夏になったのでみんなで素潜りを習うぜ
春が過ぎて暑い夏の季節になってきた。
俺たち家族はシャンとシャオに素潜り技術を習うために、下の双子はいつもの乳母さんへ預け海に来ていた。
出かけるときに双子に泣かれたけどな。
「とーしゃんいったらやー」
「とーしゃんいったらやー」
俺は双子の頭をグシグシ撫でてなんとか泣き止ませようとした。
「すまん、今日はちょっと我慢してくれ」
でも、泣き止んでくれなかった。
「とーしゃんいったらやー!」
「とーしゃんいったらやー!」
結局泣き疲れて寝ちまったけど、さすがに数え2歳には海で潜水はさせられんよなぁ。
まあ、そんなことも有ったが、今は浜で残りの全員集合状態だ。
「じゃあ今日はよろしく頼むな」
「ははは、任せておきなよー」
笑顔のシャンやシャオは上は何も着ていないが、下にはズボンを履いたままだ。
「その服のままで泳ぐのか?」
「当たり前だよ、こうすれば大きく見えるからサメやシャチにも襲われないね」
海中の白くてでかいものに対しては、サメやシャチもよほどのことがない限り襲ってこない。
彼らとて返り討ちに合うのは避けたいからな。
立って歩いている人間を、月輪熊がよほどのことがない限りは襲わないのと同じだな。
「取り合えず一番大事なのは水を必要以上に怖がらないことだよ。
でも海は危険がいっぱいだから、どんなことが有っても
焦らないで冷静になるのも大事ね」
俺はシャンの言葉に頷いた。
「なるほど、そりゃそうだな」
そして彼は海を指差していった。
「とりあえず最初は立てば足がつく所で潜って水になれるのがいいよ。
水中に長く潜るにはなるべく体を無駄に動かさないことね。
あと頭も出来るだけ空っぽにするほうがいいよ。
余計なことを考えるとすぐ苦しくなるね」
彼の言葉に俺は感心する。
「なるほどなぁ」
とりあえず海に入って肩ぐらいまでの深さの無理のない場所にたってから大きく息を吸って、しゃがみ海の中で目を開ける。
シャンがニコニコしながら手を振ってるが、こっちはそんな余裕はない。
息苦しくなったら立ち上がって顔を海面の上に出した。
「ふはぁ」
シャンが同じように海面の上に顔を出したが、あちらはまだまだ余裕だな。
「まあ、最初はそんなものね。
自信をつけるのはいいけど過信は禁物ね。
適度に緊張感を保たないと命を落とすよ」
「なるほどな、冬の獣の狩猟と同じだな」
「ああ、そうかもね」
イアンパヌや子どもたちはシャオに同じように教わってる。
「海の中キレーだったね」
「うん、姉さん、青くて綺麗だった」
子どもたちも楽しそうだ。
こうやって夏の間に素潜りに慣れて、海底の岩なんかについているアワビやサザエなんかを取れるようになれるといいよな。
魚も悪くないが貝は栄養価が高いしうまい。
それに水に慣れれば海や川の上から釣りや漁をしてるときに、水に落ちたときにも焦らず安全に対処できるようになれるだろう。
もちろん俺は普通に泳ぐことは今でもできるが、子どもたちも水に慣れればそれに越したことはない。
もう一度潜ってみれば俺からちょっと離れたところに、小さな鰯の群れが鱗をきらめかせながら泳いでいたりするのも見える。
ダイビングが趣味だという人間の気持ちも、なんとなくわかった気がした。
海の水面下の美しさというのは、陸とはまた別の趣があるんだな。
ある程度潜る練習をして今日は家にかえることにした。
シャンとシャオはちゃっかりサザエやアワビを取ってるけどな。
俺は双子の娘に裏側がきれいな虹色をした貝を拾っていった。
「とーしゃおきゃえりー」
「とーしゃおきゃえりー」
飛びついてきた双子に抱きつかれる。
「おまえら、いい子にしてたか?」
「してたー」
「してたー」
「よし、いい子にしてたお前たちに
おみやげだぞ」
俺は双子にそれぞれ貝を手渡した。
「わーい、きえー」
「わーい、きえー」
貝を握って嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる娘達。
「とーしゃ、あいあとー」
「とーしゃ、あいあとー」
家を出ていくときは大声で泣いていたが、ニコニコ笑顔が戻ってよかったぜ。
今日はシャンやシャオと一緒にサザエとアワビの煮物だ。
「うむうむ、サザエやアワビは煮ても美味しいな」
「そうね、大きくて食べでもあるし」
「私も早く取れるようになりたいな」
「僕も!」
「大丈夫ね、すぐに取れるようになるよ」
「そうそう、焦ることはないわよ」
みなで笑いながらうまいものを食えば空気も明るくなる。
こうして今日も一日が過ぎていった。




