第百八話 四者会談
ルディとの会談――というより談話だが、談話を終えたその足で、クラウスとアインツは王城にあるディアの部屋に向かった。既にエディとの婚約は棚上げとなっているため、王城に与えられた自室は引き払うのが筋ではあるし、実際あんまり寄ってはいないのだが……まあ、昨日の夜はメアリと熱く語り合った(主に『最近のルディ』について)ため、王城内の部屋に居た。
「クラウスとアインツ? どうしました、二人して?」
「今、少し時間があるか?」
アインツの言葉に少しだけ首を捻り今日の予定を確認。特に何もないという事を思い出し、ディアは頷く。
「特に予定はありませんし、良いです。この部屋で――ああ、いえ。流石に男性二人と密室で、というのは外聞が少し……」
「だな。それでは庭の東屋でどうだ?」
「問題ありません。準備して向かいますので……クリスも呼んで良いでしょうか?」
「クリスか……」
アインツとクラウスもディア同様、エドガーやクリスティーナとは幼馴染であり、つまりはクリスティーナが『ルディ大好きっ子』であることも重々承知している。少しばかり難色を示すアインツに、ディアはニコニコしながら口を開いた。
「どうせ貴方達二人が連れだって訪ねてくるという事はルディ絡みの何かでしょう? それでしたら、問題ありませんわ」
「問題ない?」
「ええ。私とクリス、『協定』を結んでおりますので」
「協定?」
ディアの言葉に首を捻りながらも、『まあ、クラウディアが言うならいっか』と頷き、アインツとクラウスは連れだって東屋に向かう。東屋到着から二十分ほど、ディアとクリスが連れだって歩いて来た。
「お待たせしました」
「すみません、クラウス、アインツ。私の方が少し手間取ってしまって……お待たせしました」
丁寧に腰を折るクリスティーナに、アインツもクラウスも鷹揚に手を振って見せる。
「気にすんな。それよりもなんか久しぶりだな、クリス? 元気にしてたか?」
にっこり笑ってそういうクラウスに、クリスティーナは呆れた様にため息を吐いて見せる。
「今更ですか、クラウス? 私、同じクラスですよ? もっと言う機会、あったでしょう?」
「うぐ……そ、それを言われると」
「まあ? あなた方もエディも、クレアちゃんに夢中でしたもんね~。ただの幼馴染なんか、興味の外ですよね~。ああ、クララ? 寂しいですね~」
「そうですね。折角、幼馴染が異国の地から留学したのに、あなた方二人――エドワード殿下も入れて三人ですか? 三人ともクレアちゃんの側に侍って……可哀想でしょう。クリスが」
二人して『ね~』と頷きあうディアとクリスティーナ。そんな二人の顔には当然、悲壮感みたいなもんは漂っていない。ただ、揶揄っているだけだと云うのはアインツにも、クラウスにも分かる。分かるが、しかし、だ。
「……なんだ、『クレアちゃん』とは」
「友達になったんですよ、アインツ! 私とクレアちゃん! 今度、一緒にお買い物にも行くんですよ!!」
にっこり笑ってそういうクリスティーナ。そんなクリスティーナを仰天した様な瞳で見つめ、クラウスは視線をディアに向ける。
「……クララっていうのは?」
「クレアちゃんが私に付けてくれたんです! クリスばっかり『クリスちゃん』はズルいって言ったら、『じゃあ、クララちゃんで!』と!」
こちらもにっこり笑い、心持胸を張って自慢げにそういうディア。そんな二人に目を丸くしたまま、クラウスは固まっているアインツを肘で突く。
「……おい。マジでクレア嬢、大魔王なんじゃねーか?」
「……ああ、その可能性は高い。なんせ、性悪令嬢と腹黒王女の二人を簡単に篭絡したんだからな。クレア嬢、この国とスモロアでトップを取れるかも知れんぞ?」
「だな。流石、大魔王クレア」
こそこそと二人で話すクラウスとアインツ。そんな二人をしらーっとした目で見つめ、ディアが口を開いた。
「……そこの馬鹿二人。私たちの悪口を言う為にわざわざ東屋まで連れ出したのですか? それなら容赦しませんが?」
「私としてもゆっくり事情をお聞きしたい所ですね? 誰が腹黒王女ですか、誰が」
『いや、お前らに決まってんだろう』とはアインツもクラウスも言わない。別に空気を読んだとかそういう訳じゃなく、単純に命が惜しいからだ。
「コホン。まあ、それは置いておいて」
「置いておけないのですが?」
「置いておいて! ともかく、さっきルディと少し話して来たんだ。内容に関しては……まあ、大体分かるだろう? ルディの国王即位と、その……」
少しだけ言い辛そうにちらっと視線をクリスティーナに向け、直ぐに諦めた様にため息を吐くアインツ。
「……クラウディアの嫁入りの話だ。ルディが国王に即位すれば王妃は即ちクラウディア、君になるからな」
「あら? 援護射撃をしてくださったので? それは有り難うございます」
「まあ、援護射撃と言えば援護射撃だが……そ、その、クリス? 申し訳ない」
流石に耐えきれなくなったか、アインツがクリスに向き直り頭を下げると、同時にクラウスも頭を下げた。
「……俺は別にどっちの味方をするつもりもねーんだ。強いて言うなら二人の味方のつもりでいたんだが……その、申し訳ねー……」
なんせ、両方とも小さいころからルディを慕っていた姿を知っている。願わくば両方に幸せになって貰いたい、程度の情はアインツにもクラウスにもあるのだ。そんな二人の気持ちを察してか、クリスティーナは嫋やかに笑んで見せた。
「頭を上げてください。そして、貴方達の優しさに感謝を。先程は幼馴染に冷たい、と言いましたが……やっぱり、あなた方は最高の幼馴染ですよ。ありがとう、アインツ、クラウス」
にこやかな笑みを浮かべるクリスティーナ。そんなクリスティーナに、訝し気な顔を浮かべて見せるアインツとクラウスに、クリスティーナは茶目っ気たっぷりの笑顔で。
「私とクララ……それにメアリさん、ですかね? もっと増えるかも知れませんが……とりあえず、三人で」
ルディをシェアしようかと、と。
「そう思っているんです。その為にはクララには是が非でもルディを『落として』貰わないといけませんので……援護射撃、大歓迎です!」




