占いと心理テストと 前編
お久しぶりです!
本日、斯波先生の描くコミカライズ3巻が発売となりました!
『悪役令嬢? いいえ、極悪令嬢ですわ 3』
どうぞよろしくお願いいたします!
ローザリアが晴れて庶務に就任した執行部、その部室内にて。
これからの活動に関する話し合いののち、それぞれが予算の交渉やら顧問との連絡事項の確認などで出払っており、現在は珍しくローザリアとレンヴィルドしかいない。
提出期限の早い書類の処理をあらかた終えると、ローザリアは休憩のために立ち上がった。
今日は、生真面目ながら以外にも甘味好きだというデュラリオンが用意した、『生キャラメル』なるものがあるのだ。これのために急いで仕事を片付けたと言っても過言ではない。
レンヴィルドと、部屋の隅に控えるカディオの分の紅茶も淹れ、休憩に誘った。
「レンヴィルド様のことですから、既に必要分の仕事は終えられたことと思います。そろそろ休憩にいたしませんか?」
「いちいち含みのある言い方をするね。終わっているし、紅茶もありがたくいただくけれど」
苦笑いを浮かべるレンヴィルドも手を休め、しばらくはくつろいだ時間を過ごす。
ローザリアは、お目当てだった生キャラメルのおいしさを存分に満喫していた。
なめらかさは口に入れた瞬間からとろけ出すほどで、うっとりと目を閉じて味わう。濃厚な甘さの中にほろ苦さがあって全くくどくない。
「あなたは本当に、甘いものが好きなのだね」
心ゆくまで堪能するローザリアをレンヴィルドは笑っているけれど、からかいも気にならないほどおいしかった。
――あぁ。これはぜひ、カディオ様にも召し上がっていただきたいわ……。
けれど菓子類は、執行部の予算を使って購入されているもの。
紅茶はローザリアが持参した気に入りのものなので問題ないが、さすがに執行部員以外に渡すことは憚られる。
今度は自身で購入し、カディオと共に食べよう。
その際しれっとお宅訪問の手土産にと提案したら、彼はどのような反応をするだろうか。
心躍る想像にほくそ笑んでいると、今度は半眼になったレンヴィルドと目が合った。
「おいしそうな顔が急激に悪い顔になっているよ、ローザリア嬢」
「残念ながら、それは生まれついてのものですので矯正のしようがございません」
鉄壁の笑みですかさず返せば、彼はますます呆れている。
極悪令嬢と囁かれるローザリアが深窓の令嬢を気取っている方が怪しかろうに、彼は一体何を期待しているのか。
「……どうせあなたのことだから、カディオのことでも考えていたのだろうね」
「あら。人の頭の中に甘味とカディオ様しか詰まっていないようなおっしゃりよう、いくら殿下であれ失礼にも程がありますわよ」
「おや、では他に何が? 親友だと公言する私のことでも考えてくれているのかな?」
凍えるような空気になりかけたところで、か細い声が割って入った。
「あの……お二人共、もう本当に、俺をからかって遊ぶのはやめてくださいよ……」
尻すぼみに声を小さくするのは、控えめに同席していたカディオだった。
ティーカップをいじりながら真っ赤な顔で恥じらう彼に、両者は毒気を抜かれた。
顔を見合わせてため息をつくと、ローザリアは口端を引き上げて笑う。
「……最近わたくしがよく考えていることといえば、例の占いの件かしら?」
レスティリア学院内では現在、密かに占いが流行っている。
一握りの者しか知らない秘密の部屋に、気紛れに現れるという謎の占い師。
学院の制服を着ているから身元は確かだが、顔はベールで隠されており素性は分からない。選ばれし者のみが、その女性に占ってもらえるのだという。
「秘密の部屋とはいっても、情報を集めれば美術準備室であることは簡単に割り出せましたけれど。占ってもらうためのややこしい手続きに関しても」
満月の夜。零時になったら水を張った洗面器に知りたいことを書いた紙を浮かべ、『未来を視る女神よ、どうか私の願いを聞き入れてください。代わりに我が身を差し出しましょう』と三回唱える。
