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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第百六十六話 学園教師、ジョディ・ローレルの受難 序


 ジョディ・ローレルという女性を覚えておられるだろうか? ルディ、エディ、ディアという三角関係――三角関係? ま、まあともかく問題児三人に、アインツ、クラウスという二人の側近候補、加えてエドガーとクリスティーナという他国の王族も所属するクラスを担当させられた学園のピカピカの一年生先生だ。


「……」


 そのジョディは今、林間学校の職員室において一枚の紙を前に両手で頭を抱えて項垂れていた。明らかな陰のオーラをまき散らすジョディに、他の教員もあからさまに避けて通る中、一人の教師があまりの空気の重さに耐えかねてジョディに声を掛ける。


「ええっと……ジョディ先生? どうした? そんな『ずーん』とした空気を纏って」


 ジョディの先輩教師である、ローランドだ。そんなローランドの言葉に緩慢な動作で顔を上げたジョディは、完全にハイライトの消えた目でローランドを見やる。ぶっちゃけ、ちょっと怖い。


「あ……ローランド先輩……」


「お、おう。ローランド先輩だ。その……な、なんだ? なんか悩み事もあるのか? それなら先輩教師として相談にくらいは乗るが……」


 出来れば全力で回れ右をして逃げたい。逃げたいのだが、流石に声を掛けた手前、それは可哀想だし、先輩として力にもなりたいし……何より、ジョディは別嬪さんなのだ。少し幼げな可愛い系の顔立ちはローレルのどストライクだったりするしの若干の助平心込みでの声掛けだ。


「……本当ですか?」


「お、おう」


「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!! 本当に、もう本当にどうしたらいいか分からなくて!! 先輩、本当に有り難うございます!!」


 ガバっと椅子から立ち上がったと思うと、そう言って何度も何度も感謝の言葉を述べて頭を下げるジョディ。そんな仕草にローランドの胸が高鳴る。勿論、ドキッとして、ではない。『え? こんなに感謝されるってヤバい案件なんじゃね!?』という、悪い意味での高鳴りだ。


「実は……」


「お、おう……」


 ごくりと息を呑むローランド。そんなローランドに、意を決した様にジョディは口を開いて。




「――肝試しの……ペアが、決まらないんです」




「…………へ?」


 深刻そうなジョディとは対照的、ローランドの口から間抜けな声が漏れる。それも一瞬、ローランドの顔に苦笑が浮かんだ。


「……おいおい、ジョディ先生? そんな事を悩んでたのか?」


「そ、そんな事って!! 私にとっては大事なんですよ!!」


「ははは! わりぃわりぃ。いや、ジョディ先生が随分悩んでたからもっと深刻な悩みかと思っただけだ。そっか。肝試しのペア決めな? 分かる分かる。まあ、俺も一年目は結構悩んだし」


 この林間学校で行われる『ペア決め』は完全抽選制ではない。実家の仲の良し悪しや、婚約者の有無などである程度『裁量』が入る余地があるからだ。


「……そうだよな~。下手なペア決めになって喧嘩になったら困るからな~」


 そういう意味では教師にとっては色々と大変な問題でもあるのだ、このペア決めは。なんせ生徒の実家の動向を概ね把握していなければならないからだ。過去には婚約破棄をしたのを知らずに元婚約者同士をペアにしちゃった、なんて失敗談もあるのだ。まあ、その失敗に関しては、肝試しで腰を抜かした女の子を、男の子が背負ってゴールまでたどり着いた事に女の子側が感動し、復縁、なんてハートフルなおまけもついて来ていたりするが。


「ま、気は遣うよな。でもそんな心配するな。ほれ、相談に乗るって言っただろ? 言ってみろ? 誰と誰のペアにするつもりだ?」


 笑顔を浮かべてジョディの隣の席に腰を降ろす。ふんわりと香るジョディのシャンプーの香りに少しだけドキッとして。




「――エドワード殿下、どうしたらいいと思いますか? 御本人からはクレア・レークスさんと一緒のペアになりたいと言われているんですが……」




「うん、それは不味いなぁ!?」


 ローランドの絶叫が響く。うん、不味い。考えられる限り、さいっこーに不味い。


「で、ですよね!! ぜ、絶対不味いですよね!?」


「当たり前だ!! あの入学式を思い出せ!! とんでもない事になるぞ!!」


「わ、私もそう思います!! でも、エドワード殿下ですよ!? 次期国王候補最有力のエドワード殿下の『お願い』ですよ!? 断れますか!?」


「うぐぅ……」


 そうなのだ。エディ的には『好きな子と一緒に……出来れば』という本当に真摯なお願いベースなのだ。が、権力って怖い。これを権力者がやると一気に話が変わるのだ。


「……とりあえず、クレア・レークスとエドワード殿下は不味い」


「……そ、そうですよね? でも……クレアさんは、ホラ……ちょっと色々あるっていうか……」


「……我が学園にイジメは無いぞ?」


「……まあ、イジメは無いかも知れませんね。今、恐怖の対象みたいになっていますし。そんなクレアさんの相手は……」


「……」


「……実は、エドガー殿下からも同様に『クレアと一緒のペアに』と言われているのですよ……で、でも! これでクレアさんとエドガー殿下を同じペアにしたら……」


「……首が飛ぶ。学園の教師としてじゃない。物理的の方だ」


 断っておくが、そんな事はない。そんな事は無いのだが……大事な事なのでもう一回言う。権力って怖い。



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