第百十四話 そこまでの魅力、あるのかな~?
「……まあ……一理ある、のか……?」
クリスティーナの言葉に首を捻るアインツとクラウス。まあ、激しいボディタッチの一つと言えば一つなのかも知れない。知れないが、しかし、だ。
「……なんか物スゲー罪悪感があるんだけど」
確かに、ルディはディアの事を憎からず思っているだろうし、ディアが美少女なのも間違いではない。そして、『美少女に押し倒されるって、それなんてご褒美?』な層が一定数いる事もクラウスは理解している。理解しているが、それはそれとして、流石にこう……罪悪感というか、なんというか、という感じなのである。
「……なあ、クリス? 本当にこれ、最善か?」
「最善でしょう? ルディの立場ではそんなに簡単に遊びにも行けませんし? 非日常を演出しようと思うと、これくらいしかないんじゃありませんか?」
ちなみにだが、勿論そんなこたーない。いや、ルディの立場では中々非日常を演出するのは難しいのは間違いではないが、別に非日常だけが恋愛関係に至るものではない事はクリスだって百も承知だし……むしろ、『幼馴染』である二人は『非日常』で恋をするより、『日常』で愛を育んだ方が『幼馴染』としては王道だったりする。俗にいう、『気付いたら好きになっていた』というやつである。
「うーん……まあ、そうかも知れねーけど……」
「……クラウス? 何か不満がありますか? 不満があるなら聞きましょうか? むしろ、代案を出してください。それともなんですか? 貴方、代案も無いのに『なんかイヤだ』と言っているのでしょうか?」
クリスティーナのねめつける様な視線。その視線を受け、クラウスは首を左右に振って見せる。
「あー……特に対案がある訳じゃねーんだ。正直、ルディに対する罪悪感があるってだけで……」
「でしょう? 罪悪感に関しては、まあ分かります。分かりますが! さっき言ったでは無いですか。美少女に抱き着かれるのはご褒美――」
「いや、でもさ? 仮にこれ、クリスだったらどうよ? クリス、別にエディの事嫌いじゃないだろう? じゃあ、急にエディに押し倒されて喜ぶか、お前? エディだってイケメンだし……イケメンなら押し倒されて愛を囁かれたら幸せになるのか?」
「――怖気の立つような事、言わないでください!! 見てください!! 鳥肌立ったじゃないですか!!」
わざわざ腕をまくって見せて鳥肌を見せつけるクリス。そんなクリスティーナに、クラウスはため息を吐いた。
「だろ? なんかクラウディアならオッケー、みたいな感じが出てたけど……男女入れ替えて見ろよ? 普通に事案だぞ、これ?」
流石に、『ただし、イケメンに限る』も完全なセクハラには適用されないだろう。否、イケメンなら許されるのかも知れないが、それはあくまで関係性が一定以上の、言ってみれば両片思いくらいの関係性で初めて許される様なものである。エディとクリスティーナという、美男美女で他所から見たらお似合いの二人で合ってもこの有様なのだ。そんなクラウスの指摘に、クリスティーナは『うぐぅ』と声を詰まらせる。
「……確かに、そう言われればそうですが……で、ですが! 今からゆっくり愛を紡いでいく時間は無いのではないですか? 聞きましたよ? メルウェーズ公爵様、随分とヘソを曲げておられるという話!」
「……そうなんだよな~」
確かにゆっくり愛を育んで行ければそれはそれでベストではある。あるが、今回は時間がなく、やっぱりある程度の『飛び道具』は必要かも知れないという認識もあるにはあるのだ。加えて、『まあ、ルディだって健全な男の子だしな。美少女に抱き着かれて嬉しくねーわきゃねーだろう』という、言ってみれば男性の権利をガン無視した考えもクラウスにはあったりする。男女平等? 幻想です。男性は上半身と下半身で別のイキモノなので。
「……どう思うよ、アインツ?」
「……まあ、クリスの意見も分かる。だからと言ってクラウスの意見が分からない訳でもない。対案が無い以上、やってみるのも無しではないかな? という思いは無くもない。さっきまでと真逆の意見で申し訳ないが」
「まあ、状況によって色々変わるからな、意見なんて。一個の意見に固執するより柔軟な発想って云うのは大事だと思うぞ?」
「ああ。俺も確かにそう思うんだ。そう思うんだが……」
それでも煮え切らないアインツ。そんなアインツに、クリスティーナが首を傾げて口を開いた。
「アインツはこの『作戦』に賛成、という認識で良いのですよね? では、なぜそのように渋るのですか? 対案が無い以上、やってみるのも一つの手でしょう? それに……言い方はあまり宜しくありませんが……これが男女逆、先程のエディと私の場合ならともかく、ルディの場合、『貞操』に関してはそれほど心配する必要はないのではないですか?」
「まあな。幾らクラウディアとは言え……いや、クラウディアだからか? クラウディアならルディに手を出したり、無理やりは無いだろうしな」
最後はヘタレるに決まってるのである、アインツの中では。
「まあ、そこのところはあんまり心配していないんだ。いないんだが……」
一息。
「……ルディ、クラウディアの事妹みたいに思っているだろう? そんなクラウディアに押し倒されたくらいで、ルディが『ディア……もしかして、僕の事を好きなの?』って思うかな、とな? 別にルディに抱き着いた事など、子供の頃から腐るほどあるだろうし……まあ、ざっくり言えば」
クラウディアが押し倒した所で、ルディが興奮するだろうか、と。
「『あはは。どうしたの、ディア? 昔みたいに甘えたいのかな?』とか、言いそうじゃないか、ルディって」
「「……ああ、クラウディアの魅力がないって話か」
「――ぶっ飛ばしますよ、貴方達!? 何失礼な事言っているんですか!!」
これ以上ないくらい失礼な発言に、ディアがキレた。




