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息子に船の操り方を教えよう

 さて、季節も夏に近づいてきて、大分暖かくなってきた。


 そしてそろそろ丸木舟の操り方などを息子に教えてもいいだろうと思う。


 丸木舟は沖に出ての魚の漁や黒曜石の遠隔地との交易などに使うからな。


 娘達はイアンパヌやいつも子守を頼んでる女性に任せて、息子とともに河口に繋いである丸木船にむかった。


「やっと僕も船に乗れるようになって嬉しいな」


 息子は初めて船に乗れるとあって、ワクワクが隠しきれないようだ。


 ボートを漕いだりするのってなんだかんだで楽しいよな。


 シャンやシャオみたいな素潜り漁を食料採取の中心にしてる連中は、小さな頃から水と親しい生活をしてるかもしれないし、日本海側には交易を生業にしてる連中もいるようだが、関東の砂浜が多い海に近くに住んでる、俺達のような縄文の人間はそこまで船にのるわけでもないが、春から夏秋にかけては沖での釣りや銛などでの漁もするようになるから、ある程度は慣れておくにこしたことはない。


 二人でまずは筵の帆を張って、浜に上げてある丸木舟を海に押して水に浮かべて、後は櫂を漕いで船を沖へゆっくり進める。


「おもったより力がいるし、なかなか進まないものだね、父さん」


「そうなんだよな、結構櫂で漕ぐのは大変なんだ」


 この時代は基本的には陸地が全く見えなくなるほど沖に出ることはないが、21世紀現代のボートのような船べりに支点を持つオール、ではなくカヌーなどに用いる船べりに支点を持たないパドルと同じものなのでテコの原理で小さな力で大きな力を生み出すようなことはできないし、推進力を腕力でカバーしないといけないので船を進めるのは結構大変だったりするんだよな。


「どうせなら艫でも作ったほうがいいかもしれねえなぁ」


 とは言え丸木船に艫をつけられるかどうかはわからんがな。


 艫というのは川船などで船の後ろにある棒を左右にぎこぎこ動かして船をまえに進めるアレだ。

 艫の原理はスクリュー推進と同じと考えてもいい。


 まあ、魚の尾びれやダイビングの時の足ひれみたいなものと考えてもそう間違いではないけどな。


 櫂は自分の腕の力で直接水を押すことで進むが、艫は水の中で左右に振ることで推進力を艪を差し込んだ臍が受け、漕ぎ手が支えないので、漕ぎ手の力の負担が少なく櫂と違って前に戻すと言う作業もない、なので1人の漕ぎ手で早くすすめることが出来る。


 しかし一丁の艪で推進する艪船は前進しかできないし、また小回りも利かない。


 櫂はその点片方だけ動かすことで簡単に回頭ができるので小回りがききやすい。


 人数が多ければ櫂を舵代わりにして主な推進力を艫で生み出したほうが効率的ではあるんだがな。


「まあとにかく最初はなれることだ」


「うん、わかったよ父さん」


 そうやって俺と息子は日がな一日船を漕いで進める練習をして今日は終えた。


 ついでに軽く魚も釣っていった。


 船の上からの船釣りは岸からの釣りとはまた違った楽しさがあるし、海鳥が集まってる魚群に遭遇すればこの時代は入れ食いで釣れる。


 練習をゆっくりできるのはこの時代のいいところだ。

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