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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第百五十三話 なんでいるの、メアリ?


「お疲れ様でした、ルディ様」


 レストランで楽しい食事――ディアが正座涙目でサラダをまるで青虫の様にむしゃむしゃ食べてたりして、なんだか楽しめたのかどうか微妙な感じではあるが――とまれ、一応の食事も終わって解散となった自室にて。


「……なんでいるの、メアリ?」


 本日は週に二日の休みの一日。本来であれば自室でゆっくりしている筈のメアリの、いつも通りの腰を折った挨拶にルディの目が丸くなる。


「お邪魔でしたか?」


「いや、別にお邪魔じゃないけど……今日、休みだよね?」


「休みなのでルディ様のお部屋にお尋ねしたのですが……お邪魔、ですか?」


 少しだけ伺う様な視線でこくん、と首を傾げるメアリ。そんなメアリに、ルディも苦笑を浮かべて首を左右に振る。


「お邪魔じゃないよ。ゆっくりしてくれれば良いよ」


 急に自室にメアリが居ても驚くことはない。此処はルディの自室ではあるも、メアリにとっての『仕事場』でもあるのだ。メアリが居るのはまあ、普通と言えば普通なのである。


「今日は如何でしたか、ルディ様? 楽しめましたか?」


「あー……まあ。っていうか、メアリも知っていたの? 今日の……『デート』の事」


「少し、小耳に挟んだだけです」


 嘘である。この女、本当はルディのデートに関しての相談も受けており、なんなら王城の料理長をレストランに派遣したのはメアリである。どころか、ルディの護衛に参加したくて参加したくて堪らなかったのである。ただ、ルディが休みの日に『仕事』をしているとあまり良い顔をしないのを知っているので、彼女は泣く泣く諦めただけで。一応、付けて回ろうかとも思ったが、流石にディアやクリスティーナに悪いと思い自重しただけなのだ。侍女の情けである。


「……うん、そうだね。楽しかったよ? 演劇も面白かったし、アクセサリー屋とか服屋をひやかして……レストランは……まあ、うん。いつも通りの味と……ちょっとの非日常を味わえたかな?」


「そうですね。ルディ様がレストランで食事など、滅多にある事では御座いませんし。それはさぞ、非日常だったでしょう」


「……う、うん。そーだね」


 別にルディ的にはその辺はそう非日常でもない。料理自体は慣れた味だし、外食に関しては今はともかく、転生前は普通に外食してた身分である。懐かしいはあっても、非日常感はそうはない。


「……流石に正座してサラダだけ食べる人の前で食べる経験はした事ないしな~」


 むしろ、非日常はディアの存在の方だったりするのだが。そんなルディの気持ちを知る由もないメアリはほんのりと笑顔を見せて見せる。


「それは……よろしゅうございました」


 笑いながら――それでも、少しばかりの嫉妬も沸く。嫉妬、は言い過ぎかも知れないが……少なくとも『良いな~』という感情は沸くのだ。メアリとて二十になったばかりのうら若い乙女、自身の想い人が別の人と、それも飛びっきり見目麗しい人とデートに行くのに対して『うらやましい』という感情を抱くのはまあ、仕方がない事でもある。その辺が『嫉妬』にまで行かないのが、やっぱりメアリの性格の良さと……そして、その未来の先に自身の居場所もあるだろうという安心感だったりもする。


「今度は私ともお願いしますね、ルディ様」


 まあ、それはそれとして『やっぱズルい』という感情も出てくるのが恋する乙女の恋する乙女たる由縁でもある。そんなメアリの言葉に、ルディは小さく苦笑を浮かべて見せる。


「是非、と言いたい所だけど……中々に難しいからね」


「まあ、そうでしょうね」


 実際問題、ルディとメアリでお出かけは現実的に物凄く厳しいものがある。なんと言ってもルディは王子様であるし、ルディのお出かけともなると護衛が付いて回るレベルなのだ。今日のクリスティーナが『お姫様』だから出来る、異常事態なだけで、メアリにはそこまでの権限も、権力も、それにお金もないのだ。


「ですが、王城内でのデートくらいならば出来るのでは? ルディ様が言っておられた……なんでしたか? 賞与?」


「ああ、ボーナスの事?」


「はい。よく頑張って働いた人には特別手当があると仰っていたではないですか。ルディ様が私の事をご評価いただけているのであれば、出来れば王城内で……一緒にお茶など……不敬でしょうが」


「不敬って事は無いよ。ないけど……まあ、それは却下だね」


 何でもない様にそう言って見せるルディに、メアリは自嘲気味に『ですよね』と苦笑を浮かべて見せる。正直、ルディ付きになって以来、ルディは自分を評価してくれている事には自信を持っているメアリであるが、それでも流石に王子と侍女で仲良くお茶、はあまりにも外聞が悪すぎるのだ。そう思い、失礼しましたと頭をさげかけて。




「――だから……ボーナスは、これ」




「……え?」


 下げた頭に、ルディの手が触れる。髪の毛を少しだけ弄る様なその仕草に思わず身を捩りかけて。



「――はい、完成。どう、メアリ?」



 慌ててあげた視線の先に、ルディの笑顔があった。まるでいたずらに成功した悪ガキみたいな顔があまりにも魅力的で、思わずメアリは視線を逸らし、そして視線の先の鏡に。




「――――あ」




 今まで付けていなかった綺麗な『髪飾り』をあしらった自身の姿が映っていた 。



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