第百四十八話 影の立役者になりたくて……ってわけじゃないけども!
『ちょっと、タイムです!!』とルディに宣言し、クリスティーナは未だにぐずぐず泣き続けるディアを引っ張ってルディから距離を取る。充分に距離を取った事を確認すると、クリスティーナはディアに小声で怒鳴って見せた。
「ちょっと! 何を考えているんですか、クララ!! なんで一人で演劇見て感動して泣いているんですか!! っていうかそもそも、あの演劇に感動して泣くところ、ありましたか!?」
「ふぎゅ……だ、だって……あの、エリカ様が『私……滅ぼそうと思っていたのよ……胸が大きい女性を。それが……やっぱり、間違っていたのかしら……』って……」
「そこ、泣くところですか!?」
「だ、だって……なんか思わず、エリカ様に共感してしまって……」
そう言ってディアは自身の――まあ、慎ましやかな『とある一部』に視線を送り、その後その視線をクリスティーナのそれに向ける。
「……貴方には分からないでしょうね、エリカ様の気持ちは!!」
「どこ見てしょーもないこと言ってるんですか、貴方は!!」
自身の胸元に両手を当ててずさーっとディアから距離を取るクリスティーナ。そんなクリスティーナに、親の仇を見る様な視線を向けてくるディアに、クリスティーナはため息を吐いて見せる。
「そんな親の仇を見る様な視線で見るの、止めて貰えませんか? どっちかっていうと『それ』に関しては自身の親が仇でしょうに」
恨むなら慎ましやかに産んだ両親を恨め、というやつだ。
「ともかく! 貴方がプリティ・リズに感動したのは分かりました! エリカ様――王姉エリカに感情移入したのも!」
「では!」
にこやかに笑顔を浮かべるディアに、思わずクリスティーナの口から盛大なため息が漏れる。違う、違う、そうじゃないと思いながら、クリスティーナも心持頬をひくつかせながら、笑顔を浮かべて見せた。
「……でもね、クララ? ほら、これって男女のデートじゃないですか? だから、自分だけが感動していたらダメなんです。ほら、ルディのあの表情、見て下さい」
ちらっと視線をルディに向けるクリスティーナ。そんなクリスティーナの視線につられる様に、ディアは視線をルディに向けて。
「……なんでしょうか、あの表情」
「……貴方が鼻水垂らしながら涙流しているからですよ! ほら! チーンする!!」
ポケットティッシュを取り出し、ディアの鼻に押さえつける。『ふぎゅ!』と変な鳴き声を上げた後、おとなしく、それでも遠慮がちに『チーン』と鼻をかむディア。
「……失礼しました」
「……はぁ。まあ、唯一の救いはアレだけ泣いているのに化粧が落ちて無い所でしょうか。まさかノーメイクじゃないでしょうね?」
「失礼な。クレアちゃんじゃあるまいし、ノーメイクなんか出来ません」
「ですよね」
ちなみにこの会話、クレアの事を馬鹿にしている訳ではない。ノーメイクで全然『戦える』クレアに対する賞賛と畏怖の気持ちである。健康優良児、マジすげー、なのである。
「……さて? 現状は理解しましたか、クララ? 貴方が感受性が豊か――といって良いのかどうか分かりませんが……まあ、素直に物語に感動できるのは美徳だと思います。将来王妃になろうとする以上は、好き嫌いは見せない方が良いのは……まあ、今更ですよね?」
「当たり前です。今回は完全に『身内』だけですので……ちょっと油断しました」
「それなら結構です。では、これから方針転換です。貴方が物語を大好きだって言うのは分かりました。ですから今度はそのベクトルを、ルディに向けて下さい」
「る、ルディに……ですか? そ、それは……え、えっと……」
「……はぁ。あのね、クララ? 今回のデートは――」
「わ、分かってます!! わ、私の為にしてくれた事なのは、充分理解しています!! 理解していますが……は、恥ずかしいのは恥ずかしいというか……」
「……それも分かります。でもね、クララ? こんなチャンス、殆どないんですよ? 流石に私だって何度も何度もこんな事は出来ませんし……」
なんせ劇場、服屋、アクセサリーショップ、レストランをフルで予約だ。流石にこれを何度もするのは如何にクリスティーナが王女だと言えど厳しい。金銭面ではなく、主に評判的に。
「わ、分かっています。は、はい、わかってます!!」
「……心配しないでも大丈夫ですよ、クララ。ほら、メアリさんも言ってたじゃないですか。クララの言葉に、ルディが『ドキドキした』って。だからきっと、大丈夫です。ちょっとくらい迫っても、ルディに引かれる様な事は――」
「ああ、クリスがどんなにアプローチ掛けても靡かなかったのに、私が言ったらドキッとしたってやつですね!!」
「――ぶっ飛ばしますよ、このアマ」
クリスティーナの視線に殺意が乗る。そんな視線に『ひぅ!!』と怯えるディアを見て、クリスティーナは大きなため息。
「……まあ、そうです。自信を持ちなさい。ホラ、ルディの所に行く!! 何時までデート相手を一人ぼっちにしているんですか! きちんとエスコート……そうですね、されてきなさい!!」
『は、はい!!』なんて言ってルディの元にトテトテ駆けるディアの背中を見つめて、クリスティーナは少しだけ疲れた様に視線を天に向けて。
「…………なんか今回、私ばっかり頑張ってませんかね……まあ、好きでしたことですし良いですけど……なんか良い事無いと、流石に割が合わない気がします……」
……きっと良い事あるさ、クリスティーナ!!




