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縄文時代の台風はやばい

 祭りのあと、俺達の住んでいる関東を、台風が直撃している。


 俺には息子がしがみついてるし、イアンパヌには娘がしがみついてる。


 家の外は風雨が吹き荒れて轟々と音を響かせてるし、時々稲光がひらめいて雷鳴が轟いている。


 まあ、縄文の竪穴式住居は背が低いので、それだけ風などの影響は受けにくいのがありがたい。


 台風が神の怒りの現れだと言われれば、信じてもおかしくはないよな。


「とーたん、こわいよー」


「おう、大丈夫だ、でも危ないから絶対外に出るなよ」


「あい、ぜったいでないでし」


 この時代の台風は現代よりも気温が高いのでやばい。


 この時代の平均的な気温は2000年台より僅かに高い、そうすると海面温度もそのぶんだけ上昇する。


 そうするとそれだけ台風に水蒸気というエネルギーを供給しやすくなり、結果として台風がより大きく強くなりやすい。


   台風発生のメカニズムだが、海面に降り注ぐ太陽の熱エネルギーこそが台風発生の源だ。


 台風は熱帯の暖かい海域でしか発生せず、特に太平洋高気圧から吹き出す北東貿易風と赤道越えの南東貿易風などが集まる、低緯度の熱帯収束帯と呼ばれる領域で発生することが多い。


 そういう熱帯収束帯海域では、太陽の強い日射により海水温が高くなっていて、この暖かい海域に接した大気が、気温が上昇すると同時に海面から多量の水蒸気の補給を受け、地球の自転によって生じるコリオリ力と呼ばれる力が作用すると渦を巻き始め、強い上昇流を生じさせる。


 この上昇流によって水蒸気は上空に運ばれ冷やされると水となって凝結し、多数の積乱雲を発生させる。


 これがいわゆる台風の雲だな


 で、この雲のかたまりができる時に出る多量の凝結熱が上空を暖めて気圧を下げ、熱帯低気圧が形成され、それが大きくなると台風とかハリケーンとかサイクロンと呼ばれるものになるわけだ。


 南でできた台風がなぜ北に向かってくるかだが、全く風がない場合は、地球が丸いことによるコリオリ力の緯度による違いから北西に進む、その他には太平洋高気圧のまわりを回る気流に乗ってくるとか、日本列島を縦断するようなコースのときは自転の影響の偏西風に流されてるからなどいろいろな要素が関わってくる。


 なんで台風の進路を予想するのは実は簡単じゃなかったりするわけだな。


 この時代には当然気象衛星などというものはないし、気象観測台もない。


 百葉箱もない。


 しかし、音を声としてきく能力に長けた縄文人は台風の接近などを波音などで知ることができる。


 だからある程度燃料の薪や食料をかき集めておいて、後は家にこもって台風がすぎるのを待つわけさ。


 アパートの方は念のため雨戸を全部閉めたし、まあ、大丈夫だろう。


 縄文人の集落は小高い丘の上にあるから風はもろに受けるが、川が氾濫してもそれに巻き込まれることもない。


 地震などによる津波や台風などによる洪水、列島が暖かくなった当初は氷河の融解による氷河湖決壊などの水による災害を度々経験した結果が今の場所に住居を構えさせているわけさ。


 自然の力の前に人間の力なんてちっぽけなものだから、無理に逆らおうなんて考えずにおとなしく穴蔵の中で過ごして災害が過ぎ去るのを待ったほうがいい。


 台風一過の翌朝、それはきれいに晴れ渡っていた。


「よし、もう大丈夫だろうし畑の様子を見に行くか」


「ええ、そうしましょう」


 下の双子の面倒はいつもの女性に任せ焼き畑に向かう。


「あー、やっぱりなぎたおされてるか」


「そうね、でもまあ、そのうち立ち上がってくるはずね」


「そうなの?」


「そうよ、倒れても倒れたままじゃいないのよ」


「すごいね」


「すごいでし」


 麦や陸稲などの穀物がなぎ倒されているが低地での畑と違ってこの辺りは水はけが良いので浸水して腐りそうなものなどはない。


 ぐちゃぐちゃに荒れてなぎ倒されているように見えるが、麦などはきちんと自力で立ち上がってくる。


 そうでなければ、とうの昔に絶滅してるだろう。


 穀物というのは意外と丈夫なのだ。


「まあ、畑の作物の収穫はまだちょっと先だ。

 今日は魚でも獲りに行くか」


「そうね、そうしましょう」


 多摩川はまだ増水してるだろうし、海もちょっと怖い。


 となるとまた呑川かね。


 場合によっては鹿でも狩りに行かないといけないかもな。


 まあでも食料を得る手段が色々あるのはたすかる。


 一つがダメでも、他の方法を取ればいいわけだからな。

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