その紙が浮かんだままなら、占ってもらうのはまたの機会。もし沈めば、三日後に部屋へと案内状が届くという。
ミリアに調べてもらい報告を聞いた時、それほど面倒なことをするくらいなら自力で願いを叶えればいいのにと思ったものだ。
説明を終えると、なぜかカディオの金色の瞳が輝いていた。
「へぇ。何だか神秘的な秘術って感じで、ワクワクしますね。占いも当たりそうな気がしてきます」
「そうでしょうか……」
今の彼は、武術について語っていた時と同じ目をしている。カディオが怪しげな人間に騙されないか、だんだん心配になってきた。
「カディオ様。知らない人について行ってはいけませんよ。甘いものをご馳走すると誘われてもです」
「ローザリア様? 俺のこと馬鹿にしてます?」
「馬鹿にしているわけでは。あまりに無垢なので改めて言い聞かせる必要があると思ったまでです」
「言い聞かせるって…俺、一応年上ですけど……」
二人のやり取りを眺めていたレンヴィルドが、クスリと小さく笑った。
「けれど意外だね。ローザリア嬢でも、占いに興味があるの?」
「いちいち含みのある言い方は気になりますが、占い自体はあまり信じておりません。ですが、かなりのめり込んでいる方々がいらっしゃるようで、そこが少々引っかかります」
密かに、といっても大多数の生徒が知っている。
レンヴィルドももちろん把握していたようで、ローザリアが抱く懸念を察するのも早かった。
「先ほどまで全員が揃っていたのだから、その時に議題に上げればよかったのではない?」
もし学院全体を巻き込む事態に発展するならば、執行部での対策は必須だと彼は言っているのだ。
けれど不穏に感じているのも、ほとんどローザリアの勘にすぎない。
この先、何かしらの事件が起こるのではという、言い知れぬ不安。曖昧なそれは議題に取り上げるほどの根拠がなかった。
「……この手の話題を苦手とする男性は、それなりに多いですから。実際、流行っているというのも、ほとんどが女生徒間でのことですし」
「その物言いだと、私を女性扱いしているように聞こえるのだけれど?」
「信頼の表れ、と受け止めてくださいませ」
ローザリアは綺麗な笑みで、レンヴィルドの不満を聞き流す。
上辺だけの誤魔化しに気付いているようだが、彼はあえて乗ってくれた。
「私の耳にも占いの話は届いているけれど、特に不自然な印象は受けなかったな」
真剣に考えはじめたレンヴィルドに、ローザリアもため息混じりに返す。
「わたくしも、取り越し苦労であればと思っておりますけれど……」
『乙女ゲーム』の、続編。
ルーティエから詳しい内容を聞かされてから、学院内での不審な動きには敏感になっていた。
来月にはシャンタン国からの留学生もやって来るのだ。不穏の芽は早々に摘み取るに限る。
――そもそもルーティエさんがおっしゃる『乙女ゲーム』には、たった一つ、どうにも不可解な点がございましたし……。
いずれにせよ、情報が圧倒的に足りない。
思案の構えをとっていたレンヴィルドが、ローザリアに向かって頷いた。
「ローザリア嬢が気になるというのなら、調べてみる価値はあるだろうね。けれど、誰かを偵察に行かせるにしても、執行部の面々ではどうしても目立ってしまうし……」
「レンヴィルド様ならばそうおっしゃってくださるだろうと思いまして、既に偵察を遣っております」
「え」
コンコン。
その時、まるで時機を見計らったかのように、執務室の扉が叩かれた。
もう一つ告知させてください!
昨日から新作の投稿をはじめました!
ほんわかした幼女転生ものに憧れ、ついでに獣人設定で、もふもふ要素も足して……と出来上がったほのぼの復讐ものです。
互いに傷を負った二人が、最終的にハッピーエンドにたどり着く物語となっております!
養父の溺愛がすぎてほぼ変態ですが、彼がヒーローではありませんので安心して読んでいただけるかと!
『復讐したいのに、もふもふ陛下の溺愛から逃げられません!』
ぜひ読んでくださいお願いします!!!!!




