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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第百四十一話 我儘お姫様はいく!


 クリスティーナとディアの二人に連行される様に連れ出されたクレアは、ラージナル王国王都の目抜き通り、聖王通りに来ていた。此処は二百年くらい前、『聖王』と呼ばれた時の国王陛下が整備した街道であり、聖王通りと西通りの交差する場所には『パチ公像』と呼ばれる像が立っており、待ち合わせの目印になっていたりする。


 ちなみにラージナル王国の王都の名前は、国名と同じ『ラージナル』である。ラージナル王国自体が諸侯からの成り上がりであることの証左でもあり、街の名前と家名が一致するのが諸侯貴族のアイデンティティでもあったりする。


「……緊張してきました」


 そう言ってコンパクトを見ながら、前髪を『くい、くい』と弄って整え、最後ににこっと笑ってパチンとコンパクトを閉じると、ディアは言葉通りに緊張した面持ちの微笑を浮かべて見せる。そんなディアをジト目で見やりながら、クリスティーナはため息を吐く。


「……本当にお願いしますよ? 勿論、これはクレアちゃんとお兄様のデートでもありますが……メインは貴方とルディのデートなんですからね? その辺の所、分かっていますか?」


「え、ええ……わ、分かっています! だ、だから頑張ろうと……」


 ぷるぷる震える手をぎゅっと握りしめるディア。そんなディアにもう一度、『はぁ』とため息を吐き、今度はクリスティーナは視線をクレアに向ける。


「……本当に申し訳ないです、クレアちゃん。クララがさっさとルディに愛の告白でもしてたらこんな事にはならなかったのですが……」


 そう言って申し訳無さそうな顔を浮かべるクリスティーナを、クレアは笑い飛ばす。


「やだな~。さっきも言ったじゃないですか! クララちゃんの一世一代のデートなんですから!! 私も勿論、協力します!!」


 最初はクレアも渋ったのだ。エドガーがデートをしたいのであれば、エドガーから誘うのが筋であるし、そもそもそんな『貢がせる』みたいな事をしたくはない。そう言って渋るクレアを説得したのはクリスティーナだ。


 実は、から始まり、ディアがルディに告白しようとしてヘタレたこと、そんなディアの挽回の機会であること、これがクレアとディア、エドガーとルディのダブルデートであること、付き合わせる形になるクレアに、『せめてものお詫び』と、『ちょっとの下心』でエドガーがプレゼントを贈りたいことなんかを、手を変え品を変えて説明と、プレゼンをしたのだ、クリスティーナ。このクリスティーナの説明とプレゼンに、クレアは乗った。



「――いや~、俄然やる気になってきましたよ、私!!」



 これは別にクレアがチョロい訳でも、プレゼントにつられた訳でもない。そもそもクレア、純粋にディアの『恋愛』のお手伝いをしたいとは思っていたのだ、純粋に。これはある意味、そんなクレアにとってはチャンスなのである。だからこそ、クレアは乗ったどころか、燃えてすらいたのだ。そんなクレアに微笑ましい視線を送るクリスティーナに、一転して引いた様な目を向けるクレア。


「にしても……やることが極端ですよね、クリスちゃんも。これから行く劇場も、レストランも、服屋も、宝石屋さんも……」


 全部、貸し切りなんて、と。


「まあ、それくらいしないと安全の確保が出来ませんからね。必要経費ですよ、これは」


 何でもない様にそういうクリスティーナ。誰もやらないことを平然とやって見せる女、それがクリスティーナだ。別に痺れたり憧れたりはしないが。


「……感謝はしていますが……流石、クリスと言った所でしょうか。流石にラージナルの公爵令嬢には出来ない方法です」


「クララちゃんでも難しいんですか?」


 正直、クレアからしてみれば公爵令嬢もお姫様も等しく雲の上だ。そら、お姫様の方が偉いだろうな~くらいの感じはあるが、ディアだって将来の王妃様、権限は似た様なものだと思っていたのだが。


「……流石、お姫様ですね~」


 そんなクレアの言葉に、ディアは黙って首を振る。



「いいえ」



 横に。


「……へ?」


「やろうと思えば、私にも――というか、メルウェーズ公爵家にも出来ない事はありません。まあ、此処まで迅速には出来ないでしょうが……お金と時間を掛ければ無理ではありません。そして、それくらいのお金は我が家にはありますので。事実、劇場はしたことがありませんが……レストランや服屋は貸し切りにすることもありますから」


「そ、そうなんです?」


「まあ、普段は出入りの商人が持ってきてくれますので店に出向くことは無いのですが……お父様が好きなのですよ。『現地で見なければ分からないモノもあるからな』なんて言って……それでたまに年代物の生地なんかを見つけたりしますので、バカに出来ないのですが。出入りの商人の方はお父様の『好きそうな』商品しか持ってきませんから」


 ネットの『この商品を購入した方は、こちらの商品も購入されています』と考え方は基本一緒である。似た様な商品を薦めておけば、ある程度『堅い』数字は想定できるが、それ以上の間口は広がらない。だから、ネット全盛の時代でも一定数の本屋さんは残るのである。本屋には本を買う場所以外に、本に出逢う場所という側面もあるからだ。


「ですから、やろうと思えばできない事は無いのですが……」


 そう言って困った様に頬に手を当てて。




「――迷惑でしょう、普通に? 他の人の生活もあるのに……そんな事、平然と出来るのはクリスくらいのもんです」




 権限の話ではなく、良識の話だった。




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