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新たな仲間との出会い

 さて、今日俺は息子と一緒に多摩川に魚釣りに来ていた。


 いつも通りに竹の釣り竿に麻の糸を結んで骨の釣り針をつけて、その針にミミズを付けてのんびり釣りをしているのだが……。


「うーむ、なかなか釣れんなぁ」


 俺の方はまだ坊主って、まあこの時代はまだお釈迦さんも生まれちゃいないが、成果はゼロ。


 息子は調子良く50センチほどの鮒を2匹釣り上げて魚籠に入れている。


 この時代の鮒や鯉はかなり大きい、小さいときに鳥に食われる奴も多いんだろうが生き残ったやつは鳥も狙いにくくなるのだろうし、何より人が少ない。


 冬の間は落ちたりするのも怖いから川の魚を釣ることもほとんどしないしな。


「へへ、父さん今日は調子悪いみたいだね」


「うーん、そうだなぁ」


 うむ、子供はちゃんと釣れてるのに、俺は手ぶらで帰るのは不味いぞ。


 そんなことを考えていたら、水面を漂っていたウキがぴょこんと立ち上がった後水中に沈み込んだ。


「おっしゃきたきた!」


 さっと釣り竿を立てると、魚の重みが竿を通して伝わってくる。


「こりゃでっけえぞ、よしよし」


 魚がつかれるまで、俺と魚の根比べのはずだったんだが、ブチッと糸が切れちまった。


「うえ?!」


 といつの間にかに、河口から上がってきていたらしいアウトリガー・カヌーから銛を構えた男が川に飛び込んだ。


「っておい?」


 そして俺が釣り逃した、1メートルもある鯉を銛で仕留めた。


 彼は川から上がってきてニコリと笑うと俺に言った


「ハイ、トレテヨカッタネ。

 ソレカラサムイノデ、アタタマラセテホシイヨ」


 カヌーには奥さんらしい女性も乗っている。


 そして彼等の顔には入れ墨が大きく入っている。


「おや、お前さん達、西から来たのか?」


「ソウダヨ、ヤットヒトニアエタネ」


 顔に入れ墨や赤土で化粧をする習慣は縄文人の特徴の一つでも在るらしい。


 縄文人のルーツと見られる南方のポリネシアやメラネシア人、台湾や揚子江の河口あたりの人間も入れ墨の習慣がある。


 北方のアイヌなどにも在るのだが、それぞれ大きさややる場所が違ったりする。


 入れ墨は呪術的な意味とされるが、本来はサメよけ、獣避けなどの意味合いが有ったようだ。


 で、縄文時代に於いては、関東甲信越より北は北方から来た狩猟民がおおく、それより西は南から来た人間が多いのだが、台湾から琉球列島、九州にかけては朝鮮半島や台湾などの中国系の人間も渡ってきている。


 で、顔面に大きく入れ墨を入れるのは黥面というのだが、このあたりにはほとんどいない。


 九州の方には割と多いはずなんだがな。


「わかった、じゃあ船を岸に上げて、一緒に行こうじゃないか」


「アリガタイネ」


 人種的に違うのか地域性の違いかイマイチ言葉が聞き取りづらい。


 まあ、会話できないよりはいいが。


 俺たちも手伝って船を岸にあげると、黥面の男女を連れて俺はウパシチリのに所に行く。


「ウパシチリ、すまん客人だ」


 ウパシチリも流石にもう炬燵には潜ってない。


「客人ですか?あら」


 そこへずぶ濡れの男が入っていく。


「スマナイガ、アタタマラセテホシイ」


「あらあら、わかりました、どうぞコチラに」


 ウパシチリが男を炉の側に招き寄せる。


 男は服を脱いで火にあたっている。


「んじゃ俺は、あたたまれるように鯉の煮物でも作るか」


「ええ、そうしてあげてください」


 そして俺は息子他の家族をよんでくるように頼む。


「うちに居る家族を呼んできてくれ。

 今日はこっちでみんなで食おう」


「うん、わかったよ父さん」


 それから俺は男に聞く。


「なんでこんな寒いのに飛び込んだんだ?」


 俺の言葉に男は首を傾げた。


「サカナヤカイヲトルナラソレガアタリマエダロウ」


「ああ、なるほどな」


 どうやら彼等は海女と同じように季節に関係なく素潜りで海などに潜って魚や貝を取るのが普通らしい、現代と同じくらいの気温とは言え冬は辛いだろうが、現代においても海女さんなんかは冬でも普通に素潜りで海に潜るからな。


 最も北欧やロシア、中国北部などでは氷が張った水で泳ぐ寒中水泳は健康によいこととされていて、普通に喜んで泳いでいたりもするんだが。


 こうして俺達の集落は新しい一組の男女を迎え入れることにした。


 彼等は元々は伊豆諸島に住んでいたのだが、島の火山が噴火したので、逃げてきたのだそうだ。


「これは歓迎のお祭りが必要ですね」


 ウパシチリが張り切っているが、気持ちはわかる。


 いちいち素性を詮索したり、風習の違うよそ者だからと排斥したりしないのは、この時代のいいところだと思うぜ。


「アリガトウ、アシタマタナニカトッテクル」


 彼もニコリとそう言うが、まあ明日のことは明日のことだ。


「まあ、気持ちはありがたいがいまは温まっておけ」


 うちの家族も集まって、鯉と鮒、それからアク抜きした山菜野草の残りを土器に入れて、塩水で煮込む。

 そして煮込んだらみんなで分け合って食べる。


「ウム、ウマイナ」


「エエ、オイシイデスネ」


 縄文時代どころか石器時代から日本人は鏃に使う黒曜石を得るために伊豆諸島の神津島と本州の間を普通に往復していた。


 箱根や長野の火山地帯と同じように伊豆諸島は重要な資源がある場所だったんだ。


 ただし、この時代は火山の噴火も少なからず有った。


 なので、こういったことも有ったのだな。


 しかし、これを機会に素潜りの技術を教えてもらおうか。


 そうすればアワビやサザエ、カキなども食べられるようになるしな。

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