第百十二話 ガンガン行こうぜって言ったの、お前らじゃん
「お前な……ほんっとうに、そういう所だぞ! マジでいい加減にしろ!!」
暴走しっぱなしのディアをどうにかこうにか抑えつけた三人。なんとかおとなしくなったディアを正座させて、説教をするのはクラウスだ。アインツは呆れた様にため息を吐いている。
「……申し訳ございません。で、ですが!」
「ですがもへちまもねーよ!! 良いか? お前が幾らルディ恋しと言ってもな? やって良い事と悪い事があんだろう!! なんだよ、ルディを押し倒すって!! クラウディア、お前本当にそんなことしてルディがお前に好意を寄せると思っているのかよっ!!」
クラウスの正論にディア、沈黙。クラウスが悪い訳ではないが、それでもクラウスが煽ったのは事実であるし、流石にこれでルディが『手籠め』にされた日には、クラウスも寝覚めが悪すぎる。
「……ガンガン攻めろって言ったの、クラウスじゃないですか」
「ガンガン攻めろとは言ったよ!? でもそれ、良識の範囲内に決まってるだろうが!! お前のガンガン攻めてるんじゃねーよ、このムッツリが!」
「む、ムッツリとはなんですか! そ、そもそもですね!! 積極的に行こうとしたって、私に何が出来るというんですか!!」
クラウスの言葉に、少しだけ『むっ』とした表情になるディア。そんなディアの表情に、先程までの怒りを忘れたかのように、きょとんとした表情を浮かべるクラウス。
「へ? な、何が出来るって……そりゃ、お前……なあ? アインツ?」
「……そこで俺に振るか?」
クラウスの言葉にため息を吐きつつ、アインツが言葉を引き継ぐ。
「……まあ、よくある展開で言えばデートとか、か? ルディだって枯れている様に見えるが、健全な学園生だし……クラウディアは性格に目を瞑れば容姿は端麗だ。ルディだって、好意を寄せている事が分かれば、悪い気はしないさ」
ルディは正確には『好意を寄せられている事に気付かない』ではない。自分自身が『好意を寄せられるハズがない』と、思っているのだ。よくある『あの子、俺の事実は好きなのかも……ああ、ないない! 勘違いだよな!』ではなく、完全に『無』なのである。アイドルの事を応援して居ても、アイドルと付き合ったり結婚したり出来ないのは分かっている、に感覚と言えば近い。逆に言えば、『やっほー! 私、アイドル! ルディ、大好き!!』と、こちら側まで降りてきて、好意を明確に気付かせてくれれば、ルディとてラノベ主人公の鈍感程度の感性にはなるのである。
「……なんですか、性格に目を目を瞑ればって」
そんなアインツの言葉を聞いて、ジト目を向けるディア。そんなディアの表情を見て、アインツは心底驚いた様な表情を浮かべて見せる。
「おまえ……まさか、自分が清廉潔白、品行方正、まるで聖女の様な女性だと思っているのか? 良いか? お前は悪逆非道、言葉辛辣、まるで悪魔の様な女なんだぞ? そこをちゃんと理解しろ? 良いか、敵を知り、味方を知れば百戦危うからずという言葉もある。お前は自分のことを――」
「違います」
「――理解……違う?」
「ええ。確かに私自身、自分が公明正大で誰にでも正しい行いをしているというつもりはありません。貴族令嬢としてはある意味、当然な所もありますし、別段自分が聖女の様な女性だと思った事はありません」
ですが、と。
「――ルディに関してだけは、そんな性格で接していたわけじゃありません!! ルディにとっては私、きっと『イイ子』です!!」
「……あー……うん、まあ、確かに」
アインツ、納得である。ディア、ルディに関してだけは常に『イイ子』だったのだ。
「でしょう!? ルディに関しては常に本心で接していましたし……まあ、少しは照れたりしましたけど、それでも貴方達に接する態度では無かった筈です!! ルディの前では私は何時だって、素直で、正直で、本音でした!! 悪辣では無かった筈です!!」
確かに、ディアはルディの前では常に素直で、正直で、しかも本音で話していた。まあ、好意を伝えられないという点では本音ではないかも知れないが……情状酌量の余地は充分ある。弟の婚約者という立場的なものと、後は恋する乙女的に。
「……お前、エディの前だって素直で、正直で、本音だったじゃねーか。やりたい放題、好き放題してた癖に」
「…………確かに」
クラウスのぽそっとした呟きに、アインツも全力で頷く。ルディの前でディアが素直だったのと同様、エディの前でもディアは素直だったのだ。ベクトルは完全に逆方向だが。
「……あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
そんな三人に、手を挙げて発言の許可を求めたのはクリスティーナだった。目だけで発言の許可を促したアインツに『コホン』と咳払いを一つして。
「先ほどは勢いで止めましたが……よく考えればあんまり悪くない方法かもしれませんね? クラウディアがルディを押し倒すって方法は」
「おま、なに言ってんだ!! このムッツリスティーナ!!」
「……誰がムッツリスティーナですか、誰が」
クラウスの絶叫に、サめた目で返しつつ、クリスティーナは爆弾を落として見せた。




