みんなで潮干狩り
さて、今日は生まれたばかりの下の子供は、乳母をしてくれてる女性に預けて、海へ残りの家族全員で潮干狩りに来てる。
息子の名前は”アシリアイノ”にした。
意味は「新しい人間」だ。
とはいえ、やっぱり普段は名前は呼ばないわけだがな。
娘は以前と同じように麦わらで編んだ帽子に、麻のワンピースっぽい服を着て、わらで編んだ草履をビーチサンダル代わりにして砂の熱さから足を守っている。
イアンパヌも同じような感じだが、ワンピースに刺繍をしてるのが違うな。
俺と息子はふんどしに簡単な日よけの布を羽織ってるだけだ。
みんな竹で作った水筒を麻ひもで肩からかけて、背中には麻で作った小さな背負袋を背負ってる。
息子は海を見て目をキラキラさせてるな。
娘のときと一緒でまあ、初めて海を見れば感動するよな。
海をゆびさして俺に向かって嬉しそうに言う。
「とーしゃん、かーしゃん、水がいっぱいー」
娘が息子の手を引いて。
「うん、水がいっぱいだよ。
でも冷たいから気をつけてね」
「ちべたい?」
「そう」
それから息子は恐る恐る水に足をつけて脚を引っ込める。
「あう、ちべたー」
「うふふ、冷たいっていったでしょ」
「あい、ちべたかったでし」
えらいえらいと娘は息子の頭をなでている。
「おまえら、波に気をつけるんだぞ。
よし、んじゃみんなで貝を探そうか」
「ええ、そうしましょう」
「はい、お父さん」
イアンパヌと娘はこくと頷く。
息子は首を傾げてる。
「かいーどこ?」
そして周りをキョロキョロ見渡した。
「うふふ、貝はね、この砂の中にいるのよ」
娘がシャベルで砂を掘ってみせた、しばらくするとアサリが出て来る。
「かいしゃん、いたー」
姉が掘った穴から出てきたハマグリを嬉しそうに指差す息子。
「じゃあ、あなたもやってみて」
「あいでし」
小さな手で一生懸命に息子は砂を掘ってる。
「かい、いたー」
掘った先を指差して喜んでる息子
「うん、いたわね」
嬉しそうに掘った場所からアサリを取り出そうとして、転ぶ息子。
「う、ううう、あーん」
「おーい、大丈夫か?」
「あらあら、大丈夫?」
イアンパヌは顔を砂だらけにして泣いてる息子をだきあげて
頭をなでてやると。
「ほらほら、なかないなかない」
「あーん、あーん……あー……」
子供は頭が重いからよく転ぶが、やっぱり息子はちょっとどんくさい気がするな。
「とーしゃ、あい」
「おお、ありがとな」
娘が渡してくれたアサリを俺は受け取って、土器に入れる。
ぐしぐし泣いていた息子も泣き止んだみたいだ。
「ほれ、お前さんが見つけた貝だ。
よくやったな」
息子は貝を手に取ると笑った。
「あい、とーしゃん、ぼくがんばた」
「おう頑張ったな、えらいぞ」
そんな風に砂をほって貝を拾い集め、ついでに流れ着いた海藻も拾い集めれば、何時間かすれば土器にいっぱいに取れた。
貝は生で食うと良くないものが結構あるうえに、砂抜きが必要だったり、熱を加えないと口を開けないものも多いので、土器が開発されるまではあまり食べられていなかった、土器の開発というのはじつはすごいものだったりするのだ。
「今日もいっぱい取れたな」
「ええ、十分ね」
「はい、いっぱいとれました」
「あい、いっぱー」
俺はみんなに言った。
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「そうしましょう」
「はい、おとうさん」
「あい、とーしゃ」
俺は娘と手を繋いで、イアンパヌは娘をだきあげ村に帰った。
「おかえりなさい」
下の子供達に面倒を見てくれていた女性が迎えてくれて。
双子の娘達は寝ているようだ。
「ああ、娘達を見てくれていてありがとうな」
「いえいえ、うちの子は死んでしまいましたからね。
こうやって抱いていると慰められる気がします」
「ああ、またよろしくな。
一緒に飯食っていくか?」
「はい、そうさせてください」
乳児の三人に一人は死んでしまうからこうやって、他人の子供の面倒をみることで慰められることも在るのだろう。
しかし、母親一人で面倒を見るのは大変なので、乳が出る女性が一緒に面倒を見てくれるのはありがたいことでも在る。
もう少し乳児死亡率を下げられればいいのだが、衣類や医療が十分ではない時代だから、正直に言えば難しいのが実情だ。
海水でアサリと海藻、其れに残っている野草を煮て、其れを石のお椀に入れて、各自に手渡す。
「ではいただこう」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきあしゅ」
「では私もいただきますね」
「ふう、うまいな」
調味料など殆どない時代だが海がきれいなのもあって、ドブっぽい嫌な匂いなどはしない。
だから、安心してくえるんだ。
今日も大過なく過ごせたことに感謝しよう。




