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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第百六十四話 他所でやれ、お前ら


「ついたー!」


 馬車の中で揺られる事三時間――青びょうたんばかりの貴族令息、令嬢の為途中に休憩を入れる事で概ね四時間の旅路を終えたルディは、馬車から降りると『んー』とばかりに背中を伸ばして見せる。ポキパキとなる背中に、『やっぱり馬車移動はしんどいね~』なんて感想を抱きつつ、視線をエルマーに向けた。


「エルマー先輩、大丈夫?」


「……だいじょばない」


「……だいじょばないか~」


 現代日本程整備されている訳ではない道中、道は基本的に舗装されていない土の道だし、サスペンションなんて便利なものもないわく王世界だ。当然に馬車は揺れる揺れる。ただでさえ陰キャで引き籠りがちなエルマーには、この旅路は少々酷なものってものだ。


「まあ、馬車酔いは仕方ないだろう。エルマー殿ほどでは無いも、俺たちも結構しんどいものがある」


 いつもより顔を青くしたアインツがそう言ってエルマーを庇う。文化系であり、こちらもエルマー程ではないアインツにとっても苦しい旅路であったようだ。


「……クラウスは分かるが、ルディやエディ、それにエドガーも普通そうだな?」


「そんな事無いよ。僕だって少しはしんどいもの。でもまあ……僕たちはねえ? ルディ?」


 エドガーのその問いかけにルディも頷いて見せる。


「まあオミソな王子様だけど、一応僕も王子だしね? 外遊やらなんやらで他国に行く事も多いし……」


 要は馬車慣れである。ルディもエディも、それにエドガーにしたって押しも押されぬ王子様なのだ。政治的な意味合いはともかく、外交儀礼で王子が訪問することはママある話であるし、エドガーに至ってはわざわざ馬車を乗り継いでラージナル王国まで留学に来ているのだ。そら、馬車だってなれる。


「……次の発明品は決まったな。馬車の揺れを最小限に抑える器具だ。なんだ、この馬車の揺れは。流石に酷すぎる」


「そうだな、エルマー殿。その発明品は是非、作ってくれ」


 エルマーの言葉に、アインツも力強く頷き二人でがっつりと握手。そんな二人を見て『仲良くなったな~』なんて思っている所に、女子組が合流して来た。


「お疲れ様です、ルディ」


「お疲れ、ディア。そっちは……まあ、大丈夫か」


「ええ。まあこちらはクリスも私も馬車慣れしていますし……ユリア様は」


「うん、聞かなくても大丈夫。バイタリティの塊みたいな人だもんね、ユリア先輩」


「そうです。それにクレアちゃんは」


「野生児だね」


「……流石にもう少し言い方があるでしょうに」


 しょうがないルディですね、と言わんばかりに困った表情を浮かべるディア。そんなディアにごめん、ごめんと頭を下げていると、件のバイタリティの塊がたったとこちらに駆け寄ってくる。


「ちょ、エルマー様!? 大丈夫!?」


「……ああ、ユリア嬢か。問題ない、大丈夫だ」


 さっきまで『だいじょばない』とか言ってた癖に、真逆の回答をして見せるエルマー。エルマーも男の子、憎からず思っている女の子の前では格好悪い所は見せたくない。気丈に笑顔を浮かべて見せるエルマーだが、『おはようからおやすみまで貴方の生活を見つめています』級の訓練されたストーカー予備軍であるユリアには通じない。


「もう! またエルマー様はそんな事言って……ほら、しんどいんでしょう? 早くこっちに来るし!!」


「お、おい、ユリア嬢!? な、何をす――」


「そんな真っ青の顔で何言ってるし! だーいじょーぶ!! 私は、どんなエルマー様でも大好きだし! ちょっと弱ったエルマー様も」



 可愛いよ、と。



 エルマーの頬が真っ赤に染まる。言ったユリア当人も、『にしし』という笑顔を浮かべながらほんのり頬が赤い。そのままユリアはその場に座り込むと、エルマーの袖を引っ張って隣に座らせる。


「ほら! エルマー様、来るし!!」


 ぺたんと女の子座りをしたユリアが自身の太ももをポンポンと叩く。そんなユリアの姿にきょとん顔を浮かべるエルマーに、ユリアは『むぅ』とばかりに頬を膨らませて見せる。


「なにしてるし、エルマー様! ほら、しんどい時は横になって!! 私が『膝枕』、してあげるし!」


「ひ、膝枕!? ゆ、ユリア嬢、ひ、膝枕!?」


「そうだし!」


「いや、『そうだし!』じゃなくて!!」


「もう! エルマー様、煩いし!!」


 ぐいっとエルマーの袖を引っ張るユリア。もやしっ子のエルマーでは、テニス部所属のユリアの力には敵わない。為すすべなくユリアの膝の上に寝転がったエルマーに、ユリアは優し気な笑顔を浮かべてその頭を撫でる。


「ほーら。いいこ、いいこ~」


「……やめてくれ、恥ずかしい」


 逃げようと藻掻いたエルマーだが、『ちょ、エルマー様! そんな所触らないで欲しいし! どうしてもって言うなら部屋に帰ってからで……』との言葉におとなしくなる。怖いので、冤罪。


「……ふふふ! エルマー様、本当に可愛いし……」


「……男に可愛いなど言うな」


「うんうん! エルマー様は格好いいし……そして、可愛いよ!」


「だから……ああ、もういい。ほら、そろそろ大丈夫だから。起きさせてくれ」


「え~。もうちょっとだけ堪能したいし~」


「ダメだ」


『ぶぅ』と頬を膨らますユリアを宥めてエルマーは立ち上がる。そのままユリアの手を取って、ユリアを立たせた所で、全員の視線を受けてその動きを止める。気まずそうに視線を逸らすエルマーに、ルディがポツリと。




「――他所でやれ、お前ら」




 その言葉に全員が頷いたのは言うまでもない。


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