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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第百九十九話 ダメ男好きになるタイプ


 エカテリーナの言葉に思わずずっこけそうになるアインツ。好きな人を、想い人を差す言葉として、『アイツ、バカだし~』と言わんばかりの態度は流石に酷い。


「……酷くないか、エカテリーナ嬢?」


「でも、アインツ様も思いませんか? クラウス、難しい事を考えるの苦手でしょ?」


「……まあ」


「どっちかって言えば――というか、がっつり体動かしている方が性に合ってますし。難しい話の半分くらいは理解できてなくても、きっとアインツ様とかルドルフ殿下、エドワード殿下が『こうしよう!』って言うと、『了解!! 分かったぜ!!』って分かって無くても言うタイプですよ、クラウス?」


 エカテリーナのその言葉にアインツはしばし中空を見つめて。



「……なんも言えない」



 流石、幼馴染。自身も幼馴染であり、ある程度以上クラウスを理解しているアインツには解像度の高い言葉ではある。


「……やはり君もクラウスの幼馴染だな。クラウスへの理解が深い」


「まあ、クラウスが単純なだけの説もありますけどね。ともかく、クラウスはきっと今のアインツ様の説明を理解していないと思うんですよ。まあ、ちょっとくらいは分かっているでしょうけど、完全に理解はしていないんじゃないかなって」


「……否定は出来ない」


 一息。



「だから、賛成は出来ない?」



「いいえ」


 そんなアインツの言葉を、エカテリーナは首を左右に振って否定する。


「クラウスは……まあ、確かに馬鹿でアホですけど」


「言い方」


「馬鹿でアホですけど、決して頭は悪くないです」


「……ふむ? よく分からんな。馬鹿でアホだが、頭は悪くないのか?」


「人を見る目はありますよ、クラウスは。難しい事を考える事は苦手だとしても、その難しい事を言っている人間が自身を騙そうとしているのか、自身にとって不利益な事を言っているのか、自身に嘘を吐いているのかを見抜く目は持っています」


「……ああ、なるほど。それなら分かる」


「考えるのは苦手ですけど、考え無しでは無いですからね。個人的にはもうちょっと思慮深く動いてくれれば良いのに……とも思わないでも無いですけど、そういう所もクラウスのいい所ですし」


「思慮深くないのがいい所、か?」


 そんなアインツの言葉に、エカテリーナは曖昧に頷いて。



「思慮深いなら、きっとこの場では『なにもしない』が正解ですよ」



「……ふむ」


「エドワード殿下の即位は既定路線と聞いています。クラウスは次男ですが、エドワード殿下の信頼が厚い……んですよね? 仲が良さそうな話は聞きますけど……」


「肯定だ。エディはクラウスの事を信頼している」


「良かった。アイツ、バカだから気に入られているつもりかと思っていましたので。まあ、エドワード殿下がそのまま王位を継げば、クラウスにとってはそんなに悪い事にはならないと思うんですよ。既定路線に悠々と乗っていけば、クラウスの人生はきっと安泰です」


「まあ、エディが王位を継げるかという問題点はあるがな」


「その場合、ルドルフ殿下に鞍替えすれば良い。だってクラウス、ルドルフ殿下とも懇意なんですよね?」


「……ああ」


「ルドルフ殿下のお噂はかねがねお聞きしております。失礼ながら、『平凡』と称される様な方では無いでしょう。先程のアインツ様の言葉もありますし……何よりかのお方は情に厚い方です。きっと、クラウスがエドワード殿下に着いて、それでもダメな場合でもクラウスの事を無碍にはしないでしょう」


「……だろうな。ルディは……あまり良い事では無いが、きっと敵にも甘いだろうし。クラウスがエディ派についたとしても、きっと大事な弟を守ってくれてありがとう、くらいは言うだろうな」


「そうでしょう? なればこそ、現状でルドルフ殿下の陣営に加わる必要は無いんですよ、クラウスは。このルドルフ殿下を王位に就ける計画……って言うんですかね? これってアインツ様主導でしょう?」


「……正確にはエディの方だが……まあ、俺も一枚嚙んでいるのは間違いない」


「クラウスは何もしなくても良いのに、敢えて順風満帆な道じゃない道を行こうとしている。その理由は何故か? もう、分かりますよね?」


 そう言ってエカテリーナはにっこりと笑顔を浮かべて。



「『しゃーねーな。アインツやエディが言ってるんだし、手伝ってやるか』



「……」


「そういう……清々しい馬鹿なんです、あいつ」


「……言葉も無いな。そしてエカテリーナ嬢、君の言はきっと正しい。あいつは何も考えてない……訳ではないが、深くは考えず俺の、俺たちの味方になってくれているのだろう」


 アインツの言葉に、エカテリーナも少しばかり困ったように頷く。そんなエカテリーナの姿に、少しだけ悪戯心が浮かんだか、アインツが口の端を上げて見せた。


「だが、エカテリーナ嬢? アイツは君のいう通り、馬鹿者だぞ? こんな事すら考えて無いんじゃないか?」


『そんな事はないですよ!』という反論が来るかと思ったのに。




「まあ、推測ですし? 此処まで難しい事は考えて無いでしょう、クラウスは」




 そう言って、エカテリーナは頬を赤らめて。




「でも、何も考えずにそういう行動しちゃう……友人の為に、自分の身を差し出す潔さも格好いいと言いましょうか……そういう、真っすぐな所も、良いな~って」




「……聞くんじゃなかった」


 あばたもえくぼ。ホレた男なら、駄目な所も好きになるものであり、アインツの不快指数が指数関数的に上がった。


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