079.逆恨み
「貴女が黒幕なら話は早いわねー。大人しく捕まってもらうわよー」
「冗談じゃないわよ。ここからが面白いところでしょう。あたしはね、幸せな人が不幸に陥っていく様を見るのが好きなの。
ああ、幸せに暮らしていた村に突如襲い掛かるゴブリンの災い。気が付けば村一番美しいと言われていた女性もいつの間にか居なくなり、ゴブリンの慰み者に。じわじわと不幸が降りかかる村に希望はあるのか。
なーんてね。全部あたしの所為なんだけど。シークス村の人たちいい顔してたわ~」
「ビューテさんが居なくなったのも貴女の所為だったんだねー」
村長に他に何か変わったことがなかったかと聞いた時、1回目のゴブリン騒動があった後に村人の女性1人――村一番の美人と言われていたビューテが居なくなったと聞いていたが……
「そうよ。だって幸せそうにしてたんだもの。あたしのゴーリキ――このゴブリンキングね。ゴーリキに犯されて泣き叫ぶ様はチョー気分が良かったわ」
コーリンは自分を担いでいる大柄のゴブリンを愛おしそうに撫でては、胸糞悪い言葉を次々吐いていく。
「なんでそんなことするのー?」
「なんで? そんなの決まっているじゃない。それこそ何であたしだけ不幸な目に遭わなければならないの?
あたしのスキルは【ゴブリンファミリア】って言うの。このスキルの所為であたしはどんな目にあったのか貴女に分かるって言うの!?」
【ゴブリンファミリア(女性限定)】
このスキルはゴブリンを使い魔にするスキルなんかじゃない。
ゴブリンに犯されることにより、ゴブリンの子を産み母となり、ゴブリンを使役するスキルだそうだ。
コーリンが語る不幸は、ありきたりと言えばありきたりだが、彼女にとっては自分だけがと思うほどの不幸でもあった。
スキル名からして周囲の人に忌諱され、それでもスキルを使いこなそうとゴブリンに言う事を聞かせようとして逆に犯され気が付けばゴブリンの子を孕み、そこで【ゴブリンファミリア】の本当の力を理解する。
そこで何で自分だけこんな不幸な目に遭わなければならないのか。
コーリンは次第にそう思う様になり、最終的には自分も不幸なら周りも不幸にならなければズルいじゃないかと、自分で生んだゴブリンに幸せそうにしている人たちを襲わせ不幸な目に遭わせることに喜びを感じるようになったと。
でもそれって……
「ただの逆恨みじゃないのー」
「逆恨み? 違うわよ、正当な権利よ。だってあたしだけ【ゴブリンファミリア】だなんて嫌われるスキルを授かるのって不公平でしょ?」
『あー、ジル。こいつに何を言っても無駄だな。この手の奴に理屈は通じないんだよ』
「(んー、でも自分勝手すぎるよー。不幸なのが自分だけだと思い込んでいるのもムカつくー)」
『まぁな、悲劇の主人公ぶっていても、やっている事は犯罪行為だからな』
ジルが黙っていることに気を良くしたのか、コーリンは聞いてもいないことをべらべらと話し始めた。
「ねぇ、知ってる? シークス村を襲っていたゴブリンは村一番の美人が生んだゴブリンなのよ。まさか村人も村一番の美人が生んだゴブリンに襲われているとは夢にも思わないでしょうね」
なるほど。シークス村を襲うゴブリンの数が20匹くらいだったのと、襲撃期間に間があったのはビューテに生ませていたからか。
つーか、話を聞いているだけでムカつくな。
「分かったー。もういいよー。貴女の不幸自慢は十分よー。自分だけが不幸になった悲劇のヒロインを気取るつもりー? 不幸になっている人なんて他にもたくさんいるわよー」
「不幸になったことも無い人が上から目線で偉そうに言わないでよ」
「私が不幸になったことが無いとでもー? なら言うけどー、私の20年を返して欲しいのー」
まぁ、育ち盛り、遊び盛り、そして人生の中で尤も重要とも言える10代後半~20代前半をジルは迷宮大森林の中でただひたすら修行に励んできたのだ。
ある意味、不幸とも言えるだろう。
ジルだってまったく不満が無いわけじゃないのだ。
「……は? あんた何を言っているの?」
「ほらー、貴女だって私の不幸を理解してくれないー。結局あなたのやっている事はただの八つ当たりなのよー」
「なにを訳の分からない事を……! ゴーリキ! やっておしまい! この女に貴方の力を見せつけるのよ! ああ、そうそう。殺さないで生かしておいて貴方の子を産む雌豚にしましょう」
そう言いながら、コーリンはゴーリキから飛び降り後方へ下がって指示を出す。
名称:ゴーリキ(ネームド個体)
種族:ゴブリンキング(ユニーク個体)
属性:火・土
状態:興奮
脅威度:A
ほぅ、ただのゴブリンキングじゃないって訳か。
幾らキングと冠していようが、確かゴブリンキングは脅威度C程度のモンスターだったはず。
ネームド個体にユニーク個体がゴーリキを脅威度Aまで引き上げているんだろうな。
「ゴーリキはあたしが最初に生んだゴブリンよ。そこからゴブリンキングになるまで育て上げた最強のゴブリンなの。貴女程度の冒険者が敵うようなゴブリンじゃないのよ」
ジルは最初は様子見で、ゴーリキの繰り出す攻撃をぼーちゃんで捌きながら距離を保っていた。
それを見たコーリンは、ジルがゴーリキに手が出せないと見たようで上機嫌で語っている訳だ。
「(脅威度Aと言っても、所詮はゴブリンなんだねー。この程度なら問題は無いねー)」
『とは言っても油断はするなよ。一応ユニーク個体だからな。もしかしたら隠し玉があるかもしれないからな』
「(了解ー)」




