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この石には意志がある!  作者: 一狼
第2部 「猛女」 / 第5章 Alice神教教会・対決編
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084.両親との再会

「東大陸にS級モンスター、極めつけは迷宮大森林……なんと、まぁ……とても信じられん話だが、事実なんだろうな」


「ジルちゃん、凄い冒険をしてきたのね」


 ジルがこれまでの出来事をおおむね説明しを得ると、親父さんは半ば呆れ、母親は相変わらずほんわかした雰囲気でジルを褒め称えていた。


「はぁ、規格外な娘だと思っていたが、まさか世界に数人しか居ないS級冒険者になった上に、一気に大人になって帰ってくるとは。お前は何処まで俺を驚かせれば気が済むんだよ」


「う~んー、驚かせるつもりはなかったんだけどねー。ほぼ成り行きー?」


「まぁいい。それで、ジルはこれからどうするつもりだ?」


「うんー、アル君の勇者としての活動のサポートがメインになるねー。けどその為には、“勇”の枢機卿のおばーさんが邪魔なんだよねー」


「Alice神教教会の勇者担当と言われる枢機卿か……」


 Alice神教教会の名を出す親父さんは苦い顔をしていた。


 何せほぼ拉致同然にアルベルトを連れて行ったんだからいい顔をしないのは当然だ。


 連れて行かれた当初はアルベルトは年に1回は帰省させると言っていたが、最初の1年に1回戻ってきただけで、この2年間は一度もファルト村に戻って来てないらしい。


 とは言え、世界に信者を置くAlice神教教会に表立って逆らえるはずも無く、泣き寝入りをしなければならなかったのだ。


 だがそれもジルか来たからにはそれも今日で終わりだ。


「今のアル君を縛っているのは、ファルト村が人質になっている事だねー。まずはそれを解放するのー」


「ちっ、俺達がアルベルトの足かせになっているってのか。よし、分かった。俺達は何をすればいい?」


「荒事や裏方仕事は私がやるから大丈夫ー。おとーさんたちは今まで通りの生活をお願いー。急に変な事をやると、見張りに気が付かれちゃうからー」


「そ、そうか」


 親父さんはヤル気だったのに気を削がれて、ちょっとたじろいでいた。


 まぁ、ジルの言う通りこの村にはおそらく勇人部隊の見張りが付いているから、変な行動をして目を付けられたらこっちの行動にも支障が出るし。


 と言うか、ジルがファルト村に来た時点で既に目を付けられているからな。


 折角、やつらの目をジルに引き付けたのに、親父さんへ向いて怪我でもされたらジルが引き付けた意味が無くなるし。


「そう言えばおとーさん、狩りに行かないで畑仕事してたみたいだけどー?」


「……ああ、半年前に狩りの途中で膝をやってしまってな。今はひざに負担にならない程度に畑仕事を手伝っている」


「おとーさんー、ちょっと診せてー」


「あ、ああ。幾らジルでもこれはどうにもならんぞ。治癒魔法を掛けても治らなかったからな」


 ふむ、治癒魔法での治療済みか。


 取り敢えず俺は【スキャン】【解析】のスキルを使い、親父さんの膝を診察する。


 あー……、なるほどな。これじゃあ普通に動くには問題は無いが、急激な運動には耐えられないだろうな。


 膝の骨の一部が欠けたようになっており、膝の関節の噛み合わせがずれてしまっていた。


 おそらく治癒魔法の際に骨の接合が歪になってしまったのだろう。


 骨折などの場合は、治癒魔法はあくまで繋げるだけで形までは治らないからな。


「(どうー? きゅーちゃんー?)」


『ああ、問題ない。【リバースキュア】』


 このスキルは、骨折などのような体の機能を前の正常な機能へ戻す治癒魔法だ。


「お、おお……!? な、治った。治ったぞ!」


「おとーさんー、良かったねー」


「ジルちゃん、ありがとうね。お父さん、狩りが出来なくなって気落ちしてたのよ。特にジルちゃんもアルちゃんも居なくなって寂しかったから尚更にね」


 ああ、そりゃあ可愛がっていた子供が2人も居なくなって、今まで頑張っていた仕事も出来なくなれば気落ちもするわな。


「ふはははっ! よし! 早速狩りに行くぞ! っと、その前に村長に狩りが出来るようになったと報告しなければ。いや、その前にジルが戻ってきた報告が先か?」


「おとーさんー、落ち着いてー」


 親父さん、急に元気になったよ。思ったよりも落ち込んでいたんだな。


「そうですよ、あなた。アルちゃんの事も村長さんと相談しなければならないでしょう?」


「む、そうだな。教会……王都教会への対応も考え直さなければならないか」


「あー、おとーさんは先に村長さんの所へ行って話をしててー。私は取り敢えず、怪しまれない程度に村の様子を見ながらどの程度の見張りが付いてるか確認してくるねー。あと私にとっては20年ぶりになるしねー」


「分かった。確認とは言え、無茶はするなよ?」


「大丈夫だよー」


 親父さんは村長へジルの報告へ向かい、ジルは20年ぶりになる村を見て回る。


「(あまり変わってないねー)」


『そりゃあ、ジルにとっては20年でも、こっちじゃまだ3年程度だからな。都会とは違い村じゃ急激な変化はないだろうさ』


 ジルは懐かしさのあまり周囲を見回すが、その様子を村人は訝しげに見ていた。


 まぁ、今のジルは少女の頃の面影はあるものの、少女のころと比べ天と地ほどの差がある。


 立派に成長した大人の冒険者の姿を見てジルだと分かれと言う方が無理だろう。


「(きゅーちゃんー、どうー?)」


『ああ、居るな。間違いなく、この村を見張っている奴が』


 【気配探知】【索敵】の効果範囲を村の外まで広げて、周辺の様子を探ると2人ほどの気配を村の外に見つけた。


 因みに【森羅万象】の方で【気配探知】と【索敵】を使えば、相手の詳細まで見る事が出来るが、今は【百花繚乱】の方のスキルでも十分だ。


 情報(・・)では、今のファルト村を注視しているのは勇人部隊だけだからな。


『問題は、どうやって対処するかだが……』


「(そこはきゅーちゃんの頭脳に期待しているよー。きゅーちゃん軍師さまー)」


『いや、だから軍師呼びはやめろよ』


 迷宮大森林で生き残る為に様々な策などを巡らせてきた俺を、ジルやお気に入りの皆は何故かいつの間にか俺を軍師と呼び始めたのだ。


 俺はただの転生者で軍師と呼ばれるほど頭がよくないんだがな。












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