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まだまだ寒いのに素潜り漁とかすげえな

 さて、新しく加わった男女のペアだが、名前はシャオとシャンというらしい。


 アイヌ風では無く、やっぱ中国風だな。


 会話は意思疎通が出来ないというわけではないが、たまに齟齬が出ると言う感じ。


 イントネーションがまるで違うのだろうな。


「まあ、話が通じるレベルだから問題ないが」


「ナンダ、ナニカモンダイガアッタカ?」


「いや、お前さんと話が通じてよかったなと」


「ソレハソウダナ、HAHAHA」


 ちなみに俺はシャオ、シャンと一緒にアウトリガーカヌーで海に出ている。


 イアンパヌや子供たちは浜辺でアサリを採りながら、製塩のための炉に火をともしてるはずだ。


「ジャア、イッテクルヨ」


 革の手袋を身に着けて、麻の白い衣服を身に着けた女性のシャンが重りの石が付いたに縄の端と、貝をこそぎ落とすための楔石、要するに水中で使う蚤みたいなものと拾った貝などを入れるための籠を持って海へ飛び込んだ。


「ガンバッテ」


「お、おう、頑張ってくれ」


 ”ザッパーン”


 彼女が持っていった縄がスルスルと海に飲み込まれていく。


 彼らは季節に関係なく衣服をまとったまま海に素潜りし、アワビやサザエ、カキなどの大きな貝や伊勢海老やカニのような大きな甲殻類、手づかみで取れる魚などを採ってくることで、食料を得ているのだそうだ。


 火山島である伊豆諸島では植物の恵みはあまり期待できないからそのほうが良かったのだろうな。


 しかし、まだまだ海水温も低くて冷たいだろうに正直すごいと思う。


 縄が落ちていくのがピタリととまってから、しばらくしたのち縄がくいくいと引かれた。


「オ、トレタヨウダゾ」


「了解だ、引っ張り上げるんだな」


「ソウダヨ」


 俺はシャオと一緒に縄を引っ張り上げる。


 これは夫婦海女と呼ばれる方法で、基本夫婦で一緒に漁を行い、夫が命綱を担当し、妻が潜水を行う。


 妻が潜水する際に重りの付いた綱を持ち、その落下により急速に潜る事ができ、上がる際にもこの綱を引っ張れば、船の上の夫が綱を引き上げることで、自力で浮上する場合よりも、潜ったり上がったりする時間が短く出来て、潜水時間を長くできるため、深い場所にも潜ることができるなどのメリットが有るわけだ。


「ハイハイハイハイ」


「おりゃおりゃおりゃ」


 二人で綱を引っ張ると、無事にシャンが水面上に上がってきた。


 籠にはアワビやサザエ、伊勢海老などがたくさん入っている。


「すげえな、色々と」


「ソウカイ?」


「いや、すげえぜ」


「ソレハアリガトダネ」


 俺たちも魚を釣ることや縄付き銛を使って魚をとることはする。


 しかし海の底の貝やエビ、魚などを取ってくることは出来ない。


 そういった訓練をしていないからな。


 この季節には取れないが彼らはウニやナマコなども取って食べているらしい。


 彼らは小さい頃から、そうやって潜って取った海の幸を食べて生活するのが普通だから、普通にできるんだろうけど、俺達は四季で食べるものをかえることで生活してきたからな。


「じゃあ岸に戻ろうか」


「ソウダネ」


「ソウシヨウ」


 俺達は櫂を漕いで砂浜にカヌーをあげる。


「おーい、炉の火は大丈夫か?」


 俺はイアンパヌに聞いてみた。


「大丈夫よー」


 ずぶ濡れのシャンを製塩用の炉のある住居に案内する。


 それといっしょにとれたアワビやサザエ、伊勢海老を焼いて食べる準備をする。


「それは何?」


 イアンパヌが珍しいアワビやサザエ、伊勢海老を見ている。


「ああ、全部食える貝やエビだよ。

 美味いぜ」


「そうなの、それは楽しみね」


 岩の多い地域ではもっと普通に食われているかも知れないが、多摩川河口で砂浜が多いこのあたりではサザエやアワビ、伊勢海老は珍しいからな。


 食べ方はそのまま焼くだけ、後は箸でつまんで食べる。


 イアンパヌは焼いたアワビを食べてる。


「んー、この貝。

 コリコリしてて美味しいわね」


「ん、ああ、アワビは美味いよな」


「アワビっていうのね」


 上の娘は焼いた伊勢海老だ。


「この大きいエビも美味しいですよ、お父さん」


「だろ、うまいよな」


 息子はサザエだな。


「んー、なんか奥は苦いような」


「そこは無理して食わなくていいぞ」


 伊勢海老の旬はもうすぐ終わるみたいだから、食べられて超ラッキーだな。


 キレイな海で育った伊勢海老は火で炙ってちょっと塩を振って食えば最高にうまいぜ。


 浅蜊は砂抜きが必要だから明日だな。

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