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春は天気がかわりやすいがそれならそれでいいことも在る

 さて、冬と違って春は海岸で浅蜊をとったり、雑木林で野草山菜の新芽をとったり、川で魚や川エビをとったりして割りと簡単に食料を得ることができる、そのかわり保存しやすい食べ物は少いが。


 何で基本的には2日や3日に一度は食料を取りに行かないといけないが、逆に言えば激しく動き回らなければそこまで必死になって働かなくてもいい。


 無論、食べ物や薪などには、余裕を持たせておく必要はあるけどな。


 現代だと大雪でも台風でも休めないのに、この時代は最低限の衣食住を自分らで得られればいいのだから随分と違う。


 そんなことを考えていたら双子が俺に言ってきた。


「とーさ、ひまー」

「とーさ、ひまー」


 うん、小さな子供にとっては、家の中でじっとしてるのはやっぱり退屈らしい。


「うーむ、ひまか?」


 俺がそうきくと一層大きな声で言ってきた。


「ひまー!」

「ひまー!」


 うむ、大分暇が溜まってるようだ。


「じゃあ俺とにらめっこして勝ったらびゅーんしてやろう」


 二人は満面に笑顔をうけべた。


「あーい、びゅーん」

「あーい、びゅーん」


 ビューンというのは要するに高い高いのことだ。


 これちいさな子供は何故か大好きなんだよな。


 高いところから見える視点が新鮮なのか?


「じゃあ、いくぞにらめっこしましょ、あっぷっぷ」


「あっぷー」

「あっぷー」


 俺は頬を両手で押して変顔をする。


 そして双子たちはすぐ笑ってしまう。


「あははははは」

「あははははは」


 エヘンと胸を張って俺は言う。


「おれの勝ちだな」


 そうすると双子からブーイングが飛んだ。


「とーずるー」

「とーずるー」


「おいおい、お前たちさんざん、俺の顔見て笑っただろ?」


 双子が顔を見合わせて頷く。


「おもろー」

「おもろー」


 そして俺を指差して笑う。


「おいおい、ひでーな」


 そんなことをしていたらワンコがのそりと起きてきた。


 犬も冷たい春の雨に打たれるより、温かい竪穴式住居の中のほうが心地いいのだ。


 ”わんわん”


「わんわん、わんわん」

「わんわん、わんわん」


 ワンコが双子に近寄って双子に向って尻尾を振ると二人して犬をなでに行く。


 犬というのは人間の感情をよく理解して、寂し者には寂しいなりの、退屈なものには退屈なりのその感情を解消させようとしてくれるありがたい存在だ。


 ちなみにイアンパヌと上の娘は夏に向けて二人で麻糸を紡いでいるし、息子は一生懸命に黒曜石を削ってやじりを作っている。


 息子の石器づくりもだいぶ手慣れてきたし、そろそろ、もうちょっと強い弓を作ってやってもいい頃かもな。


 双子はしばらく、ワンコを二人で撫でくりまわしていたが、そのうち腹が減ったのかイアンパヌのところへ向かう。


「かーしゃ、お腹ぺこー」

「かーしゃ、お腹ぺこー」


「はいはい、ちょっとまっていてね」


 そう言ってイアンパヌは二人に乳をあげる。


 まあ人間には乳房が2つ在るから、いっぺんに2人まではなんとかなる。


 しかし、おしっこやうんこまで同時にタイミングで言われても困るんだよな。


 そろそろ、集落の人間と協力してと協力して、河原に厠つまり自然流下式式の水洗トイレを作ってもいいかもしれないな。


 まあどっちにしても雨のひどいときは、ずぶ濡れになるわけにも行かないから、家の中で土器の中にするしか無いけど。


 そんなことを考えて、外を見ると空が明るくなってきた。


「ん、雨がやんだか、これはもしかして……」


 俺が外に出て空を見るときれいな虹ができているのが見えた。


「おーい、みんな、ちょっと外に出てみろー」


 家の中から家族みんなが出てきた。


「ほら、あっちにラヨチが出てるぞ」


「本当ね、綺麗だわ」


「綺麗ですね」


「きえー」


「きえー」


「虹かぁ」


 虹は天然現象としてはなかなか珍しいが固有名詞はこの頃から在る。


 とは言え、アイヌでは虹はいい意味では捉えられないのだが。


「虹は美しいけれども、性の悪いもの」


 とされて、その美しさは人間を惑わすので、虹が見えてもそちらに行ってはいけないのだそうだ。


 虹が見える方はまだ雨が降ってることが多いから、危ないということがわかっていたんじゃないかな。

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