クラゲが出てきても海で素潜りはどうかと思うんで、河口でハゼを釣るぜ
さて、夏も盛りを過ぎて海にクラゲが出始めると、俺の集落の海での素潜り漁もみんな少しずつやめていった。
流石にクラゲに刺されると危ないからな。
さすがのシャオとシャンもクラゲはやばいらしく、川へ漁の場所を移していた。
今日は家族全員で、釣り竿を持って多摩川の河口に来ている。
「さすがのお前さんたちのクラゲはやばいか」
シャオは笑って答えた。
「そうね、無理しても潜ってクラゲに顔とか刺されたらあぶないね」
俺は疑問に思ったことを聞いた。
「こういう時島ではどうしてたんだ?」
「島では船で沖に出てヤスで魚を取っていたね。
波が高くて海に出れない時は、石槍で島の獣を狩っていたね」
俺はちょっと意外に思った。
伊豆諸島にも食べられる獣がいるのか。
「へえ、島にも獣がいたのか」
シャオは頷く。
「北の半島から猪とか持ってくる人がいたからなんだかんだで増えたね。
その人達はクリやクルミも持ってきたね」
なるほどな、島の人口も少なかったろうし、特に揉めることもなかったのか。
「島には狼とかいなきゃまあ増えるだろうな」
シャオはまた頷いた。
「だから、猪が適当な数になったら狩って食べるね。
増えすぎても困るし」
俺もその言葉に頷いた。
「確かにその方が合理的だな」
ちなみに俺は今はハゼ狙いだ。
夏の終わりに時期はハゼもでかくなってなかなかうまい。
多摩川の河口ではでかい鯉や黒鯛、鱸なんかも釣れるが、今日はあえて小さめのハゼを狙ってみた。
ハゼはダボハゼと云われるくらい簡単に釣れるからな。
「よし、お前たち、やり方は分かるな?」
俺は下の双子の持つ竿に餌を付けてやりながらいった。
「わかるー」
「わかるー」
俺は双子の答えにうなずいた。
「よしじゃあやってみてくれ」
「あい」
「あい」
双子が同じタイミングで針から手を離して、河口の水の中にゴカイ付きの小さめの針を沈めた。
わくわくしながら、ウキを見てるな。
イアンパヌは娘と、乳母役の女性が息子と、シャオはシャンと。
ま、シャオ達は大物狙いみたいでけど。
「きたー」
双子の片方が釣り竿をあげたらハゼがかかっていた。
「やたー」
それをみてもう一人が泣きそうになってる。
「こないー」
俺は泣きそうになってる方の竿をつっと動かしてやった。
「焦るな焦るな、ハゼなら釣れるから」
「ううー」
もう一人の方にも再び針に餌を付けてやる。
子供にはちょっと難しいかもしれないからな。
そんなことをしている間に
「きたー」
と子供が竿を上げると無事ハゼがかかっていた。
ハゼは口が大きく、何でも食いつくので釣りの初心者には最高なのだ。
なんだかんだで入れ食いな感じでハゼは釣れた。
イアンパヌたちはアジを釣っていたようだな。
汽水域でも水温が高い夏は釣れたりする。
シャオ達はでかい黒鯛を釣り上げていた。
「はっはっは、一番大きいね」
「まあ、そりゃそうだろ」
こっちは子供だから魚に海に引き込まれても困るから、小さい魚にしたんだ。
ちなみにハゼもアジも結構うまいぜ。
頭を落として内蔵を取り除きおろしてやればいい。
油が十分あれば天ぷらやフライにして食べるのがうまいんだが、焼いてもうまいし刺し身でもうまい。
まあハゼにも寄生虫がいるので、刺し身はちょっと危ないから、さっと湯をくぐらせて熱を加えてから食うほうが安全だけどな。
「ん、ハゼもアジも美味しいな」
「そうね、小さめだけどこれだけ釣れれば十分よね」
俺とイアンパヌは笑いながら食べていた。
上の娘と息子も新鮮なハゼやアジをうまそうに食っている。
下の双子はまだ乳離していないので、母乳をたっぷりのんでから今はぐっすり寝ている。
来年の春には乳離れはできると思うけど、どんどん育つのは嬉しくもあり、寂しくもあるな。




