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村の長の交代

 さて、冬の猪送りの祭りが終わり、皆が飲めや歌えの騒ぎが終わったあと、ウパシチリが村の長の座をを降り、ウカエチウと言う名前の女性がそのあとを継ぐことになった。


 そしてウカエチウは丁寧に挨拶にしにきた。


「ウカエチウです。

 若輩者ですがみなさんこれからよろしくお願いします」


 俺たちも挨拶を返す。


「ああ、こちらこそよろしくな」


 イアンパヌや娘、息子も挨拶をする。


「よろしくお願いします」


「はい、これからよろしくお願いします」


「がんばってくださいね」


 双子たちは首を傾げてる。


 ウカエチウは目線を双子の顔まで言う。


「おチビちゃんたちもよろしくね」


 双子たちはウンウン頷いていった。


「よろー」

「よろー」


 嬉しそうに答える双子たちだが、まあ、あんまり意味はわかってないだろうな。


 ただいつもあんまり見ない人間と話せて嬉しいのだろう。


 ちなみにその名前の意味は「物を集めて貯える」だ。


 彼女はウパシチリの娘という訳ではなく、カムイの声に従ってウパシチリから後継者に指名されてカムイの巫女の座を受け継いだわけだ。


 とは言えこの時代の集落はみんな親類みたいなものだがな。


 縄文時代の集落の長は基本女性で、カムイと交信するシャーマンでもあり、祭祀を取りまとめる神主でもあり食料などの物資を管理して子供に教育を行う首長でもある。


 縄文時代では定住生活による、原始的焼き畑農耕はすでに始まっている。


 安定した定住生活を望んでいたのは主に子供の安全を望んでいた女性たちで、その分食料の貯蓄などが重要になった。


 石器時代に大型哺乳類の狩猟を営んでいた時はおそらく男が集団のリーダーだったのだろうが、土器の開発によって、野草山菜や貝類、木の実などの採取でもある程度は安定して食料が取れるようになると、飢餓の圧力も低下して、性や死に対する充足や恐怖の低下を望むようになり、カムイの声を聞いてある程度の災いに備えておくことが重要になった。


 基本的には女性の方がカムイに言葉を聞く能力が高い。


 これは色や声などのちょっとした違いを見分けたり聞き分けたりして、子供の状態を把握できる女性の方がその差に気が付かない男性より色々と鋭いのだろう。


 子供という新たな生命を宿せる女性には、カムイが実際に入り込めるのかもしれない。


 これが弥生時代以降になると集落同士における争いごとも多く起こるようになったので、戦の長としてまた男が首長になっていったようなんだがな。


 ウパシチリがニコニコして言う。


「これで私も少し肩の荷が下りました。

 まあ、子どもたちへ衣服の編み方を教えたりすることは、しばらく私が続けますけどね」


 ウカエチウが苦笑していう。


「よろしくお願いします」


 まあ、この時代の長は特に強力な権力を持ってると言うわけでもない。


 収めさせた米や銭を独り占めとかも出来ない。


 狩猟採集は家族単位で行うことも多いが、余っていたり足りなかったりすれば、家でお互い融通し合うし、皆でクジラ漁や鹿や猪の落とし穴への追い込み漁を行った場合も、取れた獲物は基本は平等に分配される。


 後の時代のように継ぐべき家や職業の概念がある訳でもないので、次男次女以降が冷や飯食いで家庭を持てないというようなこともない。


 だから、自分が一番で他人のことは知らんみたいな人間は居ないんだな。


 まあ、そういうことをすれば村から追い出されるし、逆に病気や怪我で動けなくなった時は持ち回りで人間も犬も世話をした。


 その程度の余裕はあるのがこの時代だ。


 ときには厳しいこともあるが狩猟採集生活は、けっして原始的で遅れた生活ではない。


 近世までの農耕民や牧畜民、さらには現代の社畜や派遣社員よりは、狩猟採集民の方が文化的で健康的な生活をしてると思うぜ。

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