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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第百九十三話 王族として、当然のこと


 エミリアの発言に、思わず『はい?』なんて情けない声を出したルディが、そのまま視線をエディに向ける。その視線を受けたエディはゆっくりと首を左右に振りながら。


「……全然聞いてくれないんだ、エミリア嬢……」


 精も魂も尽き果てたと言わんばかりの表情でそういうエディに、ルディも思わず視線をエミリアに向ける。向けられたエミリア? むっつりの彼女は未だに頬を赤く染めてルディをチラチラと見やっていた。


「そ、その……ルドルフ殿下もご存じだったのですか!? クラウディア様の『癖』について!!」


「……ご存じも何も、そもそもそんな『癖』はディアには無いと思うんだけど……いや、そりゃ正確には分からないけどさ? 少なくとも僕の知るディアは品行方正な立派なレディだよ?」


 生憎、ルディの目はビー玉なのだ。押し倒すよりも押し倒されたい、変態淑女なのだ、彼女は。まあ、ディアの擬態が完璧だったからという説もあるが。


「ですが、ルドルフ殿下はクラウディア様の全てを存じ上げている訳では無いのでしょう!?」


「……まあ、うん。それはそうだ――」


「そうである以上、もしかしたらクラウディア様にその様な『癖』があるかも知れないでは無いですか!!」


 食い気味にそう主張するエミリア。そんなエミリアに、ルディはため息を吐いて。


「……結局、エミリア嬢は何が言いたいのさ? 何? そんなにディアを変態にしたいの?」


 呆れた様なルディの言葉に、エミリアは大きく首を振る。




「はい!」




 縦に。そんなエミリアに、ルディは信じられない顔でエミリアを見て。


「……え? ガチ?」


 ドン引きである。あからさまなそのルディの表情の変化に『はっ!』と気付いた表情を浮かべたエミリアがわちゃわちゃと手を左右に振って見せる。

 

「ち、違います!! いえ、違わないのですが! い、いえ! 違います!! ええ、違うんですけど、違わないんです!!」


「……何言ってんの、エミリア嬢」


「……何言ってるんでしょうね、私」


 ルディの呆れた言葉に、コホンとひとつ咳払い。


「現在、エドワード殿下とクラウディア様の婚約破棄は貴族の間のトップニュースです。それは勿論、ご存じですよね? そして、概ね『エドワード殿下が悪。婚約破棄されたクラウディア様が可哀想』の論調なのも」


「……まあね。っていうか、普通に考えてそうでしょう?」


 ルディの言葉と非難めいた視線にエディが『うぐぅ』と胸を抑える。まあ、情状酌量の余地はあるのはあるが、流石に『あれ』は傍目に見ればディアが可哀想に映るのは映るのだ。本人、感謝感激雨霰であるが。


「……っていうか、エミリア嬢は違うの? ディアが可哀想って思わないの? 幾ら弟とは言え、僕でも『あれは無いな~』って思ったのに」


「まさか。クラウディア様の境遇は可哀想なんてものでは無いでしょう。押しも押されぬ大貴族の令嬢が、王族に公衆の面前で婚約破棄ですよ? この様な侮辱の極み、もし私がされた場合はエドワード殿下と刺し違えても仇を討つ覚悟です」


 そう言ってエディに『ギンッ!』と音が鳴りそうな視線を送る。そんなエミリアの視線に冷や汗を流しながら視線を逸らすエディに憐憫の視線を向けた後、ルディは視線をエミリアに向けた。その視線を受け、エミリアは再度話を始める。


「まあ、クラウディア様が可哀想だというのは完全に同意しますし、女性として、エドワード殿下のしたことは許される事ではありません。ありませんが――私も、王位継承権を持つ貴族です。しかも、『私たちの代』では、両殿下に継ぐ継承権です。ルドルフ殿下を前に、不敬な発言ではありますが……そう言った意味では、私も『王族の端くれ』と言っても過言では無いでしょう」


「……不敬じゃないよ」


「ありがとうございます。つまりは、そう言う事です。今回は『王族』の失態です。ですが、『王族』としては相手方に『問題』があってくれた場合、少しばかりの釈明の余地はあると……そう、思いませんか?」


「まあ、間違いじゃないかな?」


「であれば、『王族』としてクラウディア様に非があって欲しい、と願うのはそんなに間違った話では無いとご納得いただけますか?」


 こくん、と首を傾げてそう言って見せるエミリアにルディは手を挙げて降参の意を示す。エミリアの言ったことが正しいのは正しいのだ。まあ、それが『公衆の面前での婚約破棄』に対してのどれほどの情状酌量の余地があるかだが……まあ、概ね悪役令嬢断罪モノでは公衆の面前で悪役令嬢の罪をツラツラと述べあげて行われているので、許されるのだろう、きっと。人の心とか無いんか。


「……それで? 本当はルドルフ殿下ならご存じでは無いですか? ああ、ご存じでなくても『これは!』という予兆というか、兆候というか……そう言うの、無かったですか!!」


 鼻息荒くルディに詰め寄るエミリア。そんなエミリアの熱意からそっと視線を逸らして。




「――楽しそうなお話をしていますね、エミリア様? 私も混ぜて頂けますか?」




 額に青筋おっ立てたディアと目があった。あかん、目が笑ってないやつや、これ。


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