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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第百四十四話 カオスな空間


「…………どんな状況、これ?」


「……私の口からはなんとも。一個言えるのは……クリスちゃんがクララちゃんを煽りに煽って、そのせいでとしか……」


「煽るって……なに?」


「……主に姉妹の契りに関してでしょうか?」


「……なんの話、それ? なに? 聖母様が見てたりするの?」


「それこそなんの話ですか? 聖母様?」


「……こっちの話」


 ルディとエドガーが合流した時の惨状といったらなかった。クリスティーナは高笑いしているし、クレアはおろおろしているし、ディアは……なんか存在が薄くなっているのだ。まさにカオス状態、これの何が怖いってこいつらこれ、王都の目抜き通りでやっている所である。言ってみれば渋谷のスクランブル交差点で愛憎混じる軽演劇を繰り広げている様なもんだ。


「……視線が痛くない?」


「……ええ。滅茶苦茶痛いです。なんとしてください、ルディ様」


 クレアの縋るような眼差しに、ルディが胸中でため息を吐く。出来ればあんまり関わり合いたくないが、そうも言ってられない。よし、と自分自身に気合を入れて、この中では一番目立たないであろうディアに声を掛ける。


「えっと……ディア?」


「あ……るでぃ……」


 まるで幼子の様な瞳。その瞳が涙で濡れている事に気付き、ルディはごくっと唾を呑み込む。元々、クール系……というより、『悪役令嬢』顔のディアのその弱った態度は、普段のディアとのギャップでまあ、なんだ。端的に言って。



「エッ……」



 エ――じゃなかった、扇情的で魅力的にルディの瞳に映った。そんなルディに、ぴとっと寄り添い、ディアがふぐふぐと泣き声を上げる。殆ど鳴き声だが。


「るでぃ……るでぃ……」


「うん……どうしたの、ディア? 何があったの?」


「クリスが……クリスが……いぢめるんです……」


 泣く子と地頭には勝てない。普段のディアからは見る事の出来ないその姿と訴えに、ルディが視線をクリスティーナに向ける。


「っ!! ご、誤解です!! それは誤解です、ルディ!!」


 その視線に非難の色を認め、クリスティーナが慌てて否定に入る。流石に、好きな男性に向けられて喜べる類の視線ではない。クリスティーナの声に、ルディははぁとため息を一つ。


「……じゃあ、説明してよ? クリスだって知ってるでしょ? こんなディア、見た事ないよ?」


「そ、それはそうですけど!! っていうか、ルディ!! なんで私のせいにするんですか!! それ、ディアの虚言かも知れませんよ!! だ、騙されないで下さい!!」


 ディアの虚言では勿論、無い。完膚なきまでにディアの心を折ったのはクリスティーナである。あるが、しかしだ。幾ら泣いているとは言え、ディアの言い分を完璧に信じて、自身の言い分を全く聞いてくれずに悪者扱いされるのはクリスティーナとて面白くないのだ。きちんと話を聞けば、『そら、クリスが悪いよ』とルディに叱られたとしても、言い訳も聞かずに一方的に判断されるのはクリスティーナとしても面白くはないのである。そんなクリスティーナに、ルディはきょとんとした顔をして見せる。


「なんで? なんでディアが虚言を言う必要があるの?」


「私の株を落とす為に決まっているじゃないですか!!」


 クリスティーナの叫びが大通りに響く。どうでも良い――良くないけど、視線が痛いな、なんて思いながら再びルディは首を捻って。



「? だから、なんで? なんでディアがそんな事する必要があるのさ? ディアがクリスの株を落としたところで、ディアに得することなんかなくない?」



「……ぐぅ……」


『ディアはルディの事、大好きなんだよ!! だからライバル蹴落とすのは当たり前じゃないか!!』とはクリスティーナも言わない。あまりにもハシタナイから、ではなく、流石にディアの想いを代弁するのは、自身も恋する乙女であるクリスティーナ的にはちょっと、なのである。武士の情けならぬ、姫の情けだ。


「……」


 悔しそうにぐぎぎと唸るクリスティーナにルディは再度ため息。


「わかったわかった。それじゃ、クリス? 何があったか説明できる? それを聞いて判断するから」


 ルディの譲歩に、クリスティーナの顔に喜色が浮かぶ。が、それも一瞬。その顔色はすぐさま青くなる。


「そ、それは……」


「それは?」


「そ、その……」


「その?」


「……」


「……」


「……姉妹の、契りと言いましょうか……」


「……流行ってんの、それ?」


 図らずもクレアと同じ事を言うクリスティーナに、今日一番のため息がルディの口から漏れる。このままじゃ埒があかないと、視線をクレアに向けて。



「――ああ、クレア! 今日も可愛いね!! クレアのデビュタントのドレスとアクセサリー、僕に選ばせてくれるとクリスに聞いてね!! 僕、凄く楽しみにしてたんだ!! 大丈夫!! お金の心配はしないで!! 好きな物、なんでも買って良いからね!! 僕、お金はあるから!!」



「……なにやってんのさ、エドガー」


 なんかヤラしい成金みたいな事を言っているエドガーを前にして、早速今日一番を更新した深い深いため息がルディの口から漏れた。


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