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【コミカライズ限定ハピエンしました!】悪役令嬢? いいえ、極悪令嬢ですわ。  作者: 浅名ゆうな
第一章

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デート(と思えばデート)です

いつもありがとうございます!(*^^*)

 夏も終わりに近付いてきた頃、ローザリアは城下町へと遊びに行くことになった。

 誘ってくれたのはレンヴィルド。つまりカディオも一緒だ。

 彼以外にもレンヴィルド付き護衛のイーライがいるし、ローザリア側からもミリアとグレディオールが参加している。

 それでも好きな相手とお出かけなんて、まるでデートのようではないか。

 それでなくとも街を歩き回るなど初めてのことなので、数日前から楽しみで仕方なかった。ミリアに下調べをしてもらったので、流行の店などもしっかり把握している。

 細かい書き込みのされたメモ書きを片手に意気込んでいると、レンヴィルドが苦笑した。

「準備に抜かりがないね」

「もちろんです。遊び尽くす気満々ですから」

「それだけ楽しみにしてくれていたなら、誘った甲斐もあったよ。影からの護衛の視線が気になるかもしれないけれど、今日は存分に満喫しよう」

 ものものしい数の護衛がついたのは、何も王弟殿下ばかりが理由ではない。万が一にもローザリアが負傷することないよう、レンヴィルドが騎士団まで手配してくれていたのだ。

「レンヴィルド様、本当にありがとうございます。今日のために国王陛下からもご許可をいただいてくださったと聞きました」

 随分ものものしい話だが、『薔薇姫』が街中に行くというのはそれだけ前例のないことだった。レンヴィルドには感謝の言葉しかない。

「私は、以前にも言ったでしょう? あなたばかりが我慢を強いられるのは、間違っていると。これからも色々な経験をしていこう」

「――はい」

 感無量で頷くと、彼は頷き返して車窓を眺めた。

 現在ローザリア達は、馬車で王都の中心街に向かっていた。学園から街へは歩いても十分かからない位置だが、これも『薔薇姫』対策らしい。

 レンヴィルドにつられて、ローザリアも外の景色を眺める。

 飛ぶように流れていく風景には、ほとんど隙間なく建てられた住居群。道を駆け回る子ども達。

 学園に向かうまでにも見たものだが、何度でも飽きない鮮やかさがある。暮らしの中にみなぎる彼らの活力が輝いて見えるのかもしれない。

 やがて馬車は速度を緩め始めた。街中に入ったのだろう。レンヴィルドに窓を閉めるよう促され、それに従った。

 飛び交う鋭い声は、競りでも行われているのだろうか。呼び込みの声や行き交う少女らの笑い声。食欲をそそるこうばしい匂いが馬車の中まで漂ってくる。窓を閉めていても、人いきれを肌で感じた。

 たどり着いたのは、最も人通りのある中央通りの広場だった。

 憩いの場になっているらしく、噴水の周りには思い思いに寛ぐ人々。その後方には集客を見込んでか、様々な屋台が軒を連ねていた。

 馬車を降り、石畳の地面を踏み締める。

 別の馬車で随行していたカディオ達と合流すると、帰りの時間まで待機してくれる御者に礼を言って歩き出した。

「さて。どこか行ってみたい場所や、やってみたいことはある?」

 レンヴィルドに問われ、ローザリアは戸惑った。

「わたくしが決めてしまっていいのですか?」

「今日はそのために来たのだから、遠慮はしなくていいよ。言うなればあなたの社会見学だね」

 小馬鹿にしたような言い草だけれど、ローザリアに気を遣わせないためのものだと分かる。レンヴィルドを軽く睨むふりをしてから、おずおずと願望を口にした。

「……わたくし、屋台の食事を食べてみたいです」

 存在感を薄くしていた従者達だったが、慌てたのはミリアだ。

「ローズ様。屋台ですと、座って食べる場所がありませんよ?」

「その、食べ歩きというものをしてみたいの。やはり、はしたないかしら……?」

 でも、またいつ王都に来れるか分からないのだ。ここは恥を忍んででも懇願してみるべきか。

 体裁と欲望の狭間で苦悩していたローザリアは、周囲がやけに静まり返っていることに気付く。

 ふと顔を上げれば、なぜか孫でも見守るような生温い目に囲まれていた。ほとんど交流のないイーライまでもだ。

 ――くっ、何という屈辱……っ。

 弱みを見せてしまったみたいで悔しい。

 唇を引き結ぶローザリアを眺め、レンヴィルドがおかしそうに声を上げた。

「ハハッ。知らなかったな。あなたにも、そんな意外な一面があるのだね」

「レンヴィルド様こそ、そのように大声を出されて笑うなど」

 お互い様だと睨み返すも、屋台の方へと誘導されればすぐに頬が緩んだ。

 幾つもの屋台小屋が並び立ち、そこかしこで威勢のいい呼び込みが聞こえている。見たことのない飲み物や串焼き、甘いものもあるようだった。

 まずは薄い生地に味付き肉やレタスを包んだ軽食を購入してみる。芳ばしいタレは甘じょっぱく、生地自体に塗られたサワークリームと絶妙に絡み合う。シャキシャキしたレタスのおかげもあって、濃い味付けなのに後味はサッパリとしていた。

