親を失った子供はみんなで育てるのがこの時代のやり方さ
この時代、人間に死は突然おとずれるものだ。
津波で一家が死んだ家には、乳母に預けられた赤ん坊が残っていた。
「この子はしばらく、私のもとで面倒を見ますよ」
そう言って残された赤ん坊は、ウパシチリが預かることになった。
流行り病などで、両親が死んだときなどは、基本は村長が預かり、それに対して乳が出る村の女が育児を助けるのが、この時代のやりかただ。
「幼子を残して親が亡くなることも、ありますからね。
幼い子供が死ぬことのほうが遥かに多いですが」
育児を助けるといえば、それなりの大きさになった子供も、母親と同じく、子供をおぶったりして面倒を見る。
うちの娘も、イアンパヌと一緒に、子供を一緒に背負ってあやしてる。
そういう状態では、女は育児に専念せざるを得ないので、男は食料集めを頑張るしか無いってわけだ。
地震の津波で、竿やらなんやらは流されたので、もう一度作り直しだが、道具は失っても作り直せばいいが、命はそうは行かないからな。
「今日は呑川にいくか、あっちなら小さくても魚はいっぱいいるからな」
「あいでし」
俺は息子と一緒に、魚籠とタモ網を持って、小川である呑川に向かう。
多摩川は、奥多摩からずっと流れてきている大きな川だが、呑川は川幅も小さく、子供が水遊びするような場合でも、比較的安心していられるような川だ。
「とうしゃん、さかなしゃんいたー」
「おう、鮒だな、頑張って捕まえるんだぞ」
「あい、がんばるでし」
ま、この時代は鮒でも結構でかい。
そこまで警戒心は強くないから、捕まえるのもそんなに難しくはない。
息子が網を川に入れて必死になって、鮒をすくおうとしている。
俺がやってすくっちまえが話ははやいが、子供にも少しずつ食料集めをやってもらって、最悪一人でも、生きていけるようになってもらわないとならないしな。
そんなことにならないのがもちろん一番だが。
「とーしゃ、とれたー」
「おお、とれたな」
息子が笑顔で鮒の入ったタモ網を持ってきた。
「えらいぞ」
「あい、ぼくがんばった」
俺は息子の頭をグシグシなでてやる。
それから持ってきたナイフで、活け〆して血抜きも行う。
鮒と言うと現代では食べるというイメージはあまりないが、この時代では結構普通に食ってる。
同じ淡水魚のコイと比べると脂質は少なく、タンパク質はコイを上回るくらい多い。
ビタミン類ではビタミンB1が、非常に豊富で魚類の中でもトップだったりする。
結構体にいい食べ物なんだぜ。
「よーし今度は父ちゃんに任せろ」
「あいでし」
俺は息子からタモ網を受け取って、川の中を泳いでる鮒をみる。
要はでっかい金魚すくいのようなものだ。
「うりゃ!」
と、鮒をすくおうとしたが失敗しちまった。
「あー、にげたでし」
「おう、すまん失敗だな」
まあ、多少の失敗はつきものだ。
なんだかんだで俺達は6匹の鮒をすくい上げた所で魚すくいを切り上げた。
「よし、帰るぞ」
「あいでし」
俺は息子と手を繋いで村に帰った。
そしてウパシチリのところへ向かう。
「おーい、鮒を取ってきたからみんなでくおうぜ」
「あら、おかえりなさい、お疲れ様です」
ウパシチリやイアンパヌ、手伝いに来ていた村の女性が、こっちを向いたが、皆赤子を抱えてるので料理するのは難しそうだな。
「おし、んじゃついでに、料理もするぞ」
俺は子どもたちにそういった。
「あいでし」
「お父さん、私も手伝う」
娘がそう言ってくれたので、素直に手伝ってもらうことにする。
「ちゃんと手を洗えよ」
「わかりました」
「あいでし」
皆で手を洗った後、まず鱗をナイフで掻き取る。
魚の表面のぬめりもちゃんととらないと、いわゆる生臭さが取れないのでちゃんと取る。
適当な大きさにぶつ切りにして、水とドングリ醤、要するに大豆の代わりにドングリの粉を丸めて塩漬けにして、発酵させた味噌のようなものに、葉生姜と山椒をくわえて煮る。
「いいにおいでし」
「おう、うまそうだな」
「はい、お父さん」
鮒の身がちゃんと煮えたら、皆で椀によそって食べる。
「頂きます」
「いただきます」
「いただきゃす」
「うん、美味いな」
きれいな小川に住んでる鮒というのは、思われれているほど泥臭くも生臭くもない。
川が綺麗であるというのはやはり素晴らしいな。
親をなくした子供だが、ウパシチリが様子を見て、赤子が一番なついてる乳母役の女性のもとに、子供として迎えられることになった。
子供をほしい女性と、親が必要な子供が、うまくマッチングしてよかったな。
虐待なんてこともしないだろうし、子供も安定して乳を与えてくれる母親役の女性が居たほうがやはりいい。
この時代には保育園や孤児院、学校はないが親や子を失ったものを村長がうまく結びつけて暮らしている。
同じ村の人間は、ある意味、親戚家族のようなものだから、よその家族だからというようなこだわりもないしな。




