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彼らは生粋に漁労民族だな

 さて、黥面のシャオとシャンのカップルも、集落に大分馴染んできた。


 水温も上がってきたのでまあ泳げないことはないが、やっぱ水はまだ冷たい。


 だが彼らは普通にアウトリガーカヌーで海に出ては、潜ってアワビやサザエやらエビやらを取ってくる。


 小さな浅蜊や蜆をちまちま集めるよりはずっと効率はいい気はするな。


 しかし、俺達の集落では素潜での漁なんて基本はしない。


 なので今は俺たちの家族ととシャオ、シャンで一緒に川で釣りをしてるところだ。


 下の双子は河原の草の上をはしゃいで走り回ったりしている。


「くさで手足を切らないように気をつけろよ」


「あい、とーしゃ」

「あい、とーしゃ」


 うん、小さい子供は本当に楽しそうに動き回るよな。


 一日中走り回って、疲れたら寝て、また走り回ってを繰り返しても飽きる気配がないのは、やっぱり今まで不自由だったからだろうか?


 さて、俺達はシャンやシャオに、とりあえず釣り竿やら釣り糸やら針なんかの説明を一通りして、なんとかわかってもらえたようなんだが……。


「ああ、退屈だね、君たちはなんで水に潜って魚や貝を取らないんだい?」


「そうね、飛び込んで掴んできたほうが早いわよね」


 俺はいやいやと首を振った。


「冬でも春でも構わずに水に潜れるやつばっかだと思うなよ。

 こうやって釣り竿に糸や針をつけて釣ったほうが安全だろ?

 いろいろと、火をおこしてあたたまる場所が常にあるわけでもないんだし」


 彼はあんまり納得行ってる感じではないな。


「安全、まあ確かにそうかもしれないけどな」


「確かに濡れたままはつらいわよね」


 どうやら彼らにはじっと川岸に座って釣り竿を手に、ウキが動くのを見ながら待つというのは、性に合わないらしい。


 まあ、伊豆諸島には魚を釣れるような川もなかったろうし、鹿や猪のような俺達が狩って食べてる獣もそんなにはいない気がする。


 川と違って海の魚は深いとこにいる奴も多いだろうから、リールなんて無いこの時代では魚を釣るよりも潜ったほうが採るのが楽だったのかもな。


 伊豆諸島に住んでるやつはウリンボを伊豆半島から丸木舟に乗せて島にわざわざ連れて行って飼育したりはしてるが、猪は祭に使うのがメインだしな。


「お、かかったよ」


 彼のウキが沈んで水の中に引き込まれると、彼は釣り竿を立てた。


「おう、なかなか大きいね」


 お、いい感じの大きさっぽいな。


「あんまり無理しないで弱らせたほうがいいかもな」


「はあ、めんどくさいね」


 まあ、銛で突いたりしたら刺されば一瞬だからな。


 釣りはそういう点では魚が針にかかったあとも油断はできない。


「よしよし、よわってきたね」


 さらに竿を立てて、魚を岸に寄せる。


「よし、任せろ」


 俺は麻のタモ網でそいつをすくい上げた。


「おお、大きいねー」


「ああ、大物だな」


 縄文時代は鯉やすずきなどの川魚や河口の魚でも1メートルほどの大きさのやつはザラだ。


 自然が多く、人間が少いというのは、多くの生物には住みやすい環境なんだろうなやっぱり。


「とーしゃーん、ひまー」

「とーしゃーん、ひまー」


 双子が俺に抱きついてきた。


 うむ、流石に双子だけで走り回ってても暇か。


 なんだかんだでシャンやイアンパヌなんかも、ちゃんと釣り上げていたのでそろそろ引き返すことにした。


「どうだ、釣りも悪くないだろう?」


 俺はシャオとシャンのカップルに聞いてみた。


「そうね、たまにはこういうのもいいかもね。

 でも毎日はちょっと我慢できなそうよ」


「そうですねぇ。

 やっぱり魚がかかるまで待ってるというのは

 ちょっと退屈ですね」


 二人に回答に俺は苦笑い。


「まあ、しょうがないな。

 もう少し暖かくなったら、俺達にも海への潜り方を

 教えてくれると嬉しいぜ」


 そう言うと二人は目を輝かせた。


「もちろん教えるよ

 一緒に潜るといいね」


「そうですね、海の中は綺麗ですよ」


 ああ、21世紀の現在と違って、東京湾でもきれいな光景が見れるんだろうな。


 場所によっては珊瑚も見れるらしいから、期待したい。


 しかし、素潜りで周りの景色を楽しむ余裕があるかどうかはまた別の問題だとは思うけど。

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