「主食と肉料理と野菜を一気に食べるなんて、斬新だし画期的だわ」

「ローザリア様、これは平民が考案した食事です。彼らは手早く食べられるものを好みますから」

「なるほど。片手で食べることができるのも、きっとそのためなのですね」

 カディオの説明に、ローザリアはしきりに相槌を打つ。二人きりじゃないので彼の口調が堅苦しく、そこだけは残念だ。

 どこを見回しても珍しいものばかりなのに、彼らはそれほど興奮していないようだった。目立つ容貌なのに違和感なく雑踏に溶け込んでいる。

 不思議がっていると、カディオが苦笑した。

「貴族とはいえ俺は階級も低いですし、何より働いていますから。何かしらの用事があって街に出ることは、まれにですがあります」

「レスティリア学園の生徒は、休日ともなればよくこの辺りをうろついているしね。それくらい中央通りは治安のいいところなんだよ」

「なるほど……」

 続いてレンヴィルドにも説明され、納得する。

 そういえば屋敷にこもっていた頃、人手が足りない時などにミリアとグレディオールが駆り出されることもあった。街に不慣れなのは、どうやらローザリアだけのようだ。

 その後はそれぞれが食べたいものを買って、食べ比べてみた。

 香辛料で真っ赤になった牛肉の串焼きにレンヴィルドが悶絶したり、モチモチした食感のパンを気に入ったグレディオールがまとめ買いをしたり。ローザリアとカディオが気に入った甘い飲みものは、他の面々には大不評だった。

 楽しく屋台を巡っていると、小物飾りが売られた屋台に目が止まった。

「あら、このような屋台もあるのですね」

「いらっしゃい。お嬢さん、レスティリア学園の学生さんかい。気に入るものがあれば安くしとくよ」

 貴族だと理解しているだろうに、店主の女性は豪快に笑った。萎縮することもなければ媚びを売ることもない接客態度は、かえって気持ちがいい。

 じっくり眺めてみると、髪飾りや腕輪、指輪などがところ狭しと並んでいた。どれも派手な色合いで、目がチカチカしてくる。

 そのせいだろうか。青一色のシンプルな硝子の蝶に、ふっと視線が吸い寄せられた。

 単色でもカッティングが緻密なため十分美しい。

 髪飾りなのだろう。コームの部分だけが金色で、露天の商品とは思えないほど精巧な小物だった。

「何か、欲しいものが見つかりましたか?」

 いつの間にか隣に立っていたカディオに問いかけられ、髪飾りを見つめたまま頷いた。

「えぇ。これほどのものが売っているなんて、驚きました。とても美しいです」

「本当ですね。あなたの瞳の色によく似合います」

「……」

 女性に疎く純朴そうに見せかけて、彼はたまにこういった発言をする。ローザリアは表情を変えないようにするだけで精一杯だ。

 硬直している間にも、カディオはさっさと支払いを済ませてしまった。さりげなくも素早い手際は、遊び人であった時の彼を彷彿とさせる。

 目を瞬かせるローザリアを見下ろし、彼は柔らかく微笑んだ。

「以前に約束した、助けてもらった時のお礼です。安もので申し訳ないのですが」

 必要ないと断ったはずなのに、彼は律儀にも覚えていたらしい。

 あまりのスマートさに少々面食らっていたものの、照れくさそうな表情を見ている内に喜びがじわじわ染み渡っていく。サファイアに似た冷たい色合いの髪飾りが、なぜかほんわりと温かい気がした。

「……嬉しいです。値段なんて関係ありません。カディオ様がわたくしのために購ってくださった、という事実が重要なのです」

「ローザリア様……」

 少し切なげに細められた金の瞳で、カディオがローザリアを一心に見つめる。ローザリアもまた、この世にただ二人だけであるかのように見つめ返す。

 すると、外野から声が飛んできた。

「――二人の世界を作るのはいいけれど、私達という存在を忘れ去らないことも重要だよ」

 呆れた顔で嘆息するのはレンヴィルドだ。ミリアやグレディオールもちゃっかり見物している。

 カディオは我に返ると、直ぐ様ローザリアと距離を取った。逃げるように後退られては甘い雰囲気も台無しだ。

 部下の残念すぎる対応を眺め、レンヴィルドが首をひねった。

「……一体何が、彼をああまで頑なにさせているのだろう。確実に脈はあると思うのだけれど」

「……わたくしも、手応えは感じているのですが」

 いけると踏んでからというもの、ローザリアは好意を隠していない。

 二人きりの時だけに漂う親密な空気も、居心地のよさそうな表情も。間違いなく好意の表れだと思うのに、あと一歩のところでなぜかスルリとかわされてしまう。決定打を避けているように感じた。

「レンヴィルド様! カディオさん!」

 微妙な空気を破る声が響いたのは、そんな時だ。

 何だか以前にも似たようなことがあったと頭の片隅で考え、それが誰であったのかを思い出す。

 手をブンブンと振りながら現れたのは、予想通りルーティエだった。彼女も休日を利用して街に遊びに来たのだろう。それ自体は全く問題ない。

 問題なのは、嬉しそうに駆け寄ってくる彼女の背後に――――アレイシスとフォルセとジラルドが、揃い踏みであるということだった。



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