第百九十八話 ある意味、最高の信用
アインツの呪詛の声に、エカテリーナが目を丸くして口を開く。
「え? ば、爆発!? 爆発ってなんですか、アインツ様!!」
「コホン。なんでもない。話を戻すが、ルディの才能は別に枯れてはいない。平凡王子なんて呼ばれているが、それは世を欺く借りの姿だな」
「え? 何も無かったかのように話を始めるんですか? っていうか、ルドルフ殿下、世を欺く必要あるんです? 堂々としていれば宜しいのでは無いでしょうか?」
「エルマー殿の事は知っているか?」
「あ、話聞かない感じですね……え、ええっと……はい、エルマー様の事は存じ上げています」
エカテリーナの言葉に、アインツはにっこりと笑って。
「変人で?」
酷い事を言った。そんなアインツに、ぶんぶんと慌てた様にエカテリーナが首を左右に振って見せる。関係ないが、そんなに慌てたら実は思っていたみたいで逆に怪しい。
「い、いえ! そんな変な意味ではなく!! そ、その神童というか……技術院に多大なる貢献をされていると……エルマー様一人で、王国の技術は十年は発展したとか……」
少しだけ自信なさげにそう応えるエカテリーナ。そんなエカテリーナに、アインツは首を振る。
「三つ、訂正だ」
横に。そのまま、アインツは指を一本立てて見せる。
「一つ、エルマー殿の技術は王国に留まらない。世界全体のレベルを押し上げるだろう」
「……」
「二つ。エルマー殿の『発明』は、王国を含めた世界の『レベル』を百年以上は進めているだろう。十年に一人の天才なんてものじゃない。まさに、神に愛されたと言っても良い才能だ」
指をもう一本立てて見せるアインツ。そんなアインツの指をじっと見つめ、エカテリーナは口を開く。
「……そんなに凄いんですか?」
「凄い、なんてものではないな。例え話に過ぎんが、エルマー殿がスモロア辺りに亡命したら、正に国家間のパワーバランスが崩れかねない。それくらい、彼は『特異点』なんだよ」
そこまで喋って、アインツは一つ咳払い。最後の指を立てて。
「三つ。エルマー殿『一人』で全ての発明を成し遂げた訳ではない。そのすべての発明に、ルディの意思というか……『アイデア』が入っている」
「……信じられない」
「信じるか信じないかはエカテリーナ嬢、君の判断に任せる。任せるが、嘘だけは言っていない。なんならエルマー殿に聞いて貰っても良いぞ?」
自信満々にそんな事を言うアインツ。そんなアインツに、少しばかり視線を中空に彷徨わせて。
「……アインツ様が嘘を言っているとは思いません」
「そうか?」
「はい」
「それは、クラウスの親友だから、という解釈で良いか?」
そんなアインツの言葉にエカテリーナは首を振って見せる。
「いいえ」
横に。
「アインツ様がエドワード殿下とルドルフ殿下、両殿下の御学友であることは知っています。クラウスも含めての話ですが……四人が仲良しだ、とも」
「……ふむ」
「アインツ様的には、エドワード殿下が国王陛下に即位しても、ルドルフ殿下が国王陛下に即位しても、どちらでも問題が無いと思うんですよ。お二人ともに仲が良いですし、どちらが王位に就かれたとしても……済みません、言い方が悪いですが」
アインツ様の『立場』は変わらない、と。
「既定路線でエドワード殿下が国王陛下に即位する路線の方が、きっと楽でしょう。まあ、エドワード殿下とクララ様が『あれ』なので、こちらが難しいのは分かりますし……その線でルドルフ殿下を押されるのであれば分かります。まあ、色々言いましたが――アインツ様が、『嘘を付く』理由がないんですよ」
エカテリーナの言葉に、アインツは少しだけ目を見開いて。
「……いや、驚いた。エカテリーナ嬢、君は賢いな?」
「そうですか? これくらいの現状認識であれば、そこまで難しくはないと思いますが……」
こくん、と首を傾げて見せるエカテリーナに、アインツは苦笑を浮かべる。
「……そうでもないがな。まあ、君の自己評価は置いておこう。本筋では無いしな。では、エカテリーナ嬢? ルディが優秀な王子であって、それでいてエディには失点が付いている。クラウディアの想い人であるルディが王位に就けば、クラウディアも輿入れ出来て幸せになれるし、エディもそれを望んでいる。現時点で誰も反対していないこの『意見』だが」
協力、してくれるね? と。
「……一つだけ、良いですか?」
「……なんだろうか? 私が嘘を吐いているというのなら――」
「そうではなく――ああ、そうではないとも言えないんでしょうか? 嘘を吐いていると言うか……巧く言えないんですけど」
「……誓って言うが、君を謀ろうと思ってはいないぞ?」
目の力を強く、そして言葉を励ましてそういうアインツに、エカテリーナは少しだけ困った様な顔を浮かべて。
「――さっき、クラウスも賛成しているって言ってましたよね、アインツ様。でも、本当にクラウス、賛成してます? アイツ、こんな小難しい事、きっと理解できない気がしているんですけど……?」
「……好きな人に言う言葉じゃなくないか、それ?」
まあ、確かに。クラウス、『難しい事は良く分かんねーけど』と言ってます。




