第百四十話 デート、いこっか?
「……喧嘩でもしたの、エドガー?」
何時にないエドガーの強い言葉に、ルディが少しだけ驚いた様な顔をして見せる。何時だって優しいエドガーから出てくるハズがない言葉だ。ルディのその言葉に、エドガーは心底詰まらなそうに息を吐く。
「喧嘩なんかしてないよ。ルディ、知らないの? 『喧嘩』ってのは同じレベルじゃないと発生しないの。僕とエディじゃ、レベル差がダントツだよ?」
「……コメントし辛いね。それはどっち?」
「勿論、僕の方が上。しかも、断然ね?」
こちらも何時にない、強気な発言のエドガーにルディも思わず目を丸くする。そんなルディに苦笑を浮かべて、エドガーは言葉を続ける。
「さっきも言ったけど……僕も変わって行きたいと思ってるんだ」
「……」
「いずれ、僕はスモロアの国王になるんだ。何時までも何時までも自信がない態度も取ってられないからね。だから――」
そこまで喋り、エドガーは言葉を止めた。そのまま、チラリと伺うようにルディを見やる。
「一個聞きたいんだけどさ?」
「なに?」
「ルディは……王位に就かないの?」
「僕?」
エドガーの言葉にルディは小さく首を捻る。
「……ウチでのエディの評判、聞いていない?」
「聞いてるよ。聞いてる上で、聞いてるんだ。ルディ、君は王位に興味が無いの?」
「興味のあるなしで言えば興味はない。興味はないけど……」
そう言って少しだけ悩む様な仕草をして見せるルディ。
「……まあ、そうも言ってられない事情も出来たしね」
ルディの言葉に、エドガーも小さく頷く。
「そうなったら、ルディは王位を継ぐんだね?」
「まあ、分家のどっかしらから、っていう方法もない訳じゃないんだろうけど……流石にそれは国が荒れそうだしね。だから、最終的にはそういう事になるかも知れない」
そう言ってルディは肩を竦めて見せる。
「ま、そうは言ってもそうならない様に足掻くつもりではあるよ。エディは評判通り、優秀な王子だしね。国家の発展の為にはエディが王位を継いだ方が良いのは良いんだ」
「……ルディも優秀だよ」
「ありがと。でもまあ、自分の能力は自分が一番、よくわかってるからね。それは――」
少しだけ、言い淀む。
「……エドガーも、そうでしょう?」
「だね」
あんまりと言えばあんまりのルディの言葉に、エドガーは怒るでもなく苦笑して見せる。実際、クリスと自分、どちらが優れているかはわかり切っているからだ。
「まあ、僕とルディじゃ感じ方は違うと思うし、君は僕みたいじゃないと思っているケド……それを言ってもルディは納得しないだろうしね。それでも……そうだね、『最悪』の場合は王位に就く意思があるって分かって良かったよ。ホント……」
エディとは大違いだね、と。
少しだけ憎たらしそうにそういうエドガーに、不安そうな顔をルディは浮かべる。
「……本当に喧嘩してないの?」
「喧嘩『は』してないって。ただ……エディがあんまり子供みたいな事言うからさ? だからまあ……ちょっと僕も冷静じゃないかもね」
「……」
「……そんな顔しないでよ、ルディ。分かった、分かった。別に喧嘩したわけじゃないけど……仲直りするように努力はするから」
「……お願いね?」
ルディの言葉に脱力した様に息を一つ吐くと、そのままエドガーは口を開く。
「まあ、それは置いておこうか。それよりも……ルディはどっち?」
「どっち、とは?」
「援護射撃って言ったでしょ? クレアの事だよ。どっちの味方をしてくれるのかな~って。僕の味方? それともエディの味方? エディの味方なら、今日は援護射撃じゃなくてフレンドリーファイアー喰らうのかな、ってね?」
エドガーのそんな言葉に、ルディはため息を一つ。
「僕の話聞いてた、エドガー? 僕は彼女に『王妃』は無理だって言ったよね? エディとエドガーだったら、どっちの味方もしない。むしろ反対に回るかな? クレアが幸せになる展開を用意してくれるならともかく……そんな気はしていないしね?」
そんなルディの言葉に、エドガーが満足そうに頷く。エドガーのその仕草に、ルディは首を捻って見せた。
「……なんで満足そうなの?」
「味方にはなってくれなくても、敵にはならないって事でしょ? それならまあ、今のところはそれで充分かなって。エディの味方なんてされたら溜まったもんじゃないからさ?」
「……そういうもん?」
「気分的なものもあるけどね。ともかく、ルディが敵に回らないなら良いよ。それじゃ、ルディ? デート」
行こうよ、と。
にこやかにそういうエドガーに、ため息を吐いてルディは椅子から腰を上げた。




