、言わないつもりなんだ~」


「ほ、本当の事しか言って無いんだ――けぽ! し、締まってる!! ユリア嬢、本気で締まってる!! 死んじゃうから、俺!!」


「あはは~。エルマー様、おもしろーい。これくらいじゃ人間は死なないのは、実証済みだし? だいじょーぶ、だいじょーぶ。ちょっと苦しいだけだよ~?」


「実証ってなんだ!? バーデン家、怖すぎるだろう!?」


 言ってることがもう、暴力のプロのそれである。そんなユリアの、その細腕をタップして降参の意を示すエルマー。と、ユリアに置いて行かれたエドガーがようやく到着した。


「はぁ、はぁ……ゆ、ユリアじょ――姉さん!? それは不味い!! エルマーの顔が青を通り越して白くなっている!! は、離して! 直ぐに離して!! エルマー、天に召されちゃう!! 不味いって、それ!!」


『ユリア嬢』を忘れ、昔の呼び名である『姉さん』になるほど焦るエドガー。それくらい、今のエルマーの顔色はちょっとヤバいのだ。


「……殿下、煩いし。今はエルマーと大事な話をしているし?」


「話なんかしてないじゃないですか! 肉体言語で話し合うんじゃなくて、冷静に!! 冷静に話し合いましょう!!だから、話し合うためにまず、エルマーを離して!!」


「話すために離す? ははは~。殿下、おもしろーい」


「別にシャレで言った訳じゃありません! 冗談抜きで、シャレにならないですから!!」


「ん~。でもまあ? 別にエルマー様に『だけ』聞かなくちゃいけない訳じゃないし?」


そう言って、目の奥が笑ってない笑顔のままギギギと首を、まるで油の切れたブリキ人形の様に動かして視線をクレアに固定する。


「――クレアっち?」


「ひぅ!? ゆ、ユリア先輩!! 怖い!! ユリア先輩の可愛い顔が物凄く怖い事になってます!!」


 片側だけ口角が上がった、アシンメトリーな笑顔で目が笑っていないのだ、ユリア。小さい子供が見たらきっと、トラウマになるレベルの怖さである。


「怖い? あれ? 私の事、怖い? そんな怖い私より、可愛い自分の方がエルマー様にはお似合いってことかなぁあああああ!?」


「煽ってるのか、クレア!?」


「そんな意図はねーですよ!! っていうか今のセリフのどんな裏読みしたらそんな事になるんですか!? 事故です!! 完全に事故ですよ、これ!?」


「――くぺ」


「あー! だ、ダメです姉さん!! そんなに興奮したら!! 締まってる!! 本当にエルマーの首が締まってるから!!」


 エドガーの言葉にエルマーの顔をちらりと見て、『あ、これは不味い』と思ったユリアは冷たい視線はそのまま、エルマーを降ろす。彼女は暴力のプロ――じゃないけど、ラインは見極められるのだ。ユリアから解放されたエルマーは、その場で跪きゲホゲホとせき込みながら、涙目を浮かべた。そんなエルマーの側に駆け寄ると、エドガーはエルマーの背中を摩る。


「だ、大丈夫かい、エルマー!?」


「……殿下、助かった。そして、だいじょばない」


 大丈夫な訳はないのだ。そんなエルマーとエドガーの会話に、『いらっ』とした様な視線を向けてユリアは組んだ腕の右手の人差し指で左腕を『とんとん』と叩きながらエルマーに冷たい視線を向ける。


「それで? エルマー様、弁解はあるし? あるんだったら聞いてだけ上げるし?」


「……ユリア姉さん。流石にやり過ぎじゃないですか? 話も聞かずにエルマーの胸倉掴み上げて――掴み上げてって表現で良いの、あれ? なんかエルマーの足が地面から浮いていたんだけど? 姉さん、膂力凄くないです?」


 ユリアに非難の目を向けながら、それでも避難できる程度の距離と、いざと鳴ったらエルマーを盾にしようと自身とユリアとの間にエルマーの体を入れてそう抗議するエドガー。そんなエドガーに、ユリアは『ふんっ』と鼻を鳴らして。



「浮気者には死を! って古今東西、相場が決まっているし!!」



「……それ、物理的にするもんじゃないんじゃないですかね? 社会的に抹殺されるって意味じゃ無いんですか?」


 ユリアの言葉に、エドガーは盛大にため息を吐いた。



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