第百八十九話 鋭い子
「それで……リーナ様はクラウスの何処に惹かれたのですか?」
アインツにクラウスが爆発を願われてたって関係ない。導火線たるエカテリーナは恋する乙女、そんな乙女は素敵に無敵なのだ。クリスティーナの問いかけに、少しだけ頬を赤く染めて、恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに。
「全部、ですかね?」
頬を染めたまま、それでも堂々とそういうエカテリーナ。そんなエカテリーナに、ディアとクリスティーナは『うへぇ』という顔を。
「全部、と来ましたか……それほどにリーナ様はクラウスを慕っているのですね」
浮かべない。興味津々、もっと、もっととねだる様にエカテリーナに視線を向ける。その視線に、少しだけ気持ちよくなったエカテリーナは口を開く。
「具体的、と言われると難しいのですが……なんでしょう? 幼いころから一緒に過ごしてきましたので……こう、明確に『恋に落ちる』という事は無かったと言いましょうか……気付けばクラウスが居ないと寂しいな、と思うようになって……」
「なるほど。リーナ様は恋に落ちたのではなく、愛を育てたのですね」
「ああ、それが近いかも知れません、クララ様。そうですね私は愛を育てて来たのでしょう。だから……クラウスがルドルフ、エドワード両殿下の御学友に選ばれた時は嬉しさと同時に、寂しさも覚えました」
「それは……」
「王城にはクララ様やクリス様だけじゃなく、可愛い女の子も沢山いると聞いていましたので……流石に五歳では思いませんでしたが、十歳くらいの時はずっとヤキモキしていました。私も頑張って御学友に選ばれたいとも思いましたが……」
「女の子には難しいですね、それは」
ルディとエディの御学友選定でアインツやクラウスが選ばれたのは家格と、それに宰相と近衛騎士団長の息子だった点が大きい。が、それ以上にロブロス家の『令嬢』であることがエカテリーナの御学友就任を阻んだと言っても過言では無いのだ。
「あまり気にすることでは無いと思うのですがね。ああ、これはリーナ様を馬鹿にしている訳ではなく」
「はい。私もそう思います」
クリスティーナの言葉にエカテリーナも頷いて見せる。そんなエカテリーナとクリスティーナに、ディアは肩を竦めて見せて。
「わかりませんよ? リーナ様は聡明な方でしょうが、エドワード殿下はどうだったか。なんせ、前科もありますし」
エカテリーナが御学友に選ばれなかった理由の大部分はコレ、『ルディかエディ、どっちかがエカテリーナに本気になったら困るから』にある。なんせ、ルディかエディ、どちらかのお嫁さんにはディアが就任するのが既定路線だったのだ。そんな中、敢えてディアのライバルを増やす必要は無いのである。
「ですが、それは私もですよ? クララ様はお綺麗ですし、もしクラウスがクララ様に想いを寄せたら……なんて思って枕を濡らしたこともありますし」
少しだけ照れくさそうにそういうエカテリーナ。そんなエカテリーナに、ディアは笑顔を浮かべ掛けて。
「でも――エドワード殿下と、クララ様が仲睦まじそうに寄り添っていらっしゃるお姿を拝見してから、そんな心配は無くなりましたけど! あ、これ、クラウスは相手にされないヤツだ! って」
その笑顔が引き攣る。そんなディアの表情の変化に気付いたのか、エカテリーナが『あ!』と小さく声を上げた。
「す、すみません、デリカシーの無い事を!? 大変申し訳ございません!!」
顔を真っ青にして、頭を何度も下げるエカテリーナ。そんなエカテリーナの姿に、ディアとクリスティーナが困ったように視線を合わし、ディアが口を開いた。
「リーナ様、そんなにお気になさらず。別段、辛いとも悲しいとも思っておりませんし……それに、皆知っている事ですしね」
zエカテリーナもぎこちない笑顔を浮かべて見せた。
「そ、そうですか? ですが、本当に申し訳ございません!」
「いえ、本当にお気になさらないで? そんなに気にしている――」
「最近、クララ様が生き生きされているなぁとは思っていたんですよ! いえ、だからと言って許される事では無いのですが……こう、なんというかルドルフ殿下と楽しそうにされているので、『あ、あんまり気にしていないのかな~』なんて思ってまして、ついつい口に出してしまったと言いましょうか……ともかく、すみませんでした!!」
「「――え、待って? 鋭いんだけど、この子」」
クリスティーナとディアの声がハモった。




