第百八十五話 自由恋愛、最高かよっ!
期待に籠った目をするクリスティーナと、何かを懇願するようなディア。そんな二人の視線を受け、ルディは視線をついっと逸らし。
「……皆違って、皆良い」
るでぃ。流石にそんな玉虫色の回答を許す訳もないクリスティーナは、口角に泡を飛ばす勢いでルディに詰め寄る。
「なんですか、その回答!! ルディ? ルディも大きい方が良いですよね!! 大は小を兼ねると言いますし!!」
「ち、違いますよね、ルディ!! 過ぎたるは尚、及ばざるが如しと言いますし!? やはり、手のひらサイズの方が良いですよね、ルディ!!」
「え、マジで勘弁して欲しいんだけど。なにこの地獄絵図」
ジト目をアインツに向けるルディ。正直、いい加減にして欲しい感じではある。そんな亜ルディの視線に、アインツも気まずそうに視線を逸らす。
「……はぁ。んで? どうしたのさ、二人とも。ああ、胸の話はもうしないよ? どう考えても事故だしさ」
ジト目を向けていたアインツから視線を切って、ディアにその視線を向けるルディ。ルディのそんな言葉に、ディアが少しだけ『むっ』とした表情を浮かべてツンっとそっぽを向く。
「……いけませんか? クリスとルディが楽しそうにしていたので来たのですが。それすら、ルディには迷惑だったでしょうか?」
心持拗ねた様な表情でそう言ってチラチラとこちらを見やるディア。そんなディアに一瞬、呆気にとられた様な顔をした後、ルディは苦笑を浮かべて見せる。
「……ううん。そんなことないよ、ディア。ありがとうね、嬉しいよ?」
ルディのその言葉に『ぱぁ』と華の咲いた様な表情になるディア。そんなディアを見ながら、ルディ同様にクリスティーナが苦笑を浮かべて見せる。
「もう……今回は私のターンでしょうに。少しくらい、遠慮して貰えませんか、クララ?」
「う……そ、それは申し訳ありません! 申し訳ありませんが……」
しゅんと小さくなるディアに、クリスティーナが肩を竦めて見せる。
「まあ、肝試しになれば私がルディを独り占めでしょうし、良いでしょう。それで? クララとアインツはペアなのですか?」
クリスティーナの言葉にアインツは小さく頷いて見せる。
「ああ。クラウディアは現状、『こんな』だしな。流石に他の令息とのペアは厳しいだろうという配慮だろう」
流石にアインツ、良く分かっている。その癖にあんだけ文句を言っていたのは……まあ、彼も健全な男子学園生なのだ。
「クラウディアとはしたい話もあったしな。このペアで問題は無いのは無いが……」
「無いが?」
アインツの言葉を引き取ったルディ。そんなルディに、少しばかり照れくさそうにアインツは口を開く。
「その……俺だって、彼女の一人や二人、欲しいな~って」
「……え?」
「あ、一人や二人は語弊がある! 彼女は一人で充分だ!」
「いや、そこじゃなくて。え? アインツ、そういうの興味あったの?」
「ルディ……お前までそんな事を言うのか?」
ルディの言葉にジト目を向けてくるアインツ。そんなアインツに『ごめん、ごめん』と軽く手を振ってルディは言葉を継ぐ。
「いや……ちょっと意外でさ? アインツってこう、いつも一歩引いた様な姿勢っていうか……そんなイメージだから」
「そのイメージはルディのものだがな。ともかく、俺だって男子学園生だし、色恋に興味の一つもある。そういう意味でこの学園の肝試しには少しばかり期待をしていたのだが……」
そう言って肩を落とすアインツ。
「……クラウディアでは、な」
「……なんだか私の女性としての魅力を全否定された気がして不満ですが……まあ、そういう事です」
「……あー……なるほど、確かに」
ディアの言葉に、ルディが頷いて見せる。確かに、アインツとディアでは二人の仲が進展するような気はしていない。してはいないが。
「……でもさ? アインツ、モテるんじゃないの? 普通にイケメンだし、頭も良い。侯爵家の令息で、次期宰相筆頭候補じゃん? 引く手数多だと思ったんだけど……?」
「……確かにお見合い――というか、そういう話は頂いているが……それは少しばかり、な。いや、それが悪いという訳では無いのだが……」
貴族令息としては『お見合い』や『婚約』は普通の話。それでもアインツは、ルディに気付かれない程度の視線をチラリとディアとクリスティーナに視線を向ける。
「……まあ、少しだけ、憧れもあるんだよ」
いろんな意味でこのアインツという男、クリスティーナとディアに影響を受けているのである。そら、身近であんだけアプローチする姿をみていれば、少しばかり憧れる感情も分からないでもない。
「……それに、お見合いってちょっと怖いし」
だがそれ以上に、ディアの圧政に苦しむエディを見ているアインツは、すっかり『婚約恐怖症』になっていたりするのである。不憫な。




