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平凡王子は今日も密かに悪役令嬢の『ざまぁ』を志す……けど、愛がヘビー級の悪役令嬢に溺愛されている平凡王子はもう、まな板の上の鯉状態ですが、なにか?  作者: 綜奈 勝馬


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第百四話 ルディのターン


「……うーん……」


 アインツとクラウスの二人が頭を下げてルディに『お願い』をしているその姿を腕を組んで見つめた後、ルディは小さくため息を漏らす。


「……とりあえず……頭上げてよ、二人とも。喋りづらいし」


 ルディの言葉に揃って頭を上げるアインツとクラウス。『いや、お前が了承してくれるまでは頭を上げない!』みたいなドラマの様なセリフはそこにはない。そんな脅しの様な方法でルディが言う事を聞いてくれるとも思ってないし、何より。


「それで? どういう条件ならルディは俺たちの提案を受けてくれる?」


 そもそも、条件提示の前なのだ。今は希望を伝えた段階に過ぎないのである。頭を下げた段階で『うん、わかった。それじゃ僕が国王をやるよ』とルディが言ってくれれば最善だが、世の中そんなに甘くないのである。交渉はこれから、頭を下げ続けるのであれば、条件出尽くして、後は相手の善意に頼る段階になってからでいい。


「うーん……そもそもさ? 僕とエディじゃ流石に格が違い過ぎない? 頭脳だって、運動神経だって、顔……はまあ、双子だからよく似ているけどさ? そんな中で僕がエディに勝っている所って――」



「人望」



「――……ああ、まあ……でも、別にエディに人望が無い訳じゃないじゃん。そもそもさ? 僕のは人望じゃなくて『甘い』って言うんだよ?」


 ルディの人望の源はルディの『甘さ』である。これ自体については、ルディも自身で理解しているし……それで別に構わないとも思っている。だって。


「その内臣籍降下して王族じゃなくなるからか? 宮廷貴族と言えども独立した一個の家、家内でのやり方にまでは口を出せんからな」


 仮にルディが国王になるのであれば、今までの様なただ『甘い』態度は問題である。臣下に舐められる事になるし、何よりルディが舐められる事によって、ラージナル王国自体が大きく傾く事になるからだ。罰せない君主など、怖くもなんともないから。


「まあ、そう言う事。そして、僕はこの生き方を変えたいとも思ってないんだよね。失敗は誰にでもあるし、その失敗の上げ足取る様に詰めるの、趣味じゃないから」


「そこは私がやると言ったら? 信賞必罰は私がしっかり見る。勿論、ルディの裁可は得るが……どうだ?」


「そして、アインツが僕を傀儡の君主にする? アインツの言う通り、右から左で『よきにはからえ~」って言ってる君主がお好みかな、アインツ?』


 少しだけ苦笑を浮かべてそういうルディに、アインツは『ふん』と鼻を鳴らす。


「ルディ、お前がそれくらいの『阿呆』ならそうして掌で操ってやってもいいが……バカにするなよ、ルディ? 何年の付き合いだと思っている。お前は、俺がそこまでお前の事を理解していると思っているのか? だとしたら、これは侮辱だぞ? 俺とお前、クラウスとエディは何時でも一緒の幼馴染じゃなかったのか?」


 少しだけ寂しそうにそういうアインツ。そんなアインツに、ルディは肩を竦めて謝罪の言葉を口にする。


「……そうだね。アインツはそんな事をしないよね。ごめん、アインツ。謝罪する」


 そう言ってルディは頭を下げる――も、実際問題、エディには完全に負け越し、それもオーバーキル状態のルディを指して『王の器だ!』と言っているあたり、アインツの目は結構節穴だったりもするっちゃする。まあ、『幼少期のルディ神童伝説の目撃者にして当事者』という、核汚染された水でもろ過出来るレベルの分厚いフィルターなので仕方がないと言えば仕方がないが。


「……ごめん」


 頭を下げてもう一度、謝罪。そんなルディに、アインツはため息一つ。


「頭をあげてくれ、ルディ。それで? 他には何かあるか?」


「……僕が国王に就くことによるデメリットがない、王城内? 今はエディを補佐するための体制になっているでしょう? その中で、急にトップがすげ変わるのはどうかな? って気もするけど?」


「それもさして問題ない。多少の混乱はあるだろうがな」


 スモロア王国の姫であるクリスティーナは『国家が揉める!』と言っていたが、そんな事はないのである。否、確かに多少の混乱はあるも、流石にクリスティーナの言は拡大解釈が過ぎる。もし本当に『それ』が原因で混乱が起きて、内乱まで起こるのであれば、国王陛下は代替わりなんて出来ない事になってしまう。クリスティーナの弁は『現状で考えられる最悪のシナリオを、あたかも本当に起こるかも知れない様にエディに伝えた』という事だ。何が怖いって、嘘を付かない詐欺師程怖いものはない。


「……なるほど、ね」


「ああ」


「……エディの気持ちはどうだろうか?」


「そこはそこまで重要ではない――と言いたいところだが」


 家督相続争いは王族に限らず貴族にとっても良く聞く話。相手は憎いアンチクショーであって気に掛ける存在ではない。


「……心配するな。エディも賛成だ。むしろエディは『兄上こそ国王に相応しい』と言っている。信用できないなら自分で聞け」


「……信用しているよ。そうだね……君たちもルディも、僕の評価が不当に高いから」


 そう言ってふっと笑って見せる。諦観に似たその表情に、アインツとクラウスの顔に少しばかりの苦々しさが浮かぶ。


「その……ルディ? 心配すんな! お前が国王になったら俺が必ずお前を守るから! 何があっても近衛の騎士として、お前の事は守ってやるからな!!」


 胸をどんと叩いてそう言って見せるクラウス。その姿に『はいはい、ありがとね』と苦笑と――微笑を浮かべる。


「……色々外堀埋められている感じ?」


「悪く思うな」


「悪くは思わないけど……でもまあ、もうちょっと何かないかなとは思うよ?」


「『何か』とは?」


「そもそもこの問題ってさ? エディとディアの結婚っていうより、メルウェーズ家――ひいては諸侯貴族と宮廷貴族の宥和がメインだよね? 二人の結婚はおまけ……というとあんまりだけど、あくまでそれを強固にするための施策だよね?」


「……まあ、そうだな」


 ルディの言葉に、アインツは頷く。そんなアインツに、ルディはにっこりと笑って。



「――じゃあさ? ちょっと僕の提案を一回、聞いて貰えないかな?」



 今度はルディのターン、だ。



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