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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第百四十二話 誠意は、金額


「……さっきから何を失礼な事を言っているんですか、クララ。流石に私もそんな事を言われたら、黙って聞いてもいられませんよ? そもそも、誰のせいだと思っているんですか」


 ディアの言葉に、クリスティーナはねめつける様な視線を向ける。そんな視線を受けて、ディアは静かに頭を下げた。


「それは本当に有難いと思っておりますが……やりすぎでしょう、流石に。服屋やレストランはともかく……劇場の貸し切りは……」


「必要経費です。ルディやお兄様、私もそうですが、クララ? 貴方だって、そんなに『安い』訳では無いでしょう?」


「そうですが……」


 ちらっと視線をクレアに向けるディア。そんなディアの視線にクレアは『ははは』と笑って見せる。


「あ、だいじょーぶです! 流石に私の身柄がお姫様や公爵令嬢と一緒だとは思ってませんから~。そんな対応された方がびっくりするというか……」


 なんせ山猿よろしく、領地では毎晩暗くなるまで遊んでいた女なのだ、クレアは。それがいきなり下にも置かない扱いになれば、今度はストレスで死んじゃう。


「……申し訳ありません。ですが、これは別にクレアちゃんに価値が無いと言っている訳では無いのですよ! これは――」


「わかります、わかりますよ、クリスちゃん。私に無いのは価値ではなく、地位ですよね?」


「……本当はこれもあまり言いたくないのですが……はい、そうです」


「まあ、こればっかりは仕方ないですしね~。私が男爵令嬢であることは事実ですから」


 気にしてない、気にしてないと手をひらひらと振るクレアに、少しだけ申し訳無さそうにクリスティーナは目を伏せる。そんなクリスティーナの頭を優しく撫でながら、クレアは笑顔を浮かべて見せる。


「本当に気にしなくていいですよ、クリスちゃん」


「……はい」


「まあ、必要経費って事で劇場とか押さえちゃう所は流石お姫様って感じですが……」


「先ほども言いましたが、私たちの安全は最優先ですので。私たちが遊びに行こうと思うと、これぐらいの警備は必要なんですよ」


「ほへ~って感じですね。それじゃもしかして……護衛の人もいたりするんです? ほら! あの人とかそうじゃないですか!!」


 冗談めかしながら、ぴしっとクレアが指さす。差された当人は、眠そうに『くぁ』と欠伸をしながら、壁にもたれて本を読んでいた。


「……どうでしょうか?」


「へ?」


「私も全ての護衛を把握している訳ではありませんので。少なくとも……あそこのお花売り」


 そう言ってクリスティーナが指さした先では、妙齢の一人の美女が小さな女の子の背に合わせる様に身を屈め、笑顔で花を渡していた。


「あの子なんかは私の侍女ですね。アンナと言いまして、クレアちゃんの寮での現状を探ってくれたのもあの子です」


 子供に花を手渡した妙齢の女性――アンナは視線をこちらに向けると『びっ!』と親指を立てて見せる。同様に親指を立て返した後、クリスティーナは視線をクレアに戻した。


「と、言うように何人か護衛は配置しています。なので、クレアちゃんもご心配なく」


「……マジでいたんですね、護衛の人。っていうか、花屋さんって」


「まあ、それくらいに私たちが出歩くというのは大変なのです。先程クララが言ったように、皆様にも大変なご迷惑をお掛けしますが……それだけの価値はあると思っています。クララのルディとのデートも……クレアちゃんとお兄様のデートもね?」


 にっこり笑ってそういうクリスティーナ。そんなクリスティーナに、クレアは少しだけイヤそうに顔を顰める。


「あー……エドガー君とどっかに遊びに行くのはまあ、良いんですけど……その、本当なんですか? エドガー君が私に服とか宝石をプレゼントって……」


「そうですね。お兄様、張り切っていましたし……クレアちゃんが望むもの、なんでも買ってくれるんじゃないですか?」


 クリスティーナの言葉に、クレアが『はぁー』と大きく息を吐く。


「……そんな事、して貰う理由は無いんですが……」


 肩を落とすクレアに、クリスティーナが先ほどとは逆、クレアの肩を優しく撫でる。


「お気持ちは――ごめんなさい、正直分かりませんが」


「……でしょうね」


 なんせクリスティーナ、『貢物』はお店が開ける程貰っているのだ。クリスティーナ的には贈り物は送られて当たり前――とまでは言わないが、そこまで気が滅入るものではない。


「分かりませんがしかし、『送る側』の気持ちは分かります。前も言いましたが……お兄様にとってクレアちゃんにはそれだけの『価値』があるんです。ウチの貴族が私に贈り物を送って関心を買いたい様に、お兄様もクレアちゃんにそれだけの価値を認めているということです」


「……なんか、モノで釣ろうとしようとしてる気がそこはかとなくしないでも無いんですが……」


「あら? 誠意は言葉ではなく、金額ですよ?」


「ひでぇ……」


「まあ、それは冗談ですが……ともかくクレアちゃんはなんの遠慮もいらないです! お兄様に散々貢がせて……出来れば、お兄様と良い仲になって、我が国に来てくれれば良いな~とは思っております。だって」


 にこやかに笑んで。



「――そうすれば私とクレアちゃんは義理の姉妹!! クレアちゃんがお姉ちゃんとか……最高でしかないんですけど」



 自分の欲望に忠実な事を言いだした。


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